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【自民総裁選】「内閣最重要課題」はぐらかし、逆ギレ―安倍首相の拉致問題対応、蓮池透さんに聞く

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
2018年 自民党総裁選 公開討論会(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

  今月14日に日本記者クラブで行われた自民党総裁選の立候補者討論会。そこで飛び出したのが「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと言った事はございません」との安倍晋三首相の発言だ。北朝鮮による日本人拉致問題の解決は、安倍首相自身が「内閣の最重要課題」と繰り返し強調してきたこと。「解決」の目途が立たない拉致問題への責任放棄ともいえるような発言や、この間の安倍政権の拉致問題への対応について、元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」副代表の蓮池透さんに聞いた。

○拉致問題はぐらかす安倍首相

 「安倍晋三政権は一貫して拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだといわれていた。ご家族の方も相当高齢になっているところで、現状はどうなっているのか、見通しはあるのか」―自民党総裁選立候補者討論会で、日本記者クラブ側から問われた安倍首相はこう発言した。

 「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけだと私が言ったことはありません。これはご家族の皆さんが、そういう発言をされた方がおられることは承知をしておりますが」(安倍首相)

 この発言に、蓮池さんは「確かに『安倍政権だけが』とは言っていないかもしれないが、『私の任期中に解決する』と繰り返してきたのは事実でしょう」と指摘する。

 蓮池さんの指摘通り、第二次安倍政権が発足して間もなくの、2012年12月末、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」の代表者らと面会した安倍首相は「この内閣で必ず解決する決意で拉致問題に取り組む。オールジャパンで結果を出していく」と述べている(関連情報)。

 最近では、今年8月12日、山口県下関市で行われた講演でも「私は安倍政権でこの問題を必ず解決するという強い決意で臨んでいる」と語っている。

 蓮池さんは「(安倍首相は)拉致問題を『任期中に解決する』と言いながら、党則を変更し任期を延長するとは本末転倒ではないでしょうか」「『やってる感』はもういいです」とため息をつく。

○自国のことなのに米国頼み

蓮池透さん。筆者撮影
蓮池透さん。筆者撮影

 今月14日の討論会では、安倍首相は「拉致問題について私の考え方、日本の考え方を、(トランプ大統領が北朝鮮の)金正恩(朝鮮労働党)委員長に伝えました」と米朝首脳会談で、米国を通じて日本の要求を北朝鮮側に伝えたと述べたものの、討論相手の石破茂・元自民党幹事長に「拉致問題は日本の話なので、外国にお願いしてどうのこうのという話ではありません」と切って捨てられる場面があった。

 蓮池さんも「石破さんの言う通り。拉致問題は米国任せではいけません」と言う。「米朝及び南北の緊張緩和の中、日本だけが蚊帳の外です。圧力、圧力と安倍政権は北朝鮮側を刺激し続けて、対話ムードを作ってきませんでした。(今年6月の)米朝首脳会談から、もう3ヵ月です。この間、一体何をやってきたのでしょうか?」(同)。

○「拉致問題」検証が必要

 討論会では、日本記者クラブ側から「全員生存、全員奪還とする首相だが、北朝鮮は8人死亡で一貫している。その事実認識の差を埋める努力をしなかったのが長引いている要因では」「拉致問題のゴールとは。何をもって解決とするのか。全員生存の確証はあるのか。不都合な真実が出てきたらどう責任を取るのか」と問われ、安倍首相が「埋める努力とは北朝鮮の言い分を認める、ということなんですか?」と“逆ギレ”する場面もあった。

 この質疑について、蓮池さんは「私が最も訊いてみたいことだった」という。「北朝鮮側の『5人帰還、4人は北朝鮮に入国せず、8人は既に死亡』という主張は、日本側も小泉政権の時に認めてしまっていることです。これをひっくり返すなら、日本側は相当、知恵も力も必要です。日本記者クラブ側が問いただしたように、事実関係を徹底的に検証するべきなのですが、安倍政権はこの期に及んで『北朝鮮側が情報を出せば検証してやる』と、受け身で上から目線に立っているだけで、結局何もやっていません」(同)。

○取り組むのなら本気で

 討論会での安倍首相の一連の発言について、蓮池さんは「『次は金委員長と』『あらゆるチャンス』『全員生存』『北朝鮮の思う壺』といった常套句がちりばめられていますが、もし、『やる気』があるのなら、いずれも任期中に実行できたはずです」と指摘する。「いきなり全員帰還でなく、一人ずつでもいいから、着実に取り組んでほしい。『あらゆるチャンス』と言うならば、例えば、北朝鮮側と独自のパイプを築いてきたアントニオ猪木参院議員にも協力してもらうなど、できることを全てやってもらいたいです。猪木議員自身、『なぜ、俺を使わない!』と言っているわけですし。そして、やはり北朝鮮への戦後賠償も交渉のテコとしないと、拉致問題の進展はないのかもしれません」(同)

 小泉純一郎元首相の訪朝から16年。拉致被害者家族など関係者の高齢化が進む中、蓮池さんは「もう時間がありません」と焦燥感を募らせる。本日投開票の自民党総裁選でどちらが勝利するにせよ、掛け声だけではない拉致問題の取り組みが求められる。

(了)

【蓮池透さんプロフィール】1955年、新潟県出身。元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」副代表。1978年に北朝鮮に拉致された蓮池薫さんの実兄。元東京電力社員で、拉致問題の他、原発関係でも活発に発言している。著書に『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)、『告発 ~日本で原発を再稼働してはいけない三つの理由』(ビジネス社)など。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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