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安田純平×志葉玲 危機にある「報道の自由」~杉本祐一さん追悼、見捨てられた孤高のカメラマン

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
左から安田純平さん、杉本祐一さん、筆者の志葉玲

 今年9月下旬、筆者の友人でフリーカメラマンの杉本祐一さんが病に倒れ、その波乱の生涯を終えた(享年62歳)。杉本さんは、2015年2月、シリア北部コバニを取材する予定であったが、外務省によってパスポートを強制返納させられた。メディア関係者の旅券強制返納は、戦後初。その後、常岡浩介さんも旅券を無効化され、安田純平さんもパスポートが発給されないなど、紛争地を取材するジャーナリスト達への渡航制限が続いている。生前、「安倍政権に僕の職業生命は断たれました」と語っていた杉本さん。その杉本さんを追悼し、安倍政権による「報道の自由」への弾圧を語るイベントが今月6日、都内で行われた。司会進行・聞き役は筆者(志葉玲)、ゲストはジャーナリストの安田純平さん、杉本さんの裁判で代理人を務めた中川亮弁護士など。

以下、イベントの記録より。

〇杉本さんのシリア取材について

志葉:杉本さんは、日本のジャーナリストの中でもかなり突っ込んだ取材をしていた人なんじゃないかと。この時期のシリアを取材していた日本人ジャーナリストは、実はかなり限られてくるというか、そんなに、まず大手メディアの人は、なかなかここまでは来られませんし、フリーのジャーナリストなんかでも、私も入っていないです、はっきり言えば。それはやっぱり状況的なものとかタイミング的なものとか、あとは人脈だとか、いろいろ紛争地を取材しているから、どこでもおいそれと簡単に入れるというわけではなくて。もちろん入ることもできますけれども、ただ後先を考えるとちょっと二の足を踏んでしまうみたいなところも正直あって。私はシリアに入っていなかったことを、後々すごい後悔するんです。

*杉本さんがシリアで撮影した映像。ショッキングな場面が含まれているので閲覧注意。

 杉本さんが、こういうような果敢な取材を一生懸命やっていたということは、もっと評価されていいんじゃないかなと私は思います。全然そういう意味では、日本のメディアの扱いはひどくて、こんな現場で取材していることが一度もないような人間が、杉本さんのことを自称カメラマンだとか自称ジャーナリストみたいな言い方をしていて、本当に腹が立ちます。

安田:それは俺も言われているから。

志葉:安田さんにそんなことを言う人って、馬鹿じゃないのという感じがします、本当に。だけど、これを見ていただいたら、本当に杉本さんが立派なカメラマンだったという、正真正銘の戦場カメラマンであったということは分かっていただけるんじゃないかと思います。

安田:これなんかすごいね。これなんかスナイパー通りというか、この通り自体がもう、この通りの先に交戦相手がいるということですね。だから通り抜けるときは走ったりとか、撃ったりとかやっています。多分2012年の冬辺りですね。

志葉:これ、渡るのがすごく危ないんです。弾がガンガン飛んできていて。狙撃してくるスナイパーに向けて撃って、そのすきに負傷者を運ぶというような状況です。本当にこれ、かなり緊迫した状況です

安田:1人目が通ったら、その後2~3分は間を空けて走らないと、1人目が通ったら、見て、それで気付いて待ち構えて2人目を撃つということをやるので、だからこの場所は、みんなでうわっと走っているので、ちょっと状況がよく分からないけれども。いわゆるスナイパー通りというのは前線の近くで、見張っていて撃つという感じではないかな。

〇戦地を知らない人々が好き勝手に語る愚

安田純平さん 筆者撮影
安田純平さん 筆者撮影

安田:今のテレビ、素材を持って行ってもなかなか使わないです。昔の場合は、現地からの影像というのはあまりなかったので、こういうものを使いながらニュースとかつくっていったわけですけれども、今はネット配信とかいろんなものでたくさん来るので、素材を持ち込んでもなかなか使われない。そもそも海外の紛争自体がニュースにならないということがあって、なかなか仕事に持って行けないというのがあるのです。何か持って行くのだとしたら、何かに焦点を当てたストーリーのあるものとか、そういうものを組み立てて持って行かないとなかなか難しいし、テレビとかになると、人脈が相当ないといけなくて、自分も元々新聞記者なので、映像をやっていなかったですから、シリアの取材のときは影像を撮ったんですけれども、プロダクションを知っている人を通して売り込んでもらったんですけれども、ほとんど門前払いです。見てもくれないという中で、1カ所だけ見ないでOKしてくれて、TBSなんですけれども、そこはできたのですが、結構大変なんです。だから、テレビとかでいっぱい出ていないと、全然仕事していない人みたいに思われちゃうんですけれども、それはなかなか発表する機会がないからそうなっているだけで、毎日テレビに出ているような紛争の記者なんで誰もいないわけじゃないですか。知らないというのは、それはおまえが知らないのだろうという話で。帰ってきてから、いろんな人に、帰ってきて一番驚いたことは何ですか、と言われるんですけれども。ネットとかいろいろ見ていると、自分が知らないということを人のせいにするというか。杉本さんもそうですけれども、彼はわれわれは知っているわけだし、知っているわけだけれども、それはマスメディアにしょっちゅう出る人じゃないわけです。それはもうほとんどの人がそうなんですが、それを知らないことを、それを知らないのは、自分が知らないのだから調べればいいわけなんですけれども。調べることもしないで、俺が知らないのはおまえのせいだということにする、そういう人がたくさん出てきたというのが、帰ってきてから非常に感じるところです。

志葉:それを、一般人がネットとかで書き散らかすとか、それも正直腹立ちますけれども、ど素人のくせにと思いますけれども。腹が立つのは、ワイドショーとかでコメンテーターが紛争地の取材経験も無いくせにしたり顔で適当なことを言うことですね。だからそれで一般人も調子に乗って、適当なこと、あることないことを書き散らかすわけです。そういう意味では、安田さんなんかは、多分自分がいない間に、ワイドショーとかを見られなくて、ある意味良かったんじゃないかなあと。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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