TBSキャスター金平氏「三浦瑠麗氏が政治学者として食っていけるのが問題」ー安田純平さん事件シンポで

昨年都内で行われたシンポジウムに安田純平さん本人も参加した。筆者撮影

 2015年6月に、シリア入りした際に誘拐され、昨年10月に3年4ヶ月ぶりに解放されたジャーナリストの安田純平さん。解放当初は、様々な情報が錯綜、メディア上では事実関係が誤っていたり、根拠が十分でない情報による、安田さんへの批判が相次いだ。こうした風潮に対し、安田さんは「批判は受けとめるが、事実に基づいてもらいたい」と求め、報道関係者からも、根拠薄弱な発言を繰り返すコメンテーターを起用するメディアのあり方に苦言が呈されている。

○身代金をめぐる根拠薄弱なコメント

 昨年末、雑誌『創』と新聞労連が主催した、紛争地取材や報道のあり方についてのシンポジウムで、TBS系『報道特集』のキャスター・金平茂紀氏は「三浦瑠麗って人、テレビがよく使うらしいのですけども、政治学者のくせに、(発言が)全然事実に基づいていない」と、名指しで批判した。

 三浦氏は、国際政治学者として、頻繁にテレビ出演し、時事問題にコメントしている人物。金平氏が苦言したのは、三浦氏の、昨年10月28日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)での安田さん拘束/解放についてのコメントだ。

「今回の件で総合的に見て、安田さんが現地入りして何が起きたかというと結局のところテロ組織にお金が渡った」

出典:昨年10月28日放送の『ワイドナショー』

 三浦氏のコメントのような 「安田さんの解放の際、身代金を支払われたかもしれない」との主張は、安田さんやその家族へのバッシングに直結する。実際、「税金を無駄にした」「テロリストに資金を与えた」等の批判が殺到。安田さんは安全上の懸念から、帰国後も、しばらく自宅に帰れず、知人宅を転々する状況だった。つまり、身代金云々という話をメディア上でする場合、当人の人権に配慮して慎重に論じなくてはならず、当然、十分な根拠に基づいていなくてはならないわけだ

 三浦氏は、身代金支払いについて、事実であるかのように断言していたが、日本政府も、カタール、トルコ両国の政府関係者も、こぞって否定している。また、安田さんによれば、日本政府側が安田さん本人にしか答えられない質問をして、安田さんの本人確認をしたのは、解放時が初めてなのだという。これは安田さん拘束中に、日本政府側は犯行グループと交渉していなかった可能性が高いということだ。何故ならば、

・身代金の交渉をするには、本人の生存確認をする必要がある

・身代金を騙し取ろうとする悪意ある人物や組織と、本当に安田さんの身柄を拘束しているグループとを区別する必要がある

 という理由からだ。つまり、解放時まで本人確認/犯行グループとの交渉ができていなかったのならば、身代金を払いようがないのである。「身代金が支払われた」とする説は、在英シリア人による人権団体が主張しているだけであり、それも確かな根拠はない。しかも、この団体の安田さんに関する他の主張も事実と異なる*など、信憑性は低い。

*例えば、同団体は「中東の政治的情勢から、安田さんは解放後、4日間トルコの入管施設で待機を余儀なくされた」としているが、安田さん自身はこれを否定。

 では、三浦氏は何をもって、身代金が支払われたと主張したのか。筆者は、三浦氏が所属する東京大学政策ビジョン研究センターを通じて、問い合わせしたものの、回答はなかった。

○安田さんが拘束中に得たウイグル情報

 また、三浦氏は、前出の『ワイドナショー』で、シリア内戦における有益な情報を安田さんは得られなかったとの見方を示した。

 これに対し、金平氏は、「(安田さんの経験から)全く発見がなかったと(三浦氏は)言うんだけど、(安田さんが拘束されていた施設の)看守がウイグル人だったというのは、ものすごい大きな情報で、ウイグルの人々が大量に中国から逃げて、シリアの反政府勢力に合流している、ということが裏付けられた」と語る。

 ウイグル人とは、中国西部に住むテュルク系民族であり、言語や文化の違い、イスラム教徒であるということから、独立を求める人々も多く、それがゆえ、中国政府から激しい弾圧を受けている。安田さんは、拘束中に自身が会ったウイグル人達について、筆者のインタビューで次のように語った。

 「彼らがシリア入りして反政府武装勢力に加わった理由として、一つは中国ではイスラム教徒としての振る舞いが認められないから、ということがあります。男性のイスラム教徒の象徴であるヒゲを伸ばしていると、それだけで中国当局から弾圧される。(中国西部の)新疆ウイグル自治区のモスクの中には、習近平の肖像画が飾られているとも聞きました」(安田さん)

 偶像崇拝を禁じるイスラム教の宗教施設で、中国の権力者の肖像画が飾られているとは、非常に屈辱的なことだ。安田さんいわく、シリアに渡ったウイグル人の数は一人や二人ではなく、村のような一定規模のコミュニティを形成する程であるという。中国での人権弾圧がシリアでの内戦にも、ウイグル人戦闘員やその家族の流入というかたちで影響を与えているということを、自身の体験として明らかにしたということは、金平氏が言うように、安田さんの大きな発見であろう。

○テレビ報道のあり方が問われている

【動画】緊急シンポ!安田純平さん解放とジャーナリズムを考える~戦場取材の意義と「自己責任」論 UPLAN提供

 残念ながら、今のテレビ報道では、十分な根拠も無しに、その場のノリで、他人の人権や名誉を左右するような発言をする人物にコメンテーターとして話をさせることが横行していると言わざるを得ないだろう。前出の金平氏は、シンポジウム中、三浦氏について、「こういうのが政治学者として食っていけるのが問題」と批判した。「そういう人間を使うメディアも、またメディアだな、と思いますね。つまり、ああいうキャラを使いたい人達がメディアにいるんですよ。政権が好きで好きで仕方ない人々がメディアの中にもいる」(金平氏)

 一連の安田さんへのバッシングについて、金平氏は「安倍政権を支持する人々が行っている、『非国民探し』」だと喝破する。確かに、事実に基づいた冷静な批評ではなく、バッシングありきの姿勢で安田さんを批判しているコメンテーターには、日頃から政府寄りの発言をしているか、安倍首相と会食したり、政府の懇談会等のメンバーであったりしている人物が何人もいる。三浦氏も「安全保障と防衛力に関する懇談会」の構成員だ。

 だが、報道は権力を監視する存在として、政権とは一定の距離を保たなくてはならないし、報道において、それが事実に基づくか否かを厳しく精査することは、当然のことだ。まして、根拠薄弱な主張で、個人の人権や名誉をないがしろにしてはならない。それは、テレビ局内の区分としては報道番組ではなく、情報番組となるワイドショーとて同じことだ。本記事では、三浦氏の安田さんへのコメントを批判したが、こうした問題は、日本のテレビ全体が抱えているものなのである。

(了)

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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