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「間違い」があってもローラやブルゾンちえみが称賛されるべき理由-アマゾン大火災に警鐘

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
アマゾン大火災を憂う、ローラさんの投稿 ローラさんのインスタから

 観測史上最悪とされる南米アマゾン熱帯雨林の同時多発大規模火災。大気中に酸素を供給し、膨大なCO2を固定し地球温暖化を抑制、全生物種の1割が生息する生物多様性の宝庫が、燃えている-世界的な危機だと言えるアマゾン大火災を日本の人々にいち早く伝えたのは、マスコミではなく、モデル/女優のローラさん、お笑いタレントのブルゾンちえみさんだった。彼女達のSNS等での発信は、大きな反響を呼び、多くの日本の人々がこの問題を知るきっかけとなった。だが、バズフィードジャパンやハフポスト日本版といったネットニュースは、ローラさんとブルゾンちえみさんの投稿で使った写真が、今回のアマゾン大火災のものではなく、過去のアマゾン火災のものであると指摘。ツイッターなどでは、これらの報道をもとにローラさんとブルゾンちえみさんへの批判や揶揄も投稿されている。ただ、それでも筆者はあえてお二人の善意を評価し、称賛したい。

○投稿したのは過去の写真

 問題となった写真は、アマゾンの熱帯雨林が燃えているもの。これは、ナショナル・ジオグラフィック誌などで活躍したフォトジャーナリストのローレン・マッキンタイアさんが撮影したもので、AFP通信やフランス24等の報道によれば、今回のアマゾン大火災ではなく、少なくとも16年前のものだとされている。そのため、バズフィードジャパンとハフポスト日本版が、「誤用」を指摘する記事を配信した。

ローラやブルゾンちえみも拡散。アマゾン火災で世界に「無関係」な写真が広がる

https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/amazon-photos

アマゾン森林火災の写真、シェアする際は気をつけて。ローラやディカプリオがシェアした写真も、16年以上前のもの。

https://www.huffingtonpost.jp/entry/amazon-fire-photo_jp_5d6344f6e4b02cc97c8feadd

 誤った情報がネットで拡散することは、時に重大な人権侵害にもつながる。写真の出典はどこか、信頼に足るのか、確認する作業は必要だろう。最近も、常磐道煽り運転・暴行事件では、事件に全く関係ない女性が、容疑者であるとネット利用者らに勘違いされてバッシングを受けるということが問題となったように。

 だが、使用した写真が、過去のものであったからと言って、アマゾン大火災についてのローラさんやブルゾンちえみさんの投稿を全否定すべきかというと、それは違うだろう。今回、ローラさんやブルゾンちえみさんが画像を間違えたことで、誰かが重大な不利益を被ったか?むしろ、お二人の投稿でアマゾン大火災のことを知ったという人々も多いはずだ。確かに、SNSでの写真の取り扱いは気をつけるべきであるし、間違えない方がよいだろう。ただ、バズフィードジャパンやハフポスト日本版の指摘に乗じて、ローラさんやブルゾンちえみさんを叩くようなネット上の風潮はやはりおかしいのではないか。

○アマゾン破壊の構造は同じ、「無関係」ではない

 バズフィードの記事については、“アマゾン火災で世界に「無関係」な写真”という部分が気になる。というのも、先進国(最近は中国も)の牛肉や大豆などの需要のために、アマゾン熱帯林が放火され、破壊されているという構造的な問題は、1970年代から現在に至るまで根本のところでは同じだからだ。今回のアマゾン大火災も同様だ。だから、そうした構造を説明せずに、「無関係」と言い切ってしまうこと自体が、一種のフェイクにすらなってしまうのではないか?筆者としては、ローラさんやブルゾンちえみさんの「誤用」よりも、報道メディアであるバズフィードの記者が、しかも、元大手新聞の記者でもある籏智広太記者が、アマゾン破壊の構造や経緯を説明せずに「無関係」と言い切ってしまったことの方が、むしろ問題であると感じる。

特定非営利活動法人 熱帯森林保護団体

「アマゾンの破壊の現状」

https://rainforestjp.com/deforestation/current-state/

 メディア側も、ニュースで報じている事柄とは、別の時期の写真や映像を「資料写真・映像」として使うことはよくある。無論、その事柄と全く関係ない写真や映像を使うことは報道倫理に反することであるが、とりわけ情報番組、ワイドショーでは、その写真や映像があくまで参考であることを十分説明せず、繰り返し、しかもおどろおどろしいBGMや効果音と共に使うことが多々ある。取材が困難であるからだろうが、特に北朝鮮関連のニュースではそうした傾向が顕著だ。そのようなことから考えれば、時期は違っても、同じような背景・構造の中で撮られた写真であるならば、ローラさんやブルゾンちえみさんが、今回、過去のアマゾン火災の写真を使ったこと自体は、そう糾弾されるようなことでもない(写真がいつどこで誰によって撮られたものという説明はすべきであったが)。

○ローラさん、ブルゾンちえみさん叩きで終わりでは困る

 筆者がバズフィードやハフポストの記事にモヤモヤとしたものを感じる理由は他にもある。あの福島第一原発事故を経験してもなお、原発が再稼働するように、日本は「正常性バイアス」が強く働く社会だ。正常性バイアスとは、自身の精神の安定を保つために、自然災害や事故などの非常時に「大丈夫だろう」「大したことにはならないはずだ」と思い込んで危険を過小評価する心理傾向のこと。だから、アマゾン大火災は間違いなく事実であり、大変な国際的な危機であることは明白にもかかわらず、バズフィードやハフポストの記事を読んだ人々が、「なーんだ、ローラ達が騒いでいたけど間違いだったのね」と関心を失うことを危惧してしまう。実際、ツイッターではバズフィードの記事をリツイートしながらブルゾンちえみさんに「デマを拡散するな」と食ってかかる投稿もあった。ただ、上記した通り、アマゾン大火災自体はデマではなく現実に起きていることである。

 言い方が悪いかもしれないが、アマゾン大火災関係のSNS投稿での「誤用」についてのバズフィードやハフポストの記事は、所詮、AFP通信やフランス24の報道の「二番煎じ」だ。だが、AFP通信にしてもフランス24にしても、連日、アマゾン大火災について報じている。正常性バイアスなど働かないような事実を、読者や視聴者に突きつけている

 これらと同じような質・量の報道は無理としても、それなりの熱量でバズフィードやハフポストはアマゾン大火災について報じるのか?もし、そうでないならば、結局、ローラさんやブルゾンちえみさん達をネタにPV(閲覧数)を稼ぐだけで、正常性バイアスを蔓延させるということにならないだろうか?また、著名人が環境問題や社会問題に対して、リベラルな発言をすることがタブー視され、バッシングされるという日本の風潮を助長することにもつながるだろう。

○日本のメディアが報じなかったことを伝えた

 アマゾン大火災については、世界の主要メディアがこぞってトップニュースで報じた。他方、日本のメディアは、なかなかアマゾン大火災を報じず、乗り遅れたことは否めないだろう。そんな中、日本のメディアが黙殺する世界的な危機を多くの日本の人々に知らしめたのは、ローラさんやブルゾンちえみさんだった

 白状すると、筆者自身、当初は「ほんとに酷いけど、これブラジルのことだし、日本で騒いでも何か意味があるのかな?」とも思ったことも事実だ。だが、ローラさんやブルゾンちえみさんの投稿に背中を押され、筆者もアマゾン大火災についての記事を配信した。だから、お二人の投稿に筆者は感謝しているし、お二人の善意は称賛されるべきものだと思う。

なぜ「地球の酸素20%供給」のアマゾン熱帯林が焼き尽くされているのか-日本もアマゾン破壊に関与(志葉玲)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20190827-00139985/

 そう、「大騒ぎ」することは大事なのだ。海外では、大勢の著名人がアマゾン大火災への悲しみや憤りを表明し、連日、主要メディアはこのニュースを報じている。ブラジル大使館へのデモも各国で行われ、フランスやドイツ、EUもブラジルとの自由貿易協定を見直すことを検討し始めた。当のブラジルでも、ボルソナロ政権の無策ぶりに対し、人々が大規模な抗議を行っている。そうしたこともあり、当初はアマゾン大火災への対応が鈍かったボルソナロ政権も、より具体的な対応を余儀なくされつつある。

○まず襟を正すのはメディア側

 本当に伝えるべきことをおざなりにして、枝葉末節にこだわって、善意の人々の揚げ足を取る。そういう傾向が日本のメディア関係者にはないか?読者・視聴者もそうした傾向を好んでいないか?アマゾン大火災についてファクトチェックするならば、むしろ、証拠も示せず「環境NGOが森に火を付けた」と主張するボルソナロ大統領の妄言や、日本政府が「不毛の大地を穀倉地帯に変えた奇跡」と自画自賛する対ブラジル農業開発の問題点とアマゾン破壊の関係について論じるべきだろう(上記の筆者の記事を参照)。バズフィードもハフポストも「善意」でファクトチェック的なことをしているのだと筆者も思う。だが、そもそもの環境問題への理解が浅い。もっと重大な、本当にやるべきファクトチェックをやらない一方で、ローラさんやブルゾンちえみさんを叩くネット上のいじめ文化を助長しただけになってはいないか。

 善意の投稿に対し、上から目線でマウントを取る程、日本のメディアは立派な報道をしているのか?人類の存亡すらも左右する地球環境の課題を真剣に報じているのか?そもそも、報道とは何のためにあるのか?日本のメディア関係者は、公器として、自分達のやるべき仕事をちゃんとやるべきだ。まずはそこからだろう。

 本稿を終える前に、改めて、ローラさんとブルゾンちえみさんに敬意を表したい。

 今後とも地球環境など重要なテーマついて、是非、発信を続けて下さい。微力ながら応援しております。 ジャーナリスト 志葉玲より                  

 (了)

*蛇足かもしれないが、筆者は、特にバズフィードジャパンについては普段はその報道を高く評価している。今回は、アマゾン火災についての十分な質・量の報道を行っていない割には、あまりに一方的なローラさんやブルゾンちえみさんの「誤用」への言及が目立つと感じたので苦言させてもらったが、今後に期待している。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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