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なぜ、ロシアをイランは軍事支援するのか―トランプ外交の「負の遺産」?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
首都キーウへの攻撃 イラン産ドローンが使用されているとウクライナは批難(写真:ロイター/アフロ)

 ロシア軍によるウクライナ侵攻が新たな局面を迎えている。兵器不足が指摘されるロシア軍が、イランから自爆型ドローンを提供され、一般市民の住宅や発電所等のインフラ施設への攻撃に多用しているのだ。国際的には四面楚歌のロシアに対し、なぜ、イランは協力するのか。国際社会はどう対応すべきなのか。米国の独善的な対中東外交安全保障政策を含め、この数年間のイランをめぐる各国の動きから、解説していく。

〇「弾切れ」のロシアをイランが支援

 「ロシアは弾切れ」―つい最近まで、米国やイギリスの軍関係や諜報関係では、そうした見立てをしていた。経済制裁の影響で、兵器の生産が難しくなっており、高性能なミサイル等は枯渇しつつある、はずだった。だが、ここ最近、イラン製のものと観られるドローンがウクライナで猛威をふるっている。爆薬を詰んで機体もろとも目標に突っ込んでいき爆発する自爆型のドローン、「シャへド136」だ。一機の破壊力はそれほどでも無いが、多数の機体を同時に飛ばすことにより、ウクライナ側の防空システムを潜り抜け、攻撃を行っているのだ。しかも、シャへド136による攻撃の対象は、一般市民の住宅や発電所等のインフラ施設。こうした民間人やインフラ施設を攻撃対象にすることは、国際人道法に反する戦争犯罪である。

 そもそも、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻自体が、国連憲章に反するものであるが、意図的に市民やその生活を攻撃するという戦争犯罪を堂々と行い、ウクライナ側の抵抗する意志を挫こうとするとは、極めて悪質だ。当然、ウクライナや欧米などではイランへの批判が高まっているが、イラン側はロシアへの兵器供与を「していない」と否定した上で、「何十億ドル分もの兵器などを戦争当事者の一方に供与してきた国々が、もう一方への供与を非難するのはブラックジョークだ」と逆に欧米側を批判している(関連情報

イラン製ドローン「シャヘド136」とみられる機体(ロイター/アフロ)
イラン製ドローン「シャヘド136」とみられる機体(ロイター/アフロ)

回収されたドローンの残骸 イラン製のものとみられる
回収されたドローンの残骸 イラン製のものとみられる写真:ロイター/アフロ

 だが、イラン側の主張は誤っている。ウクライナで撮影されたドローンは、その特徴的な外見から、シャへド136であることは明らかであるし、部品等も回収されている。また国連憲章違反の違法な戦争を仕掛けたロシア側を支援することと、侵略されている側のウクライナを支援することでは、意味が全く異なる。さらに、イランからのロシアへの兵器供与は、後述するイラン核合意を支持した2015年の安保理決議にも反している。同決議では、イランが兵器を他国へ供与する場合、安保理の承認が必要するとしているからだ。

〇トランプ外交の負の遺産

トランプ米国大統領とイスラエルのネタニヤフ首相 *肩書は当時
トランプ米国大統領とイスラエルのネタニヤフ首相 *肩書は当時写真:ロイター/アフロ

 ロシアへ自爆型ドローンを供与し、さらに一部の報道によれば、ミサイルも提供しようとしているイランの振る舞いは、お世辞にも賢明とは言えず、強く批判されるべきものだ。ただ、イランがこのような振る舞いをしている背景には、米国側、特にトランプ政権時の外交政策が影を落としているという面もある。それが、イラン核合意からの米国の一方的な離脱だ。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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