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最強王者に流れるDNA

林壮一ノンフィクションライター
五輪2連覇を達成し、プロでも2階級を制したクラレッサ・シールド(写真:ロイター/アフロ)

 17歳の若さでロンドン五輪の金メダリストとなり、4年後のリオでも2つ目の金メダルを獲得したクラレッサ・シールド。2016年11月にプロに転向し、目下6戦全勝2KO。4戦目で女子WBC & IBFスーパーミドル級、6戦目で女子WBA & IBF ミドル級タイトルを獲得した女子ボクシング界の第一人者である。

 シールドがボクシングを始めた11歳の頃から、彼女を指導したのはジェイソン・クラッチフィールドという名の元6回戦ファイターだ。ジェイソンはKRONKに所属した選手であった。つまり、トーマス・ヒットマン・ハーンズ、ミルトン・マクローリー、マイク・マッカラム、マイケル・モーラーらと共に、エマニュエル・スチュワードの教えを受けている。

 ジェイソンは7勝(5KO)1敗1分けで引退し、電気技術者として生計を立てながらボランティアでボクシングの指導を続けて来た。KRONKで徹底的に叩き込まれるのは、バランスだ。生前、スチュワードは口を酸っぱくしてバランスの重要性を説いた。

 シールドが連打の際に見せるバランスの良さ、そして気の強さは、ハーンズを彷彿とさせるものがある。1995年、シールドはKRONKの本拠地であるデトロイトに程近いフリントで誕生した。ボクシング経験のあった父親は、シールドが2歳から9歳だった頃まで、囚人服を身に纏っていた。シールドは母親、妹と一緒に生活保護を受けながら成長した。  

 こんなバックグラウンドも「貧民窟を抜け出してみせる」と闘ったハーンズを思い起こさせる。KRONKの遺伝子を、シールドがどのようにリングで見せるかに期待したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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