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「グレタさんは反ユダヤ主義」圧力団体やドイツの歪んだイスラエル擁護、米国のユダヤ人は停戦要求 #ガザ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
グレタさん(左)のパレスチナ連帯の発言に憤りマイクを奪おうとする男性(写真:ロイター/アフロ)

 国際社会での批判が高まっているイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃。しかし、欧米ではイスラエル批判に「反ユダヤ主義」のレッテル張りをしてバッシングする動きもある。世界の若者達に強い影響力を持つ、環境活動家グレタ・トゥンベリさんも、ガザ攻撃に明確に反対しているため、「反ユダヤ主義」のレッテルを張られている。

〇グレタさんがパレスチナの人々への連帯を呼びかける

 今月12日、オランダのアムステルダムで行われた温暖化防止を訴える大規模な集会で、パレスチナ人とアフガニスタン人の女性達と共に壇上に立ったグレタさんは「私たちは抑圧されている人々や自由と正義のために戦っている人々の声に耳を傾けなければなりません。国際的な連帯なしに気候正義はあり得ません」と発言。これに憤った男がステージに乱入し、グレタさんからマイクを奪おうとしたが、すぐに止められ、グレタさんは怯まずスピーチを続けた。

 グレタさんは、この間、ガザ攻撃に反対する姿勢を明確にしている。それは、彼女の行動原理の一つとして「気候正義」、つまり、温暖化を進行させてきたのは先進国や大人達であるのに対し、その被害を被るのは途上国や子ども、未来の世代であるという不条理に抗議するという考え方があるからだろう。圧倒的な立場の差と不正義への異議として、グレタさんがガザの人々に連帯を表明したことは、自然なことだと言える(関連記事)。

〇ユダヤ系圧力団体がグレタさんを批判

 グレタさんの発言に「反ユダヤ主義」のレッテルを張り、批難したのが、ユダヤ系圧力団体のサイモン・ウィーゼンタール・センターだ。米国ロサンゼルスに本拠地を置く同団体は、ユダヤ人に対する差別を監視し抗議を行う団体で、近年では、東京オリンピック(2021年)の開会式・閉会式のショーディレクターを務める予定だった小林賢太郎氏が過去のコントでホロコーストを揶揄するような発言をしたとして批難。小林氏は解任された。そのサイモン・ウィーゼンタール・センターは、上述のアムステルダムでのグレタさんの発言を受け、今月13日に声明を発表。「反ユダヤ主義をやめろ」「発がん物質のような有害な汚染を広げている」とグレタさんを批難した(関連情報)。

 反ユダヤ主義にしても、他の人種や民族への差別にしても、許されないものだという点において、疑う余地はない。ただ、サイモン・ウィーゼンタール・センターは、イスラエル支持に偏り、同国によるパレスチナへの占領や軍事作戦への批判まで「反ユダヤ主義」とレッテル張りする傾向がある。また、イスラエル政府自体が、ガザ攻撃への批判に対し「反ユダヤ主義」のレッテル張りを盛んにしているのだ(関連情報)。

〇パレスチナ人の虐殺を肯定?ドイツの迷走

 こうした「イスラエル批判=反ユダヤ主義」という決めつけは、かつてナチスの下で、ユダヤ人を迫害し、大量虐殺したドイツでは特に効果的でイスラエル批判はタブー化されている。グレタさんの呼びかけで始まった若者中心の国際的な運動「Fridays For Future(未来のための金曜日)」のドイツ支部は、グレタさんのガザ攻撃反対の主張に反発し、「距離を置く」と表明している(関連情報)。

 ドイツのショルツ首相にいたっては、「イスラエルが国際人道法を遵守していることは間違いない」とあからさまに擁護。イスラエル軍がガザ各地の病院や避難所となっている国連管理の学校などへ繰り返し攻撃を行っている中、あまりに現実と乖離した妄言だろう。

〇ユダヤ人達もガザ攻撃に抗議

 イスラエルのパレスチナ占領政策やガザ攻撃に対する批判それ自体と、反ユダヤ主義は分けて考えるべきだ。米国などの反戦運動でユダヤ人達が「Not in Our name(私達の名前を使うな)」というスローガンを叫ぶように、イスラエルが同国への批判を封じ込めるために「反ユダヤ主義」のレッテル張りをすることに反対するユダヤ人達もいるのである。イスラエル国内においても、ガザ攻撃を憂慮する声がある。例えば、同国最大規模の平和団体「PEACE NOW」はその声明で「イスラエルは罪のない民間人への危害を避ける(国際人道法上の)義務を遵守しなければならない」と主張し、「あくまで軍事力ではなく、中東和平に向けた取り組みこそが重要」だと訴えている(関連情報)。

〇人命・人権の尊重は普遍的なもの

 各方面からのバッシングにもかかわらず、その後も、グレタさんは「Free Palestine(パレスチナに自由を)」「Stop Genocide(大量虐殺をやめろ)」と書かれた横断幕やプラカードを持った仲間達との写真を自身のインスタグラムに投稿し続けている。当たり前のことだが、人種や民族にかかわらず人の命は尊いものであり、人権は国や地域に関係なく護られなくてはいけないもので、国際人道法は普遍的な世界のルールである。これらに反した行為は、それがどこの国のやることであれ、厳しく批判され、場合によっては国際刑事裁判所にて裁かれるべきものなのだ。

(了)

 

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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