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WBAスーパーライト級チャンプの演技力

林壮一ノンフィクションライター
12日公開『負け犬の美学』で好演した元世界王者のソレイマヌ・ムバイエ(写真:Shutterstock/アフロ)

 元WBAスーパーライト級チャンピオン、ソレイマヌ・ムバイエ(43)。戦績42勝(23KO)6敗1分け。現役時代のニックネームは“ザ・センセーション”。国籍はフランス。

 2017年6月10日の試合で無名選手に判定負けを喫したムバイエが、この程スクリーンで“カムバック”を果たした。明日、10月12日(金)から日本で公開される仏ボクシング映画『負け犬の美学』(邦題)で、若きチャンピオン役を演じている。

 ロベルト・デュランが目立たないように『ロッキー2』に出演したのとは違う。ムバイエは49戦13勝33敗3分けながら現役に拘る45歳の主人公に立ちはだかる“壁”のような役柄を演じている。ムバイエが発するボクシングの厳しさを伝える台詞は胸に響く。

 ムバイエが担当したファイトシーンの撮影は、リハーサルも振り付けも無し。監督と脚本を担当したサミュエル・ジュイは、リアリティーを重んじ「ボクシング映画なのだから、本気でパンチを打て」と命じたそうだ。

 元世界王者が俳優を相手にするのだから、ムバイエにとってリング上の撮影は容易かったであろう。が、彼の素早い足の運びと、パンチのスピードがこの作品に深みを与えたことは間違いない。

 ムバイエは「本作が映画デビュー」と記されているが、今後も演技を続けるのだろうか。セネガルのルーツを持つムバイエは、セネガル語とフランス語の他に、イタリア語とスペイン語もマスターしているそうだ。語学力を武器に国際派俳優を目指すのも面白い。彼は本作で、赤井英和の『どついたるねん』のような好スタートを切ったように見える。

 

 黒い肌の元世界チャンプたちが引退後苦しんでいる様を長年にわたって見続けて来た私は、ムバイエのセカンドキャリアが汚れないことを願ってやまない。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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