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難民と日本人との結婚は認めない!?収容施設に拘束、自殺未遂に懲罰で追い打ち―東京入管の暴挙が酷すぎる

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
Iさん(中央)とその妻Mさん。多くの人々に祝福され、結婚したが…(Mさん提供)

 法務省入国管理局(入管)が、日本人女性と正式に結婚したトルコ籍クルド難民の男性を、収容施設に長期に拘束するという異常な事態が続いている。拘束が続く中、男性は自らの体を切り刻んで自殺未遂。しかも、入管は男性の精神的ケアをするどころか、懲罰房に閉じ込めた上、仮放免も認めない。さらに拘束されている理由の説明と、夫の解放を求める日本人妻に「あなたには関係ない」と入管職員は言い放った。

〇日本人と結婚しているのに拘束、仮放免も認めない

 Iさん(23)は、2010年末に来日した。彼の出身国であるトルコは、少数民族クルド人への迫害が続き、トルコ軍による独立派クルド人勢力の掃討作戦も行われている。徴兵制のあるトルコでは、Iさんも兵役につかなくてはならず、それは同じクルド人同士で殺し合うことを意味する。そのため、「平和で豊かな国」として日本に逃れてきて、難民申請をしたのだ。

 だが、日本は先進諸国の中でも桁違いに難民認定率が低い「難民鎖国」。2017年の認定率はわずか0.2%だ。Iさんの難民認定も現在にいたるまで認められていない。それでも、Iさんにとってはトルコに帰るという選択肢は論外だ。在留資格はないが、強制送還や収容を一時的に免除された「仮放免」を更新することで、日本で生活してきた。そうした中、Iさんが出会ったのが、日本人女性のMさんだ。IさんとMさんは、昨年2月に入籍、親族や友人達に祝福されて同年6月に結婚式をあげた

 幸せな結婚生活をおくれるはずだった、IさんとMさん。しかし、入管によって二人は引き裂かれる。昨年2月に役所で入籍が受理され、また、入管側が求める質問書も提出し、偽装結婚ではなく本当に婚姻関係があることを伝えたにもかかわらず、Iさんは昨年10月以降、東京入国管理局(東京入管)の収容施設に拘束され続けているのだ。しかも、仮放免申請も認められないのだという。

〇入管職員が「関係ない」と日本人妻に言い放つ

 「なぜ、日本人である私と結婚しているのに、入管の収容所に拘束されるのでしょうか。なぜ、仮放免すら認められないのでしょうか。全く理解できません」。Iさんの妻、Mさんはそう嘆く。入管の収容施設に拘束されても、仮放免申請が認められた場合には、収容施設の外に出ることができる。しかし、これまで三回も仮放免申請を行っているにもかかわらず、東京入管は仮放免を認めない。そして、その理由すら説明しないのだ。

 「入管職員になぜ夫の仮放免を認めないのか、私が問いただした時、彼らは『あなたには関係ない』と言いました。私は、Iの妻です。どうして関係ないというのでしょう?」(同)

Iさん(右端)とMさんの結婚式にて。Mさん提供
Iさん(右端)とMさんの結婚式にて。Mさん提供

〇自殺未遂のIさんに「懲罰」

 理不尽な拘束は、Iさんの精神状態を蝕む。今年3月、2回目の仮放免却下の後、Iさんは自殺を試みた。

 「仮放免が認められず、追い詰められたのでしょう。彼は、鉛筆削りの刃を取り出して、首や腕、胸やわき腹など、自分の上半身を数十か所切り刻み、自殺を図りました…」(Mさん)。

 刃が小さかったことが不幸中の幸いで、Iさんは命を取り留めた。だが、特に右腕の傷は深く、7針縫うことになったという。驚くべきは自殺未遂したIさんへの東京入管の対応だ。Iさんの精神的なケアをするどころか、入管職員らは「懲罰房」と呼ぶ独房にIさんを5日間も閉じ込めたという。市民団体「収容者友人有志一同(SYI)」のメンバーで、入管による人権侵害に詳しい織田朝日さんが解説する。

 「Iさんに限らず、東京入管では、自殺未遂した人々を独房に閉じ込めます。5,6日間はそこに閉じ込められ、共用スペースに出ることも、入管内の公衆電話で外部に連絡を取ることも許されません。『懲罰房』の経験者は皆、とても過酷だったと口をそろえて言います。入管側は『保護房』だと言いますが、実際には自殺未遂というトラブルを起こしたことへの、懲罰に他なりません」(織田さん)

東京入管前で抗議する人々。入管は深刻な人権侵害を繰り返し、報道や国会でも度々問題視されている。筆者撮影
東京入管前で抗議する人々。入管は深刻な人権侵害を繰り返し、報道や国会でも度々問題視されている。筆者撮影

〇医師も懸念「収容施設内では容体は改善しない」

 極度のストレスから悪夢にうなされるようになったIさん。金縛りや過呼吸などの症状も出るようになった。さすがに、東京入管側もIさんを精神病院へ連れていった。Iさんによれば、診察した医師は「この方は入管の中にいては容体は良くならない」と入管側に伝えたとのことだが、Iさんは収容施設へ拘束され続けている。

 Iさんの拘束によって、Mさんも追い詰められている。「彼の精神的な病は治っておらず、私も同じく精神的にキツくなってきております。いつかは出れると思いながら7月には彼が収容されて9ヶ月が経ちます。面会で窓越しに会う際は、2人とも目にいっぱい涙を浮かべるも泣くことを我慢します。何故なら泣いてしまうと止まらなくなってしまい(面会の制限時間の)30分が無駄になってしまうからです」(Mさん)

〇Iさん拘束の法的問題

 なぜ、Iさんは仮放免すら許されないのか。そもそも、なぜ、日本人の配偶者としての在留特別許可も認められないのか。筆者の問い合わせに対し、東京入管は「個別のケースについてはお答えできない」と、Iさんの長期拘束については回答拒否。一方、Iさんの弁護士である渡部典子氏は以下のように語る。

 「ご本人が来日後、難民申請の一次の調査の段階では婚姻していなかったこと、異議申立段階では、在留特別許可の判断はしないということが入管の建前としてあります。ただ、実際には、異議棄却と同時に在留特別許可を出す例もあるので、制度上の理由だけでは必ずしも説明がつきません。現在、ご本人は、再度の難民申請をしておりますので、こちらの手続のなかでは、必ず在留特別許可をするかどうかの判断がなされることになります」

 また、仮放免を認めないことについても、渡部弁護士は「憲法上も、入管法上も、また人権諸条約の趣旨からいっても、逃亡のおそれのない収容は制限されるべきです」と語る。

 「妻と結婚して同居することを希望しているご本人には逃亡のおそれはあるとは考え難いにもかかわらず、仮放免を認めず収容を継続することは、問題であると思います。また、そのほかの入管法上の問題としては、ご本人は難民申請中であって、入管法上、退去強制令書の執行が停止されている(入管法61条の2の6第2項)にもかかわらず、無期限の収容を継続し、ご本人の心身を追い詰めることになる結果として、出国を強制することになりかねず、そのことが同条項を潜脱*するものとして違法といえるのではないかと思います」(同)。

*一定の手段とその結果を法が禁止している場合、禁止されている手段以外の手段を用いて結果を得て、法の規制を免れること。

〇日本人配偶者にとっても人権問題

 前出の織田さんは、「Iさんのように、日本人と正式に結婚しているのに入管施設に収容されてしまうことが、私が知る限りでも何例もあります。中には、日本人の結婚相手の女性が妊娠しているにもかかわらず、収容されている人すらいます」と言う。「しかも、入管の対応に抗議する配偶者に対して『滞在資格がないのだから、(結婚相手と)別れたほうがいい』『どうしても一緒にいたいなら、日本を出て外国で暮らせばいい』といった暴言を投げつけることもあります」(同)

 法務省・入管の対応は、難民達のみならず、その配偶者である日本人達の人権をも踏みにじっている。運用面での改善や、制度・組織改革が必要であろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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