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安倍首相とICAN事務局長が会えなかった理由の中身をなぜマスコミは伝えないのか?

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
安倍首相は外遊翌日に訪日する豪ターンブル首相と会談の予定が入っていた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ノーベル平和賞を受賞した国際NGO『核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)』の事務局長が来日中に安倍晋三首相への面会を希望したが、断られたとして安倍首相に対して「なぜ会わないのか」との批判が起きています。

 私としても「会った方が良い」とは思いますが、状況を調べていくうちに今回は本当に会えなかったのではないかとの考えに至りました。

報道時、安倍首相は外遊中

 そもそも1月15日に時事通信が「日程の都合を理由に安倍首相がICAN局長の面会を断った」と最初に伝えたとき、安倍首相はバルト3国を中心としたヨーロッパ外遊中でした。

 菅義偉官房長官は15日午前の記者会見で、昨年12月にノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の事務局長で来日中のベアトリス・フィン氏から要請を受けていた安倍晋三首相との面会を断ったと明らかにした。菅氏は「日程の都合上難しい」と説明した。

出典:安倍首相とICAN局長の面会断る=政府:時事ドットコム

 安倍晋三首相は12日午後(日本時間同日夜)、バルト3国と東欧の計6カ国への外遊の最初の訪問国となるエストニアに到着した。6カ国とも日本の首相の訪問は初めてで、各国首脳との会談が予定されている。17日に帰国する。

出典:首相、バルト3国と東欧歴訪へ エストニアに到着:朝日新聞デジタル

 日本にいないのですから、安倍首相が会えるわけがありません。

ICANの面会申し入れはヨーロッパ訪問日程の決定後

 ただ、なかには「ICANがくるから安倍首相はヨーロッパ外遊を決めたのでは?」と疑う人もいることでしょう。

 しかし、事実としては政府がバルト3国訪問の調整に入ったのは12月14日です。

政府は14日、安倍晋三首相が来年1月中旬、エストニアなどバルト3国とブルガリア、ルーマニア、セルビアの欧州計6カ国を歴訪する方向で調整に入った。12~18日の日程を想定している。政府関係者が明らかにした。外務省によると、日本の首相がこれらの国々を訪れるのは初めて。

出典:安倍首相、来月欧州6カ国歴訪へ エストニア、ブルガリアなど - 共同通信

 これに対してICANの面会申し入れは12月下旬です。

 先方の政府に対して「1月12~18日の日程」ですでに調整を申し込んでいるわけですから、ここに後から「やっぱりICANの事務局長と会うからナシで」とは言えません。

 ついでに言うとこの外遊のために国会の日程すら調整しているわけです。

この日程を受け、19、22両日で検討してきた通常国会の召集日は、国会対応への準備のため22日となることが固まった。

出典:安倍首相、来月欧州6カ国歴訪へ エストニア、ブルガリアなど - 共同通信

 今回の件ではICAN側の申し入れが遅かったと言えます。

17日帰国後に豪首相との会談が控えていた

 とは言え上記で引用した朝日新聞の報道にあるように、安倍首相は17日に日本に帰国する予定でした。

 ICAN事務局長のベアトリス・フィン氏は18日まで東京に滞在しているわけですから、会える可能性があったとも言えます。しかし、実際には会えていません。

 そこで私がチェックしたのは17日、18日の首相動静です。それぞれの日の動きを見ると、会えた可能性があったのは17日しかありません。

 というのも翌18日はオーストラリアのターンブル首相が訪日されることが決定しており、安倍首相は朝からターンブル首相を出迎えているからです。

 対して17日は16時9分に日本に帰国し、16時43分に皇居で帰国の記帳。その後、17時2分から東京・二番町の表千家東京稽古場着の初釜式に出席、会食しています。つまり、面会するのであればここしかありませんでした。

 ただ、上述の通り18日は訪日される豪ターンブル首相を出迎えなければいけません。普通に考えると会談のための準備が必要ですし、安倍首相は外遊の疲れについても語っています。

「60(歳)を超えるとだんだん、つらいなっていうものがある」。安倍晋三首相は19日、東欧など6カ国を訪れた4泊6日の外遊で疲労が募ったと漏らした。「ちょっとつらいなっていう雰囲気を見せると、政治という世界は怖いから、『ガブッ』てなるので、そういう姿はなるべく見せないようにしている」と続け、隙を見せられない政界の厳しさを冗談交じりに語った。

出典:安倍首相「60超えると、つらいものがある」外遊で疲労:朝日新聞デジタル

 外遊で疲れた翌日に豪ターンブル首相との会談が控えているなかで、ICANとの面会をねじこむ必要性はあるでしょうか? どちらが大事かと考えると、私はターンブル首相との会談に力を入れて欲しいです。

 また、安倍首相は面会できませんでしたが、ICAN事務局長との討論会に自民党からは佐藤正久外務副大臣や武見敬三参院政審会長が出席しています。

 この状況で「安倍首相が逃げている」と批判されているのはあんまりではないかと思います。

 マスコミはもちろんこのような状況を把握しているでしょうから、面会申し入れから断った理由まできっちりと読者に伝えて欲しいものです。伝えるべきことを伝えない「報道しない自由」には賛同できません。

ICAN面会申し入れから断りまでの一連の流れ

  • 12月14日:1月12~18日の日程で欧州訪問調整
  • 12月下旬:ICANが16~18日で面会申し入れ
  • 1月10日:政府が欧州訪問期間が12~17日の日程になると発表
  • 1月12日:1月18日に豪ターンブル首相の訪日発表
  • 1月14日までのどこか:外務省経由でICANに面会できないとの回答
ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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