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福島みずほ氏、法務省に痛撃!難民いじめの入管法「改正」案に立法事実なし、入管の杜撰さを追及

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
福島瑞穂参議院議員のツイッターより

 法律をつくる上で、その必要性の根拠となる「事実」について言及しておきながら、実際には、その事実について、ろくに調査もしていなかった―法務省・入管庁にまたスキャンダルだ。今国会で審議される予定である入管法の「改正」案に関連して、福島瑞穂参議院議員が法務省・入管庁に質問し、その回答から発覚した。入管法「改正案」は、ただでさえ、庇護を求める難民達を拒絶し、不当に収容施設に長期にわたって収容しているとして、内外の批判を浴びている入管行政を、より一層、非人道的なものにするのではないかと懸念されている。今回、入管法「改正案」の立法事実についての入管庁の杜撰さが明らかとなったことで、改めて、その是非が問われることになりそうだ。

○福島議員の問い合わせで発覚

 今回、福島議員が指摘したのは、入管庁が作成した資料「送還忌避者の実態について(令和元年12月末現在)」で言及されていた事案。同資料では、「令和元年12月末現在の送還忌避被収容者649人のうち,272人(42%)が有罪判決(入管法違反によるものを除く。以下同じ。)を受けており,66人(10%)が仮放免中の犯罪により有罪判決を受けている」として、祖国で迫害の恐れがある或いは家族が日本にいる等、帰国できない事情を抱える在日外国人、入管庁の言うところの「送還忌避者」のうち、入管の収容施設に収容されている人々が、日本の治安に悪影響を及ぼす存在であることを印象づけている。ところが、福島議員が

ア 過去に受けた有罪判決が、交通事犯のみの人数。

イ 過去に受けた有罪判決が、罰金刑のみの人数。

ウ 過去に受けた有罪判決が、執行猶予が付されたもののみの人数。

エ 過去に執行猶予が付されていない有罪判決を受け、それが、1年以内の懲役な  いし禁固刑を含むが1年を超える刑を含まない者の人数。

オ 過去に執行猶予が付されていない有罪判決を受け、それが、1年以内の懲役

  ないし禁固刑を含む者の人数

カ 令和2年6月末現在に仮放免許可を受けていた人数

といった情報について、入管庁に問い合わせたところ、その回答は「ア、イ、ウ、エ、オ及びカ お尋ねのような統計は取っておらず、お答えすることは困難である」というものであった。これについて、福島議員は自身のツイッターに「実際に問題になった事案を問い合わせたところ、統計を取っていないという。調べてもいないのであれば立法事実がないということではないか」と投稿。立法事実とは、法律を国会等でつくる際に、その法律が存在する合理性の根拠となる社会的な事実であり、法律をつくる上で必要とされるものだ。つまり、福島議員は、入管法「改正」案の正当性を疑問視しているのである。

○「長期収容」の根拠にも波及

 入管庁が、いわゆる「送還忌避者」を"日本の治安に悪影響を及ぼす者"としてレッテル貼りしておきながら、実際にはその具体的な事実関係について、ろくに調べてもいなかったということは、連鎖的に入管法「改正」案の正当性を脅かしていく。法務省・入管庁があげる入管法「改正」案の必要性では、「送還忌避者の長期収容化」がある。一昨年6月に、長期収容者であったナイジェリア人男性がハンガーストライキ中に餓死したことを受け、内外から批判を浴びた法務省・入管庁は「長期収容の解消」を目指し、送還を拒否する者に対し刑事罰を加えることや、難民申請中であっても送還できる例外規定などを含む入管法改正案をまとめ、今月に菅政権は閣議決定した。

 だが、「収容・送還問題を考える弁護士の会」などが指摘するように、ここ数年、長期収容が増えている背景には、法務省・入管庁が在留特別許可(個別事情を鑑みて法務大臣の裁量で与えられる在留資格)や仮放免(一定の条件の下、収容施設の外での生活を認めること)の件数を大幅に減らした結果である(関連情報)。逆に言えば、「仮放免や在留特別許可を、以前のレベルに戻せば『収容の長期化の防止』は解決することです」(「収容・送還問題を考える弁護士の会」・高橋済弁護士)ということなのだ。

縦の棒グラフが長期収容者、横線が仮放免者の数 高橋弁護士の資料から
縦の棒グラフが長期収容者、横線が仮放免者の数 高橋弁護士の資料から

在留特別許可率の推移 高橋弁護士の資料から
在留特別許可率の推移 高橋弁護士の資料から

では、何故、法務省・入管庁が在留特別許可や仮放免の件数を減少させてきたかというと、「東京オリンピックのための治安対策」がある。警察庁・法務省・厚生労働省の三省庁による合意文書『不法就労等外国人対策の推進(改訂)』(2018年)には「不法滞在の取締強化」「難民認定審査の厳格化」等が明記されているのだ。

○入管法「改正」案の根拠がドミノ倒し

 そもそも、犯罪をまだ実行していないのに、その身体的自由を奪うことは「予防拘禁」であり、戦前・戦中の治安維持法で重大な人権侵害につながったとして、強く批判されるものであるが(関連情報)、今回、福島議員の問い合わせによって明らかになったように、法務省・入管庁は「送還忌避者」を"日本の治安に悪影響を及ぼす者"としてレッテル貼りしておきながら、その具体的な事実関係について調べてすらいなかった。つまり、「東京オリンピックのための治安対策」も、在留特別許可や仮放免の減少も、「長期収容の増加」も、入管法「改正」案の合理性すらも、全て土台から崩れるということなのだ。今回の入管法「改正」案、とりわけ送還拒否に対し刑事罰を加えることや、難民申請中であっても送還できる例外規定の新設については、重大な人権侵害につながるとして、全国の弁護士会から次々と反対声明が発表されており、人権団体やNGOからも懸念の声が上がっている。そのようなリスクのある「改正案」を、立法事実もないまま国会審議させること自体、政府与党や法務省・入管は、法も基本的人権も軽視していると言えるだろう。

○野党の対案に目を向けよ

 そもそも、その不透明さや国際基準からの逸脱が問題視される日本の難民認定審査を、より適切なものとし、真に救うべき難民を難民として認定するようになれば、自ずと「送還忌避者」「長期収容」は減少する。法務省・入管が前述の資料で公表しているように、「送還忌避被収容者のうち難民認定手続中の者は60%」だからだ。また、仮放免者は就労が禁じられており、生活困窮するケースが多いが、日本人の配偶者がいる、日本で生まれた或いは幼少時に両親等に連れられ来日し、日本で育ち教育を受けた等のケースに対しては、速やかに在留特別許可を与え、合法的に日本に滞在できるようにすれば、やはり「送還忌避者」「長期収容」は減少する。

 野党は、難民認定や在留特別許可等の審査の適正化を含む入管法改正の対案を公表しているが、政府与党側もより人道的かつ合理的な解決方法を模索するべきなのである。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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