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【衆院選】北朝鮮に核放棄させる政党は?ノーベル平和賞受賞者に聞くリアルな外交

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ICANのノーベル平和賞受賞を受けて記念講演する川崎哲さん(写真:つのだよしお/アフロ)

 今回の衆院選での最大の争点の一つが、北朝鮮の核開発への対応などの安全保障政策だ。安倍晋三首相は「圧力しかない」と訴えるが、米国や日本を中心とした国際的な圧力にもかかわらず、むしろ情勢は緊迫の度を高める一方。どうしたら、北朝鮮に核を放棄させることが出来得るのか。核兵器禁止条約を今年7月の国連での採択へと導き、今年度のノーベル平和賞を受賞した、国際NGOネットワーク「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の国際運営委員で、NGO「ピースボート」の共同代表でもある川崎哲さんに話を聞いた。

〇核兵器禁止条約の活用が有効、その理由

 北朝鮮に核を放棄させるために、日本は何をすべきか―筆者からの直球の質問に、「北朝鮮が核放棄の交渉条件としていることと、核兵器禁止条約は、実はとても重なる部分があります。これを活用することが必要です」と、川崎さんは強調する。「核兵器禁止条約では、同条約の締約国に対し、核兵器を使うことや使うぞと威嚇すること、またこれに協力することを禁じています。さらに核を持ち込ませないこと、つまり、自国領内での他国による核配備を容認しないことも定めています。一方、北朝鮮が核放棄の交渉に応じる条件としてこれまで挙げてきたことは、同国に対し米国が核兵器による威嚇を行わないことや、韓国に米国の核兵器を配備しないこと等です。ならば、北朝鮮の核放棄と引き替えに、北朝鮮と日本が核兵器禁止条約に『同時加入』することを、日本としての外交交渉の目標とすることができるはずです。さらには日朝に韓国も加えた3か国が核兵器禁止条約へ同時加入すれば、北東アジアに非核地帯が形成されることになります」。

 つまり、仮に北朝鮮及び日本や韓国が一斉に核兵器禁止条約に加入した場合、北朝鮮にとっては自らの主張を通すことができ、かつ同国に対し米国が攻撃させづらくできる。日本や韓国としても、北朝鮮に核兵器禁止条約に従い核を放棄させることになるから、双方にとって利益があるというわけだ。

 川崎さんは、北朝鮮を核兵器禁止条約に引き込めば、同国の核兵器の廃棄の監視のためにも有益だと強調する。「核兵器禁止条約は、締約国に対し、核兵器や関連の全ての施設を廃棄すること、あるいは後戻りできないよう転換することを、国際的な監視の下で行うことを義務付けるなど、かなり踏み込んだ内容となっています。北朝鮮の核を確実に放棄させるために、核兵器禁止条約のこうした規定を活用しない手はないはずです」。

◯与党は冷淡、立憲、共産、社民は前向き

 北朝鮮への対応が衆院選の争点とされる中、川崎さんは与野党問わず、全ての主要政党に、核兵器禁止条約の活用を訴えるべく、面会を求めたのだという。だが、ノーベル平和賞受賞という大きな成果を得た川崎さんに対し、安倍政権の対応はあまりに冷淡だった。「とにかく、話だけでも聞いていただきたいと、安倍首相に面会を求めましたが断られ、内閣官房にも断られ、結局、内閣府の陳情受付に、私からの要請文を渡すにとどまりました」。川崎さんは、そう苦笑する。「自民党の他、公明党や維新の党、希望の党などにも、まだ会ってもらっていません」。

 自衛のためも含めた、核兵器全てを廃絶しようという核兵器禁止条約に対し、日本政府は同条約に加入しないという米国の主張に同調している。ことあるごとに「唯一の戦争被爆国」と強調しながらも、実際には米国の核兵器だけは認め、それを日本の安全保障に利用しようという魂胆は「各国の外交筋からも見透かされ、批判されています」と川崎さんは言う。また、現在の日本の対北朝鮮外交では、米国に梯子を外されることも大いにあり得る。「妥協点として、同国本土に届く長距離弾道ミサイルさえ廃棄するならば、北朝鮮の核兵器保有を米国が容認する可能性も高いのです。しかし、それでは日本にとっては北朝鮮の核リスクを抱えたままになってしまう。日本が、確実に北朝鮮の核の脅威を解消したいならば、核兵器禁止条約の活用こそやるべきことなのです」(川崎さん)。

 他方、立憲民主党は福山哲郎幹事長が、共産党は志位和夫委員長、社民党は吉田忠智党首が、川崎さんと面会し、議論を深めたという。

 「日本が米国のような軍事大国になることは現実的ではありませんし、またそうするべきではないでしょう。核兵器禁止条約を活用していくような、ソフトパワーによる外交を進めていくことを、与野党問わず全ての政治家に考えてもらいたいです。そうした外交こそ、日本の安全保障に貢献すると私は確信しています」(川崎さん)。

 筆者が中東の紛争地を取材している際、日本人だと名乗るとほぼ必ず「オー、ヒロシマ、ナガサキ!」と現地の人々は言い、日本の原爆被害への共感を示してくれた。日本にだからこそできる外交・安全保障政策をいかに政治家に行わせていくのか。衆院選間近の今、有権者にとっても大きなテーマであろう。

(了) 

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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