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旅券発給拒否は違法、シリア拘束からの解放の内幕―安田純平×志葉玲 その2

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ジャーナリストの安田純平さん 筆者撮影

 今年9月下旬、筆者の友人でフリーカメラマンの杉本祐一さんが病に倒れ、その波乱の生涯を終えた(享年62歳)。杉本さんは、2015年2月、シリア北部コバニを取材する予定であったが、外務省によってパスポートを強制返納させられた。メディア関係者の旅券強制返納は、戦後初。その後、常岡浩介さんも旅券を無効化され、安田純平さんもパスポートが発給されないなど、紛争地を取材するジャーナリスト達への渡航制限が続いている。生前、「安倍政権に僕の職業生命は断たれました」と語っていた杉本さん。その杉本さんを追悼し、安倍政権による「報道の自由」への弾圧を語るイベントが今月6日、都内で行われた。司会進行・聞き役は筆者(志葉玲)、ゲストはジャーナリストの安田純平さん、杉本さんの裁判で代理人を務めた中川亮弁護士など。

以下、前回配信*の続きから

*安田純平×志葉玲 危機にある「報道の自由」~杉本祐一さん追悼、見捨てられた孤高のカメラマン

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20191230-00156937/

◯安田さんへの旅券発給拒否問題

志葉玲:杉本さんのケースから始まって、どんどん状況が悪くなっているんです。そこで安田純平さんに、いよいよご自身のことについてお話しいただければ。すいません、お待たせしました。

安田純平:じゃあ、その話をしましょう。返納命令とか発給拒否というのは、旅券法に基づいてやっているわけです。旅券法というのが、発給とかそういう旅券に関する法律である。これをつくったのが昭和26年、要するにまだ日本がGHQの統治時代にあった時代の話で、それをまだ使っているんです。発給の根拠というのが一応あるんですけれども、これ返納命令です。さっきの続きでやったものなんですけれども。旅券法13条というのがあります。これが発給の制限に関する法律なんです。この中で私が言われたのが1番です。1号、渡航先に施行された法律によってそこに入ることを認められない者。昨年シリアの拘束から帰るとき、2018年10月24日、トルコを出国するときに、トルコから入国禁止措置を受けていたということを外務省から言われたんです。今年の1月に、この新しい旅券の申請をしたときにこういうことを言われ、半年後にこれが正式に来たんですけれども、トルコからこれ言われていないんです。トルコの法律では、本人にこれを通知し、弁護士立ち会いの下に通知し、不服があったら不服審査もできるという法律があるんですが、本人言われていないんです。恐らく後から付けたんじゃないかと私は思っているんですけれども。日本側からわざわざ言って。恐らくトルコがこれを言っている理由、恐らくトルコから私がシリア側にミス出国をしてシリアに行ったと。その間にトルコを出国していないので、要するにオーバーステイになっている、規則上は。帰ってくるときも密入国だという扱いなんだと思うんですけれども、そんなことをみんなやっているわけです。

 他の国の人質の人たちも当然オーバーステイになっているし、帰ってくるときは密入国で帰ってきたという人たちもいるんです。その人たちがこういう措置を受けているかというと、受けていないんです。トルコとしては、邦人救出に協力できたといって大喜びだったわけです。帰って来るときも、トルコ航空の飛行機代は要りませんとトルコ航空から言われまして、というくらいに大喜びだったのが、後になってから実は犯罪者扱いでしたということになっていて、この5年間というのも、何か罪を犯して入国拒否にできる期間の中で一番長いらしいです。なんかもう、非常に無理やりやっている感があります

◯安田さんへの発給拒否は旅券法にも反している

安田:イスラム国に捕まっていたスペイン人とか、1年後にはシリアに行っていましたから、トルコから、イラクに入ったり。さっきの、何かあったときは、政府とかに影響があるからとか言っているんですが、そんなことは他の国は言っていないです。そんなことを理由に返納命令だとかパスポートを出さないとかやっているのは日本だけです。要するに、さっきの(旅券法13条)1号のこれということです。

 渡航先と言っているんですけれども、申請するときに出したのは、イタリア、フランス、スペイン、ドイツ、インド、カナダなんです。渡航先はどこかという話です。要するに、渡航先に入れていないのに、それでも駄目だというのは、要するに迷惑をかけたのだから当然だろうと言う人々もたくさんいたわけですけれども、発給拒否できる法律(旅券法13条)の中で1から7まであるんです。そのうちの2から5というのは、いろんな犯罪を犯した人に関する話が入っていて、6号というのは、お金がない人だから、海外に行ったら帰って来られなくなって、政府が建て替えるとかしなくちゃいけなくなるから駄目とか、そういうよく分からないものです。それからもう一個あるのが、この7号というやつが、著しくかつ直接に日本国の利益または公安を害する行為を行う恐れがあると認めるというのが7号です。迷惑だからというのだったら、これしかないと思うんです。迷惑だからというのだったら、7号を出せばいいではないかと思うんですが、7号を出してこなかったんです

 13条7号の話をする前に、14条というのもあって、発給拒否処分とかを出すときに、通知を出さなくちゃいけないです。その通知をちゃんと出しなさいという法律なんですけれども、通知をちゃんとしなかった裁判があるのです。さっき言った7号、昔5号だったんですけれども、昔パレスチナで活動していた看護師だったかの方が、日本赤軍の関係者だとかと外務省に因縁つけられてパスポートが出なかったのです。そのときに、通知書の中に7号に該当しか書いていなかったのです。結局、最高裁で、そもそもこの通知が間違えているでしょうと。該当するというこの中身が書いていないではないかということで、発給拒否が取り消しになりました。要するに、どう迷惑なのかということをちゃんと説明しなくちゃいけないという話です。そのとき最高裁で発給拒否が取り消しになったんですけれども、外務省は懲りずにその後ちゃんと理由を書いてまた発給拒否して、結局その後もまた裁判が続いて、結局取り消しになったのです。最初から数えて13年かかったという話です。もう本当に因縁としか言いようのない屁理屈をたくさん並べて、この人が日本赤軍だということをずっと言い続けて、結局全然中身がないからということで取り消し処分になったのです。もうやりたい放題ということです。ちゃんと説明しなさいという話です。迷惑だからでやれるのかという話です。私のは1号しか入っていません。1号というのは、さっき言った渡航先の話なので、これは違法になっちゃうんじゃないのという話です。1号だけで本気で彼らがやろうとしているのだとしたら、渡航先にトルコが入っていないわけだし、それで世界中どこも行っちゃいけないという判断は、本気でやる気あってやっているのかというところです。先ほどの中川先生の話とか、これも入っているんですけれども、要するに法律に書いていないことをやってきたという、それをやられちゃったらもうどうにもならないわけです

以下、旅券法第十三条より: 

 外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。

一 渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者」

(中略)

七 前各号に掲げる者を除くほか、外務大臣において、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

2 外務大臣は、前項第七号の認定をしようとするときは、あらかじめ法務大臣と協議しなければならない。

(一般旅券の発給をしない場合等の通知)

◯「迷惑をかけた」で法を無視して良いのか?

 私のこの発給拒否の話が出たときに、すぐ新聞とかに載ったわけですけれども、世の中の反応が、迷惑をかけたのだから当然だろうという話になったわけですけれども。日本は法治国家ですから、憲法というのがあって、法律があってやっているわけです。だから、その中に入っていないものを、迷惑だから当然だろうという感情論でやっちゃったら、もう法治国家じゃなくなっちゃうじゃないですか。外務省が私の件で迷惑だからということでやっているのかどうかも分からないです、今の段階では。だけど、世の中のほうが、政府がやっていることよりもさらに先に進んで、長期的に制限すべきだということを人々が言っちゃっているのです。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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