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アルゼンチン人コーチが感じるJリーグの危険性

林壮一ノンフィクションライター
4月30日、今シーズン初勝利を飾ったアルディージャ、渋谷監督(写真:田村翔/アフロスポーツ)

4月30日に行われた<さいたまダービー>は、J1最下位の大宮アルディージャが首位の浦和レッズを1-0で下し、今季初勝利を挙げた。大宮サポーターにとっては待ちに待った貴重な白星だが、狂喜乱舞するファンの姿に違和感を覚えざるを得ない。

8試合を終えて1分け7敗。どこの世界に、この成績でリストラされないプロの監督が存するのか?

2014年終盤、J2降格圏から抜け出せなかったアルディージャは、当時の監督、大熊清を解任し、コーチの渋谷洋樹に指揮を取らせた。尻拭いを押し付けられた渋谷は、11試合で5勝1分5敗と奮闘したがJ1に踏みとどまることはできなかった。

本稿に何度もご登場頂いているプロコーチ、セルヒオ・エスクデロ(アルゼンチン)にコメントをもらった。

「いくらシーズン途中からバトンを受けた監督でも、アルゼンチンなら2部リーグ行きとなった時点で責任を追及されます。勝負の世界に生きるプロですから、それが当然です。今シーズンにしても、開幕から8試合やって1試合も勝てなければ間違いなくクビですよ。周囲が許さない。社会全体が許さないです」

アルゼンチン人指導者の目には、和式サッカーの温さが牧歌的に映る。

エスクデロがJの指揮を取るのは面白い
エスクデロがJの指揮を取るのは面白い

「日本の場合は、契約満了まで面倒を見る部分がありますよね。ここが弱い点です。結果を出せなくても、生活できちゃう。だから危機感が無く、いつまで経っても、プロの厳しさが浸透しないんですよ。ラモスさんが岐阜の監督をしていた時だって、5連敗でクビになったでしょう? 渋谷監督は何敗しているんですか」

一方、首位にいなから、最下位に敗れたレッズの戦いぶりをエスクデロはどう見たか?

「レッズはACLグループステージを突破して、中3日での試合でしたね。ACLに気持ちが入り過ぎていたから、手を抜いてしまったんじゃないかな、と思います。アルディージャの勝利はたまたまでしょう。

ただ、レッズは毎年、いいところまではいくけれど勝ちきれない。去年、ナビスコ(YBCルヴァンカップ)杯は優勝しましたが、結局、最後の最後でリーグ王者にはなれなかった。そういう精神面の脆さがあります。今回のアルディージャ戦も、その表れだと言えなくもないですね」

エスクデロは、結んだ。

「オファーがあれば、大宮アルディージャの監督をやってみたいですね。エルサルバドルでのコーチ経験も絶対に生きると思います」

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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