米国プリンストン大学の気象学者、真鍋淑郎さんが今年度のノーベル物理学賞を受賞した。世界でも最も早いうちから地球温暖化とCO2(二酸化炭素)との関係に着目、地球温暖化予測のための気候モデルをつくりあげたことが評価されたのだ。真鍋さんの受賞に各界から祝福の声が上がる中、先日就任したばかりの岸田文雄首相も「日本国民として誇りに思う」とコメント*。一方で、岸田首相は、総裁選でのアンケート回答から、温暖化(=気候危機)への認識がおかしいとも指摘されおり、真鍋さんが長年訴え続けてきた、温暖化が人間活動によるものであることを、あらためて認識する必要がありそうだ。

*真鍋さんはその研究のほとんどを米国で行い、米国籍を取得している。

○後世で「人類を救った」と評されるだろう偉業

 真鍋さんの研究は、一言で言えば「人類を救った研究」と後に語り継がれるかもしれない、大変な偉業だ。1960年代には、温暖化予測の気候モデルの基礎を築いていた真鍋さんの研究は、その後のIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)による温暖化の予測にも強い影響を与えた。温暖化の予測ができたからこそ、その対策が世界的な合意につながったのであり、温暖化の進行を止めなければ、比喩ではなく本当に人類の存亡すらも左右される事態へと発展し得るのだ。既にこれまで「数十年に一度」とされてきた酷暑や豪雨、干ばつなどの異常気象が頻発、温暖化の猛威は現実のものとなっているとして、この8月に発表されたIPCCの最新報告書は激しく警鐘を鳴らした。

真鍋淑郎さん
真鍋淑郎さん写真:ロイター/アフロ

 ただ、希望もまだ残されており、今後、人類がCO2などの温室効果ガス排出削減に取り組み、脱炭素社会を実現すれば、危機は大幅に緩和される。対策は時間との戦いでもあり、破局的な影響を防ぐため、世界気温の上昇を1.5度程度に抑え込むには、少なくとも2030年には世界の温室効果ガスを半減させなくてはならない。もし、真鍋さんの研究が無ければ、その猶予すらなかったかもしれないのだ。

○岸田首相の危うい認識

 一方、真鍋さんの大偉業を称賛した岸田首相ではあるが、彼の温暖化に関する認識は危ういものがあるようだ。環境やSDGsについての専門誌「オルタナ」が自民総裁選候補者らに送ったアンケートでの「気候変動(温暖化)は、人間の経済活動によるものと考えているか」との質問に、岸田氏は「科学的検証が前提だが、そうした部分もあると考えている」と回答しているのである。

 この岸田氏の認識に、温暖化に明るい環境団体関係者や記者などからは当惑する声が相次いだ。何故なら、この期に及んで温暖化について「科学的な検証」が必要というフレーズは、国際社会からは、トランプ前米国大統領のような、いわゆる温暖化否定論者とみなされるものだからだ。「温暖化は進行しているかもしれないが、それが人間の活動によるものかは、まだわからない」「だから、温暖化対策を急ぐ必要はない」というロジックを、温暖化懐疑論者は好んで使うのである。

 今年夏に発表されたIPCCの最新報告書は「人間の活動による影響が大気や海洋、陸地を温暖化させたのは疑いの余地がない」と断言している。これは、一部の科学者の見解などではなく、「世界66カ国200人以上の専門家が1万4000本の論文を引用し、7万8000のレビューコメントに全て対応し、そのやり取りを公開している」(国立環境研究所・江守正多氏)という、国際的な気候危機研究のエキスパート達の総意なのだ。つまり、既に徹底的な検証は行なわれているのである。

 国内での検証においても、2009年に東京大学サステイナビリティ学連携研究機構がまとめた「地球温暖化懐疑論批判」で、ほぼ決着はついていた。岸田氏は、何をもって、今さら「科学的検証が前提」だと言うのか。米国や欧州を中心に世界は急激に脱炭素社会の実現にむけて動いており、中国すらも温暖化対策では、同調している中で、岸田氏の認識は、首相としての資質すら問われるものなのである。

○岸田首相に真鍋さんの受賞を祝う資格があるのか?

 真鍋さんが第一人者として切り開いてきた、スーパーコンピューターを活用した温暖化予測は、「所詮、シミュレーションにすぎない」との温暖化懐疑論者からの揶揄にされ続けてきた。だが、温暖化は、ほぼ予測通りに進行してしまっていることを、この間の観測結果が証明している。そして、「温暖化が進行していることに疑う余地はない」ということは、何年も前から真鍋さんが訴えてきたことだった。

 その真鍋さんのノーベル物理学賞の受賞を祝う資格が、果たして岸田首相にあるのか。まず岸田首相は自身の不見識を認め、今や「気候危機」とも言われている地球温暖化の現実に向き合い、具体的な対応策を行うべきなのだ。

(了)