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体重20キロ減、吐血でも見殺し、女性死亡の入管の闇が深すぎる

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
質問する石川大我議員。参議院インターネット中継より

 またしても、法務省・出入国在留管理庁(入管庁)で重大な人権侵害だ。迫害から逃れてきた難民や、家族が日本にいるなど、母国に戻れない人々の事情を考慮せず、法務省・入管庁は、その収容施設に「収容」している。こうした収容施設では、暴力や虐待、セクハラ等、非収容者に対する非人道的な扱いが常に問題となり続け、被収容者が死亡する事件も毎年のように発生している。今月6日にも、スリランカ人女性が名古屋入管の収容施設で死亡。深刻な体調不良を本人や支援団体が訴えていたにもかかわらず、女性を収容していた名古屋入管側が適切な医療を受けさせなかったことで、痛ましい結果を招いた可能性が高いという。本件について、今月12日、参議院議員の石川大我氏が国会で法務省・入管庁側を問いただした。

○倒れても、まともな薬すら与えない、点滴も認めず

 今月12日の国会での石川大我参議院議員と佐々木聖子入管庁長官のやり取りによると、亡くなった女性は30代で、母国で大学を卒業後、英語の堪能さを活かし、日本の子ども達に英語を教えたいとの夢を持って2017年に来日。専門学校に通っていたのだという。ところが、両親からの仕送りが途絶え学費が払えなくなり、留学生ビザが失効。さらにコロナ禍で母国へ帰るに帰れず、昨年8月、名古屋入管に収容されてしまったのだという。その後、女性の体調は悪化。今年1月の時点で、既に深刻な状態だったという。

石川議員「お亡くなりになられる前の面会の記録がありまして、支援者の方の許可を得て、プライバシーを守りながらお話をしたいと思いますが(中略)1月には体重が12キロ減、これ30代の女性の方ですからね、12キロ減るというのはかなりしんどいと思います。喉に違和感があり御飯が食べられない、施設の看護師に相談をすると、適度な運動や胃のマッサージをするようにと言われた。12キロ減って、適度な運動や胃のマッサージをしろ、これ適切ですか

佐々木長官「今お尋ねの点を含めまして、亡くなられた方の診療経過あるいは健康状態の推移につきまして現在調査中でございます」

石川議員「1月下旬になると足の痛み、胃の痛み、舌がしびれるなど訴え、とうとう血を吐いてしまう、死にそうというふうに面会される支援者の方に訴える、この後も嘔吐、吐血。そのときに入管職員何と言ったか、迷惑だからといって単独房に移されたと、そういうふうに証言しています。目まい、胸の動悸、手足のしびれ、施設内の診療所で処方されたのはビタミン剤とロキソニンですよ。ビタミン剤と痛み止め、これだけで本当に(医療が)充実していると言えるんでしょうか。まともな体制でしょうか」

佐々木長官「その経緯につきましても調査中でございます。先ほど申しましたように、不断にこの医療体制については充実させていきたいと考えています」

 答弁する佐々木長官 参議院インターネット中継より
 答弁する佐々木長官 参議院インターネット中継より

石川議員「先月ですけれども、2月になると彼女は車椅子でとうとう面会に現れるようになるということです。食べられない、薬を飲んでも戻す、歩けないという状態、ここでやっと外部の病院での内視鏡検査。その後、点滴を打たせてほしいと言ったにもかかわらず、長い時間が掛かるという理由で入管職員が認めずに、一緒に帰ってしまった。このこと、ありますでしょうか?」

佐々木長官「その経緯につきましても、正確に把握するべく調査中です」

石川議員「(面会記録を)読んでいて本当につらくなるんです。とうとう面会には車椅子で出てくる、そして(嘔吐、吐血するので)バケツを抱えてくるという状態、歩けない状態で、職員はコロナを理由に介助しない、胃がねじれるように痛い、歩けないのに歩けと言われる(中略)担当職員、コロナだから入院できない、病気じゃない、仮病だと言う。そして、2月下旬、とうとう20キロ痩せてしまう、おなかが痛い、口から血が出て倒れても助けてもらえないので床に転んだまま寝た、こんなこともあったというふうに述べております。3月、今月です。頭がしびれる、手足がちゃんと動かないなどの危険な状態になる、熱はずっと37度から38度です。支援者は、このままでは死んでしまう、すぐに入院させるべきだと申し入れますが、職員は拒否、予定は決まっていると答えるのみ。これ、本当にひどくないですか」

*今月12日の参院予算委員会質疑より抜粋

○独立した詳細な調査が必要

 石川議員の追及に「調査中」との答弁を繰り返した佐々木長官であったが、今国会では法務省・入管庁による入管法の「改正」案が審議される見込みだ。この入管法「改正」の争点として、収容の是非を司法に判断させることや収容期間に上限を設定すること等の国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の勧告を、取り入れるか否かがある。

 亡くなったスリランカ人女性も、体調悪化が著しくなった時点で、収容施設から仮放免され入院できたなら、命を落とさずにすんだのかもしれない。つまり、本件の調査は入管法「改正」の国会審議にも直接影響を与え得るものなのだが、入管側が、のらりくらり「調査中」だと言い続けて報告を先延ばしする可能性もある。石川議員も「まさか法案の審査の後にこの報告が上がる、そんなことはないですね」と質疑の中で釘を刺したが、佐々木長官は「正確性を期した上で、できるだけ早く調査を遂げます」と述べるにとどまっている。

 もう一つ問われるのが、「調査」の独立性だ。入管施設内での被収容者の死亡については、2019年6月に大村入管センター(長崎県)で長期収容されていたナイジェリア人男性がハンガーストライキ中に餓死した件に関して、入管庁は同年10月に調査報告書をまとめているが、その内容は入管庁の立場を擁護するもので、餓死事件以前から、大村入管センターでの長期収容に懸念を表明していた九州弁護士会連合会は餓死事件の調査報告書を批判。独立した第三者による調査が必要だとの声明を発表している(関連情報)。

 石川議員も12日の国会質疑で、名古屋入管でのスリランカ人女性の死亡について「第三者による調査委員会つくる必要がある」「外部の調査が必要なんじゃないですか」と繰り返し問い、田所嘉徳法務副大臣に「(事情を知る)支援者にお話を聞く、そういった予定はありますか」と重ねて確認。田所副大臣は必要があればしっかりと現地を見て、完全なものにするようにしたいというふうに思っております」と答弁し、言質を引き出したかたちだ。

○入管関係で20人が死亡している!

 入管の収容施設内または業務下での死亡者は、この20年余りで20人に上る*。その死因で目立つのは適切な医療を受けさせなかったことであり、今回亡くなってしまった女性の件、と同根の問題である。石川議員が指摘するように、入管法「改正」の国会審議の後に、今回の死亡事件の調査報告がまとめられるのでは論外だ。むしろ、入管法「改正」の審議を一旦停止してでも、まずは死亡事件についての、詳細かつ独立した調査が行われるべきなのであろう。

(了)

*市民団体「SYI」(収容者友人有志一同)の集計に筆者が近年報道された事案を追加。

https://pinkydra.exblog.jp/27284016/

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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