拉致問題「もう時間ない!」―蓮池透さん、対北朝鮮の戦略見直しの必要性を語る

都内で講演する蓮池透さん。今年5月、筆者撮影。

「とにかく、拉致被害者にもその家族にも、もうあまり時間がありません。日本政府には、口先だけではなく、北朝鮮との対話も含めて、拉致被害者の救出に全力を注いで欲しい」。苦渋に満ちた表情で、そう語るのは、蓮池透さん。拉致被害者・蓮池薫さんの兄で、独自の視点から拉致問題についての考察を発信し続けている。北朝鮮が核実験を続け、日本側も経済制裁を強化するなど、ますます、拉致問題の「解決」が遠のく中、蓮池さんは、「拉致問題に対する戦略の見直しが必要」と訴える。

〇経済制裁一辺倒では拉致被害者は救えない

蓮池さんが以前にも増して、「時間がない」と焦る理由は、拉致被害者や日本で再会を待ち望むご家族の高齢化だ。「2002年の9月17日の日朝首脳会談から14年。最初の拉致被害発生から、40年近くがたっています。それだけの長い時間がたってしまいますと、被害者の生命というものが年齢的に非常に心配になります」(蓮池さん)。

政府認定の拉致被害者17人のうち、蓮池さんの弟、薫さん含む5人は、小泉政権時の2002年に帰国を果たしたものの、その後、具体的な成果がないのは、日本政府の戦略性の無さのためだと、蓮池さんは指摘する。

「安倍首相は、さんざん拉致問題を利用してきたものの、結果的には、何も重要な成果を出せていません。現在も『拉致問題は最優先課題』としていますし、『あらゆる手段を使う』と言っていますが、やったことは経済制裁、それから拉致問題対策本部、および担当大臣の設置くらいです。経済制裁一辺倒では、拉致被害者が帰ってこないことは、この間の年月が証明していると思います」(蓮池さん)

日朝両政府は、2014年、北朝鮮側の拉致被害者の再調査と、日本側が独自制裁の一部解除するなど柱とした「ストックホルム合意」に至ったが、その後、進展はなく、北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返し、今月9日には5回目となる核実験を行ったことを受けて、安倍政権は米国と経済制裁の強化で一致した。こうした動きも、拉致被害者の救出が遠のくことになる、と蓮池さんは懸念する。

〇核と拉致、切り分けての対応を

相次ぐミサイル発射実験や核実験に、日本の世論が反発するのは、当然のことだ。だが、こうした挑発行為は、あくまで米国に対してのものであり、北朝鮮は日本にむけた攻撃を意図している訳ではないのでは―筆者は以前、そうした趣旨の記事を書いたが(関連情報)、蓮池さんも「その通りだと思う」と同意する。「北朝鮮の核開発に対する米国を中心とした国際的な対応と、日朝の拉致問題での協議は、切り分けて考えるべきだと思います」(蓮池さん)。折しも、北朝鮮訪問から今月13日に帰国したアントニオ猪木参議院議員は、会見で「核実験は米国に対して行ったものとの説明を受けた」と報告。また、今週16日には拉致被害者の家族会代表で田口八重子さんの兄の飯塚繁雄さん(78歳)が加藤勝信・拉致問題担当相を訪問し、「核とミサイルの解決には相当長い時間が必要。拉致被害者の救出はこの二つの問題と切り離し、第一優先でやっていただきたい」と要請している。

〇拉致被害者救出のために何ができるか?

拉致被害者救出のために、具体的には何をするべきなのか。蓮池さんは「過去の清算と、あらゆる外交ルートを活用していくことでしょうね」と語る。「北朝鮮はやはり何のメリットも得られなければ、行動はしないと思います。過去を振り返ってみても、5人の被害者と家族を帰したら日本から帰って来たのは経済制裁。これは北朝鮮側にとっては大きなトラウマになっていると思います。ですから、日本の植民地支配による過去の問題を清算することをテコに拉致問題について、ギブ・アンド・テイクという形で交渉していくことが必要なのではないか、と思います。そのためにも、北朝鮮の政権トップ周辺の人脈と交渉することが重要です。金正日総書記の元専属料理人の藤本健二さんは、金正恩第一書記とも親しく、今年4月に3時間も面会しています。藤本さんに日本政府と金正恩第一書記の橋渡しをしてもらう、ということは有効なのではないかと思います。北朝鮮とのスポーツ交流を続けているアントニオ猪木参議院議員も北朝鮮の政権ナンバー2の金永南最高人民会議常任委員長とも会談するなど、有力な人脈があります。こうした、外交ルートを活用することが、非常に大切だと思います」(蓮池さん)。

これまで北朝鮮が行ってきたこと自体に大きな原因があるにせよ、とかく、日本の政治家達もメディアも、北朝鮮に対しては、冷静さを失いがちだ。だが、蓮池さんが指摘するように情緒的な対応だけでは、問題の解決には至らないことは、この14年の年月が証明しているのであろう。拉致被害者やそのご家族の高齢化が進むなかで、これまでとは異なる、思い切った対応が必要なのだ。

(了)

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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