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蓮舫「三重国籍疑惑」―自民党公式ネット番組がデマやヘイト発言をたれ流す

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
「二重国籍」問題で会見する蓮舫氏。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 昨日27日、民進党代表辞意を表明した蓮舫参議院議員。いわゆる二重国籍問題で民進党内でも批判を受け、今月18日の会見で戸籍の一部を公開し、台湾籍を離脱していることを示した。長年にわたって国籍法に定められた手続きをしていなかったことも認めて謝罪するなど、蓮舫議員は、一定の説明責任を果たしたと言える。他方、二重国籍問題については、自民党国会議員らが「台湾だけではなく中国の国籍も持っている三重国籍の疑惑もある」等とデマを流布し、「スパイ」などの差別発言もしている。国籍に関する諸問題についての無知さをさらけ出している上、今や、新生児の53人に一人が、いわゆるミックスルーツ(多様な国や文化に複数のルーツを持つ人たち)である中で、あまりに彼らへの人権への配慮に欠く発言だ。

〇日中台「三重国籍」はあり得ない

 問題の発言は、先月14日に公開された自民党のネット番組「CafeSta」でのこと。自民党ネット局次長の大西宏幸衆議院議員と、小野田紀美参議院議員によるものだ。この番組の中で、大西議員は、蓮舫議員を指して「某党首さんは台湾国籍を持っておられて、台湾というのは通常、中国の国籍も持っておられるということで台湾・中国・日本で三重国籍である疑惑もあったりするんですよね」と発言している。だが、中国の国籍法では、他の国の国籍を取得した時点で、中国の国籍は自動的に離脱したものとみられるため「日本と台湾、中国の三重国籍」などということは不可能だ。筆者は法務省にも確認したが「一般論としてあり得ない」(法務省民事局)との回答を得た。本件について大西議員の事務所に問い合わせると、

「蓮舫氏におかれては、放送の時点では正確な説明をされる前であったことを前提に、過去の新聞記事や雑誌等々において、ご自身の発言を含めて『自分のルーツは半分中国』や『中国籍を有している』『台湾籍を有している』旨の内容がありました。そのため、番組中で、断定はしていませんが疑惑があるとの趣旨で発言いたしました」

 との回答を得た。要するに、大西議員は、中国と台湾に対する日本の姿勢、法務省の対応について理解していなかったのだろう。日本政府は台湾を国家として認めていない。そのため、台湾籍というものは、日本の法律上、存在せず、「中国籍」となる。ただし、筆者が法務省に確認したところ、この「中国」とは、いわゆる中国、つまり中華人民共和国のことをさすわけではないし、かといって台湾をさすわけでもないという非常にあいまいなものだ。これには、中国と台湾のそれぞれが「我々こそが正当な中国政府であり、中国は一つ」としつつ、互いの主張に干渉しない、いわゆる「一つの中国」という玉虫色の論理が背景にある。ただ、戸籍に「中国」と書かれることに抵抗感を覚える台湾出身者もいることもまた事実なのだ(関連情報)。国会議員である以上、大西議員は、断片的な報道から憶測で語るのではなく、日本での台湾出身者の複雑な事情も考慮すべきだったのだろう。

CafeSta 2017年6月14日配信動画

〇乱雑でヘイト的な小野田発言

 小野田議員の発言も非常に乱雑だ。上述のネット番組で「そもそも日本は二重国籍禁止、重国籍禁止なので、日本国籍選択の宣言と外国籍放棄宣言ていうのをしなきゃいけないんです。これ国籍法14条の義務です。これやってないと日本国籍剥奪されても文句言えないっていうレベルなんですね」と小野田議員は発言した。確かに、日本以外にも国籍を持つ重国籍者に対しては、日本国籍を選ぶという国籍選択届を行政機関に提出することが求められている。ただ、法務省民事局に確認すると「あくまで一般論としては、国籍選択届を提出しなかったとしても、すぐさま国籍を奪われるということではない」とのことだ。法務大臣は、国籍選択届を提出していない重国籍者に対し、必要に応じて提出を「催告」することができ、期限内にこれに応じなかった場合は、日本国籍を抹消することも法律上は規定されているが(国籍法15条)、この「催告」が実際に行われた事例は、現在に至るまで一度もない。それは「国籍を奪うということは重大な人権侵害になるので、慎重になるべきというものが、国としての方針」(法務省民事局)だからだ。国会議員であるからこそ、小野田議員は法律やその運用について、もっと丁寧な表現をすべきだった。小野田議員は、重国籍者であっても外国国籍喪失届を提出しない限り、戸籍に外国籍があったことが記入されないことについて、「選挙に出る時の身分証明書は戸籍謄本ですから、スパイやりたい放題です」とも発言しているが、今や新生児の53人に一人が、いわゆるミックスルーツ(多様な国や文化に複数のルーツを持つ人たち)である中で、重国籍者がスパイであるかのような差別や偏見をまねく暴論は慎むべきだ。

〇時代遅れの法制度の改正が必要

 重国籍をめぐっては、国際結婚の増加や日本人の活動のグローバル化などに伴い、これまでの一つの国籍のみを認めるということが現実にそぐわないのではないか、という論議が政府の見解としても示されてきた。第156回参議院法務委員会(2003年)では、「必ずしも単一の国籍ということが国際的な全体の潮流ではないのでは」との質疑に対し、当時の森山眞弓法務大臣は

「我が国を取り巻く国際情勢とか国内情勢の変化を踏まえまして、所要の法改正を行うことも含めて適切に対処してきたところだと思います」

出典:http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/156/0003/15607170003023c.html

と答弁している。外国籍を離脱するといっても、国によってはブラジルのように国籍を捨てることを認めていない国もあるし、日本人同士の結婚で生まれた人であっても、米国のように生地主義をとっている国では現地の国籍も持つことになる。差別的な感情論だけで重国籍を語るのではなく、時代遅れの法律によって、様々な葛藤や困難を抱えるマイノリティーを、新たな法整備によって救済していくことこそ、国会議員の務めではないか。そのためにも、現在の法制度を充分に把握した上で、丁寧な論議をしていくことが重要なのであろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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