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入管の虐待で精神崩壊、自殺未遂10回―難民男性が危機的状況

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
デニズさんが首を吊った時の様子 収容中のチリ人男性が描いたもの 支援者提供

 難民申請中であり、かつ日本人女性と結婚しているにもかかわらず、法務省・出入国在留管理庁(入管)の収容施設に、長期拘禁(収容)された上、入管職員による集団暴行を受けたデニズさん(名字は匿名希望)。その後、精神崩壊とも言える状況に追い込まれ、収容施設内で10回も自殺未遂を繰り返した。先月下旬、1ヶ月の仮放免が許可されたものの、今後、再収容の恐れもある。その場合、今度こそ命を落とすことになりかねない―デニズさんや代理人弁護士に話を聞いた。

◯入管職員による集団暴行

 「痛い!」「腕、折れる!」「殺さないで!!」―腕を捻り上げられ、喉元に指を押し込まれて絶叫するデニズさん。入管職員が「痛いか?痛いか?!」とサディスティックにデニズさんを怒鳴りつけながら痛めつけ続ける。この衝撃的な映像は、2019年1月19日、入管職員が撮影したもので、デニズさんが提訴した国賠訴訟での証拠として入管側が東京地裁に提出したもので、Yahoo!ニュース個人や共同通信、TBS「ニュース23」などで報じられた。

 映像の中で暴行を受けているデニズさんは、少数民族クルド人への迫害が続くトルコから2007年に来日した、難民認定申請者。デニズさんは、2011年に日本人女性と結婚したものの、法務省・入管は在留資格を与えず、2016年5月に東日本入国管理センター(茨城県牛久市)にデニズさんは収容され、その後、昨年夏に一時的に仮放免されたものの、またすぐに再収容され、合計の収容期間は4年近くに及んでいる。

◯短期間に自殺未遂10回

 長期の収容はデニズさんの精神状態を蝕んでいる。特に今年2月以降、デニズさんは短期間のうちに10回も自殺未遂したのだ。2月21日、デニズさんはシーツを換気口に下げ、ゴミ箱を踏み台にして首を吊った。だが、換気口が壊れ、デニズさんは転倒。そのまま病院に運ばれた。病院から戻った同月22日も、毛布の縁を取り紐状にしたものや、Tシャツ、ズボンのゴムなどで自身の首を締めるが、入管職員に止められる。さらに同月26日、27日も自らビニール袋を飲み込み、病院に搬送された。2月28日、3月14日、16日もタオルやシーツ、Tシャツで首を絞めており、3月17日にはトイレに顔をつっこみ水を流したが、いずれも入管職員に止められている。

デニズさんが首を吊った時の様子。収容中のチリ人男性が描いたもの デニズさんの支援者提供
デニズさんが首を吊った時の様子。収容中のチリ人男性が描いたもの デニズさんの支援者提供

 デニズさんいわく、自殺未遂は突発的にやってしまい、自分でも自分が何をしたのか覚えておらず、後で入管職員から聞いたということが何度もあるということだ。また、自殺未遂の直前に「デニズ、死ね、早くに死ね、人間のクズ」という入管職員が罵倒する幻聴が聞こえ、入管職員に暴行された時のことが脳裏にフラッシュバックするということもあったのだという。自殺未遂前後の記憶が曖昧なのは、入管内で処方されている睡眠導入剤の影響も疑われるが*、そもそも自殺未遂の度に「懲罰房」(隔離のための独房)に閉じ込めるという、入管側の対応に大きな問題があるのではないか。デニズさんは「何度も懲罰房に入れられる」「ここで行われているのは精神的な暴力だ」と訴える。

*今年3月5日参院予算委員会・石川大我議員の質疑より

◯自殺未遂直後に「懲罰房」

 法務省・入管は、デニズさんの処遇についての筆者の取材に対し「個別の案件、係争中の案件には答えられない」(同広報)と繰り返すのみ。一般論として、自殺未遂した人を「懲罰房」に閉じ込めるというのはいかがものかと聞くと、法務省・入管は「自殺未遂をした被収容者の安全のため、監視カメラで24時間、状況を把握できる隔離室(懲罰房のこと)に入れている」のだという。ただ、筆者の取材へ多くの被収容者達が証言してきたように、入管施設で「懲罰房」という呼称は定着しており、その名の通り懲罰的な意味合いで使われていることは間違いない。

デニズさんと日本人配偶者 本人提供
デニズさんと日本人配偶者 本人提供

 デニズさんは、今年3月24日に仮放免され、収容施設から出られたものの、今後も再収容される恐れがある。その場合、「今度こそ入管施設内で命を落とすことになるかもしれない」と、デニズさんや配偶者の日本人女性は怯えている。実際、この10年間で12人が自殺や適切な医療を受けられなかったことから入管の収容施設内で命を落としているのだ。

◯入管に難民認定申請を審査する資格はない

 難民認定申請者を収容することについて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などからは、日本に対し幾度も懸念が表明されてきた。日本が加入している難民条約第31条にも「庇護申請国へ不法入国しまた不法にいることを理由として、難民を罰してはいけない」とあるのだが、デニズさんもそうであるように、むしろ、法務省・入管は難民認定申請者を積極的に収容し続けている。昨年10月1日の法務大臣会見によれば、送還を拒み入管の収容施設に拘束されている被収容者の約7割弱が難民認定申請者か同申請を行ったことがある者だという。これは一体どういうことか。

大橋弁護士 筆者撮影
大橋弁護士 筆者撮影

クルド難民弁護団事務局長の大橋毅弁護士は「入管は、難民申請のうち1%も難民認定をしておらず、UNHCRが難民と認定した人でも強制送還するような厳しい不認定判断をしています。また、認定を得られなかった申請者を『濫用的に難民申請を行う者』と決めつけ、収容しています」と指摘する。国連人権諸条約に基づく各委員会から、度重なる勧告を受けているにもかかわらず、ますます悪化していく入管による難民への人権侵害。大橋弁護士は「もはや、法務省・入管に難民認定審査を行う資格はないと思います」と断じる。

 「第三者機関による難民認定審査が必要でしょう。少なくとも、法務省・入管に難民不認定にされても、総務省の行政不服審査会で、審査し直せるようにするべきと思います。現状では、難民認定審査は、行政不服審査会の対象から除外されていますが、この除外措置を撤廃することは法改正もわずかで済み、すぐできることなのです」(大橋弁護士)。

 本来、難民条約に従い庇護すべき難民達を不当に収容、虐待し、死者まで出している法務省・入管。この間の報道でその人権軽視ぶりは多くの人々が知るところとなっている。デニズさんの直面する苦境は、このまま、難民の庇護を法務省・入管に任せたままでよいのかを問うものであろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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