「プーチンを逮捕しろ!」人々が叫ぶ理由と法的根拠ー「戦争犯罪人」と馴れ合う安倍政権の愚

外務省前でプーチン大統領の来日に抗議する人々。筆者撮影

日ロ首脳会談のため、14日に来日したロシアのウラジミール・プーチン大統領。安倍晋三首相は地元・山口県で持てなし、日本のメディアも歓迎ムードだが、国際社会ではシリアやウクライナなどへの軍事介入でプーチン大統領に対する批判の声も多い。同日晩、外務省前では市民団体の呼びかけで集まった人々が「戦争犯罪人プーチンを逮捕しろ!」と叫んだ。突飛な主張の様に聞こえるかもしれないが、欧州では、外国の政府要人であっても、いわゆる「普遍的管轄権」の対象となる。

◯プーチン大統領の罪

プーチン大統領来日への抗議行動を呼びかけたのは、「戦争犯罪人プーチンを逮捕しろ!日露首脳会談に異議ありキャンペーン」と「チェチェンニュース編集室」。主催者の一人、大富亮さん(チェチェンニュース編集人)は「約2200万人のシリアの国民の半数が国内外での避難生活を余儀なくされている状況を招いた張本人の一人がプーチン大統領です」と語る。「ロシアは自国と関係の深いアサド政権を擁護し続け、国連安保理でのシリア停戦決議に6回も拒否権を発動しました。ツイッターなどのSNSを見ていると、毎日シリアの人々が地獄のような現地の状況を伝えてきます。シリアのアサド政権による無差別な虐殺を擁護し、ロシア軍にも空爆をさせてシリアの人々を殺し続けているプーチン大統領は、間違いなく戦争犯罪人です」(大富さん)。

取材がてら、主催者からマイクを渡され急遽スピーチしたジャーナリストの林克明さんは「プーチンが過去にしたことも、来日を機会に改めて論じられるべきです」と言う。「1994年以降、独立を求めたチェチェン共和国をロシアは武力でねじ伏せました。このチェチェンへの攻撃の指揮を取ったことで台頭し、大統領になったのがプーチンです。チェチェンでは10年間の戦乱で人口の4分の1にあたる約20万人もの人々が殺されました。現地を16回訪れ、取材した人間として、プーチン来日に黙っていることはできません」(林さん)

ツイッターで知って抗議行動に参加したという、20代の男性もマイクを握り「マスコミは芸能人の不倫や薬物問題とかばかり報じるのではなく、シリア情勢とかをもっと伝えて欲しい」と訴えた。

◯他国の政府要職も逮捕できる「普遍的管轄権」

14日の晩の抗議に先立ち、主催者側は事前に外務省に要請書を渡そうとしたが、外務省側はこれを拒否。主催者側は「プーチンを逮捕し、ICC(国際刑事裁判所)に引き渡すこと」「少なくとも日露首脳会談でシリア空爆とアサド政権支援をやめるよう伝えること」等の要請を封書にして外務省に送った。来日中とは言え、一国の大統領を逮捕するとは、一見、奇異な主張に思えるかもしれないが、戦争犯罪人の逮捕やICCへの引き渡しには、国際条約による法的根拠がある。今回の抗議活動の主催者の一人、杉原浩司さん(武器輸出反対ネットワーク)が解説する。「非戦闘員を大量虐殺するなどの戦争犯罪は、国際的な犯罪として各国が管轄権を有し、自国民でなくても、戦争犯罪の容疑者を逮捕できる―いわゆる『普遍的管轄権』です。2009年末にイスラエルのリブニ前外相がイギリスを訪問しようとしたところ、パレスチナ・ガザ地区での軍事侵攻『鋳られた鉛作戦』(2008年末から2009年1月)について、イングランドの裁判所が逮捕状を出し、リブニ前外相は慌てて訪英を取りやめたという事例があります。同じような事例は、スペインでもありました。日本も戦争犯罪を禁じたジュネーブ条約を批准していますから、普遍的管轄権を行使できますし、またそうすべきなのです」(杉原さん)。

ジャーナリストの林克明さん
ジャーナリストの林克明さん

前出の林さんも「今年10月にフランスを訪問するはずだった、プーチン大統領が急遽、訪問を中止したのも、自身の戦争犯罪が追及されるかもしれないとの懸念があったからです」と言う。

フランスでは、2007年に米国のラムズフェルド元国防長官が訪問した際も、地方裁判所がイラクやアフガニスタンでの捕虜虐待等についての逮捕状を出し、逃げ帰ったという事例がある。実際の逮捕にまでは至らなくても、戦争犯罪人達にとって普遍的管轄権は、かなりの圧力にはなるのだ。

◯戦争犯罪人に舐められる国でいいのか?

今年9月末に「シリア人権監視団」がまとめたところによると、昨年9月からの1年で、ロシアの空爆により殺された人々は、約9364人。うち、民間人が3804人、ISではない穏健派の反体制勢力が2814人。米国や欧州各国などの有志連合による空爆でも約6300人が殺されているが、一国で殺している数としては、ロシアは群を抜いている。クラスター爆弾など、国際社会が使用を禁じている非人道兵器をロシア軍が使っていることや、現地の病院を空爆した疑惑なども大問題だ。今年9月以降もロシア軍は、シリアでの猛空爆を続けており、犠牲者は増える一方である。こうした戦争犯罪を全く無いことのように、安倍政権が経済支援などの土産をプーチン大統領に持たすだけならば、空爆の脅威にさらされるシリアの罪なき人々を見捨てるというだけでなく、日本のイメージもまた低下する。少なくとも、もっと国際情勢に対し敏感になるべきだ。普遍的管轄権についても、マスコミ関係者ですら知らない者は少なくない。より幅広い層での議論が必要なのだろう。

(了)

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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