Yahoo!ニュース

やはり「人殺し予算」ー防衛装備庁がイスラエルと兵器の共同研究、「死の商人」化する安倍政権

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
イスラエル軍に攻撃された救急車 2014年、パレスチナ自治区ガザにて筆者撮影

やはり、「人殺し予算」じゃないか。そんな言葉が憤りと共に出てくる。藤野保史衆議院議員がNHKの討論番組で、防衛費を「人を殺すための予算」と発言したことが論議を呼んでいるが、藤野議員の発言は、部分的には正しい。防衛省・防衛装備庁が、イスラエルと無人偵察機(ドローン)を共同研究する準備を進めていると、共同通信や朝日新聞などが先月30日、報じた。2000年以降、イスラエルは、数年おきにパレスチナ自治区やレバノンなどに大規模な攻撃を仕掛け、女性や子どもなどの非戦闘員も多数殺傷している。また、イスラエルは無人機を単に偵察目的ではなく、攻撃用としても使用しており、実際に無人機による攻撃は、パレスチナ自治区の人々にとっては大きな脅威だ。国際人道法違反を繰り返すイスラエルとの兵器の共同研究は、平和主義を掲げる憲法の理念に反するだけでなく、中東での日本のイメージ悪化と、在外邦人・企業などのリスク増大にもつながる。

〇イスラエルの無人機に殺されるパレスチナの少年たち

無人機の攻撃で負傷したムハンマドくん(右)と心配そうに覗きこむ父親
無人機の攻撃で負傷したムハンマドくん(右)と心配そうに覗きこむ父親

「イスラエル軍の無人機のプロペラ音が聞こえたんだ。だから、僕は慌てて走って逃げたけど、爆発に巻き込まれた…」。その少年、ムハンマド・アル・アイラくん(当時10歳)は、うつろな目でそう語る。無残に溶けた火傷が痛々しい。2014年7月から8月の約50日間、イスラエルはパレスチナ自治区ガザに突如侵攻し、「テロ掃討」の名目で、2200人以上を殺害した。その大半は民間人だった。当時、筆者も現地入りし、ガザ市の病院で会ったのが、ムハンマドくんだった。全身に大火傷を負ったものの、何とか命をとりとめたが一緒にいた友人の少年は助からなかった。攻撃があった、ガザ市北部のビーチキャンプ地区で会ったアマラ・アブシャちゃん(当時9歳)は、「死んだ弟が毎晩、夢に出てくるの。だから、いつもよく眠れない…」と訴える。ムハンマドくんと同じく、弟がイスラエル軍の爆撃で殺されたのだという。ムハンマドくんら子ども達を殺したのは、イスラエル軍が多用する無人機だ。単に偵察に使われるだけでなく、小型ミサイルを装備し、人々を殺傷していた。実際、筆者が現地で取材をしていて、最も警戒していたのが、こうした無人機による攻撃である。上空から「ブーン」とかすかに響くプロペラ音が次第にはっきり聞こえてきて、その場から退避するということが、取材中、幾度もあった。

〇堀地徹・防衛装備政策部長に問いただしたい!

防衛装備庁が、イスラエルと兵器の共同開発を行おうとしている布石は以前からあった。武器輸出反対ネットワーク代表の杉原浩司さんは憤る。「約2年前、堀地徹・防衛装備庁防衛装備政策部長(当時の肩書は課長)は『イスラエルの実戦を経験した技術力を日本に適用することは、自衛隊員のためにもなるし、周りの市民を犠牲にしないで敵をしっかり捉えることは重要』『(イスラエルの)機体と日本の技術を使うことでいろいろな可能性が出てくると思う』との信じられない暴言を吐いていました*。遂にその悪夢が現実化しようとしています。どうしても食い止めなければなりません」

*2014年10月放映、NHKスペシャル『ドキュメント武器輸出』より

30日付けの朝日新聞での記事によれば、先月中旬、パリで開催された国際武器見本市『ユーロサトリ』で、イスラエル国防省幹部と、会談していたのが、やはり堀地・防衛装備政策部長だという※。彼は、今年4月に都内で開催されたシンポジウムで、前出の杉原さんに、「戦争犯罪国家イスラエルと武器開発するのか?」と問いただされた際、「あなたの質問に答える義務はない」と開き直ったそうだが、筆者としても是非、堀地・防衛装備政策部長に問いただしたい。貴方は、2014年夏のガザ攻撃で何が起きたか、知るべきではないか。貴方が言う、「イスラエルの実戦を経験した技術力」で被害を被った、ムハンマドくんらの犠牲を直視するべきではないか、と。

杉原さんは、こう訴える。「防衛装備庁と中谷防衛大臣に対して、『イスラエルとの無人機共同研究をしないでください!』との声を大至急届けてください。短いものでも構いません。一通でも多くの声が集中することが重要です。ファックスや電話、メールをお願いします。お知り合いにもどんどん広めてください」

画像

武器輸出反対ネットワークhttps://najat2016.wordpress.com/

〇武器輸出も参院選の争点に

パレスチナの人々は、「私達は毎日、メイド・イン・アメリカに殺されている」と言っていた。イスラエル軍の使用する兵器には米国産のものが少なくないからだ。だが、今後は、「私達は毎日、メイド・イン・ジャパンに殺されている」と言われるようになるかもしれない。本稿始めの部分で紹介した、藤野議員の発言は、確かに東日本や九州などの震災で多くの自衛隊員が現地で汗を流し、被災者支援をしたことについては、配慮が足らなかったのだろう。だが、一方で安倍政権の下で、防衛省が武器輸出や他国との兵器の共同開発・研究に前のめりになっていることも見過ごしてはならないのである。平和国家として、日本の国是であった武器輸出三原則を2014年に撤廃し、ついには国際人道法違反の戦争犯罪常習犯であるイスラエルとまで兵器ビジネスを進めようとする安倍政権。このままでは、今後ますます「人殺し」ビジネスに、私達の税金も「予算」としてつぎ込まれることだろう。有権者の方々には、参院選の争点として、安倍政権の武器輸出の問題も、是非、考慮に入れてもらいたい。

(了)

※追記:堀地氏は今月1日付けで「南関東防衛局長」に異動したとのこと

イスラエル軍の空爆で負傷したガザの少女
イスラエル軍の空爆で負傷したガザの少女
イスラエル軍の空爆で、ジャベル一家は女性や子ども含む18人が殺された
イスラエル軍の空爆で、ジャベル一家は女性や子ども含む18人が殺された
イスラエル軍の爆撃で炎上するガザ唯一の発電所
イスラエル軍の爆撃で炎上するガザ唯一の発電所

*いずれも筆者の撮影。写真の無断使用を禁じます。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポ

税込440円/月初月無料投稿頻度:月2、3回程度(不定期)

Yahoo!ニュース個人アクセスランキング上位常連、時に週刊誌も上回る発信力を誇るジャーナリスト志葉玲のわかりやすいニュース解説と、写真や動画を多用した現場ルポ。既存のマスメディアが取り上げない重要テーマも紹介。エスタブリッシュメント(支配者層)ではなく人々のための、公正な社会や平和、地球環境のための報道、権力や大企業に屈しない、たたかうジャーナリズムを発信していく。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

志葉玲の最近の記事