元「人権派」・広河隆一氏の「性暴力を反省」に騙されるな―その卑劣さに被害者達は今も苦しむ

デイズジャパン最終号の検証委報告は「セカンドレイプ」との批判も 筆者撮影

 フォトジャーナリストで、写真誌「デイズジャパン」編集長だった広河隆一氏が、スタッフやボランティアに性行為や裸身の撮影を強要していたと週刊文春が報じた件で、デイズ発行元の株式会社デイズジャパンは毎日新聞等の取材に対して、大筋で事実として認めている。だが、当の広河氏本人の言動、対応はあまりに不誠実だ。一連の性暴力が発覚した後の広河氏の振る舞いに被害者達はさらに傷つき、不安を抱えている。

◯事実認定を避け、弁明

 広河氏による性暴力についての告発は、自身もデイズジャパンに編集協力していたライターの田村栄治氏が取材・執筆し、週刊文春2018年12月26日号、同2019年2月7日号に掲載された。一方、広河氏は雑誌「創」2019年4月号に手記を寄稿。また、先月20日に発売されたデイズジャパン最終号に、今回の問題を受けて結成された検証委員会による広河氏への聞き取りが掲載された。これらで共通する広河氏の主張は、

・性暴力やそこに至る経緯などの事実関係は「記憶が定かでない」と曖昧にする

・性行為における「合意」についての理解が不十分だった

 というものだ。一見、反省しているようで事実認定からは逃げ、"「合意」への理解が不十分だった"というかたちで、強要をはぐらかす。広河氏の一連の言動は、問題の核心は曖昧にしたまま、本件での各方面からの批判に傷つき反省したことをアピールし同情を引いて、あわよくば社会復帰しようという狡猾さすら感じさせるものだ。

◯逃げ場のない状況に追い込んでの性暴力

 だが、週刊文春での告発通りであるならば、広河氏は、被害者を物理的・心理的に逃げ場のない状況に追い込んで性行為を行ったり、自身の「権力」、つまり広河氏と被害者の立場の違いを悪用していた。それは、計画的な性暴力だと断じられるべきものである。

 週刊文春2019年2月7日号掲載のケースは、その計画性・強要ぶりが顕著だ。被害女性を海外取材につれていき、彼女にとって知らない国で誰も助けを求められない状況の中、「取材先の男性達がきみを貸してほしいと言っている」「彼らとセックスするか、それとも僕と一つになるか」と広河氏は迫ったのだという。しかも、自身の言動について、女性に「きつく口止め」までしたというのだ。もし、広河氏が創の手記やデイズジャパン最終号での聞き取りで述べたように「合意だと思っていた」というのならば、一体なぜ口止めしたのか?自身の主張と矛盾するのではないだろうか。

 また、週刊文春2018年12月26日号掲載の、「写真を教える」と言ってホテルの部屋におびき出し、被害女性が抗う間もなく性行為の及んだ、というケースも計画的だ。

 これらのケースのような、逃げられない状況に追い込んだり、脅したりして得た「合意」は、本来の意味での合意とはかけ離れたものであるし、その計画性は、あたかも狩猟者が獲物を罠で仕留めるかのようだ。

取材中の広河氏。中東エルサレムでバッタリ出会った。筆者撮影。
取材中の広河氏。中東エルサレムでバッタリ出会った。筆者撮影。

◯自身の「権力」や立場を利用

 広河氏は、創への寄稿や検証委員会の聞き取りで、「言われているような立場や権力は自分は自覚していなかった」と繰り返し主張している。だが、被害者達は週刊文春での告発の中で「アシスタントになるには一心同体にならなくてはならない」「(自分と性行為をしないと)きみのような学歴のない人間は報道では生きていけない」と広河氏に言われたとしている。また、広河氏は、彼に突然さしたる理由もなく厳しく叱りつけられ、呆然自失としている被害者に「許してほしいなら、こうしてわかりあうのが一番」と性行為を求めたという。これらの言動が事実であれば、広河氏は自身の「権力や立場」を自覚して利用し、被害者達を抗いづらい精神状況に追い込んだと言えるのではないか。

◯取材から逃げ回る

 逃げられない状況に追い込んだり、自身の「権力・立場」を自覚して利用したりして、性行為を強要したのではないか―筆者は、広河氏及び代理人弁護士に事実確認を求めた。だが、対面取材の求めやメールでの問い合わせに対し、広河氏本人からは一切返信はなく、弁護士からは「現在のところは、デイズの検証委員会の調査に委ねています。個別の問い合わせへの対応は予定していません」とだけ返信をもらった。念のため検証委員会にも同様の質問を送ったものの、「検証委員会は、広河隆一氏の窓口ではありませんので、申し訳ありませんが、お取次ぎはいたしかねます」との回答だった。

◯今も苦しむ被害者達

 問題の核心は避け、都合の悪い質問には回答せず、弁護士や検証委に丸投げ。広河氏のジャーナリストにあるまじき無責任さの一方、被害者達は今も苦しんでいる。広河氏を告発した女性の一人は「文春での告発の前後から、フラッシュバックで日々の生活にも支障をきたしたことがあります」と筆者に語る。

もっとひどい後遺障害に苦しんでいる人だっているかもしれないし、憧れていたジャーナリズムへの道を広河氏の性暴力によって断たれた人もいるはずです。検証委にも私の経験を話しました。『セカンドレイプ』と批判されたデイズジャパン最終号での検証報告のようなものではなく、今度こそしっかりとした検証が行われることを願っています」(同)。

◯誠意ある謝罪と賠償を

 人権派のジャーナリストとして、パレスチナ問題や原発問題を取材し、デイズジャパンでは幅広く国内外の様々な暴力や社会問題を取り上げてきた広河氏。かつては筆者も憧れた、ジャーナリズム業界の英雄だった。学生時代、筆者は広河氏の講演に感銘を受け、その後ジャーナリストとなってからパレスチナ問題も取材するようになった。筆者が直接、広河氏やデイズジャパンと仕事をする機会はほとんど無かったが、筆者にとって広河氏は「心の師」のような存在であった。だからこそ、広河氏を尊敬し、そして裏切られた女性達の痛みを思うと、筆者もやりきれなくなる。筆者としても、検証委による事実関係の追及を見守り、不十分であればその手緩さを批判していくつもりではあるが、検証委の報告がどうあれ、まずは広河氏本人が自身の行ったことを直視し、被害者達に誠意ある謝罪や賠償をしていくべきではないか。ただ嵐が過ぎ去るのを待ち、ほとぼりが冷めたら社会復帰しようなど、絶対に許されないのである。

(了)

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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