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松本人志さん「芸能活動休止」に激震のテレビ界や裁判を含めた今後の展開はどうなる!?

篠田博之月刊『創』編集長
松本人志さん(写真:Splash/アフロ)

松本人志さん「芸能活動休止」の激震

 松本人志さんの「芸能活動休止」がテレビ界・芸能界に激震を与えている。この問題については以前、このヤフーニュースに下記の記事を書き、大きな反響を呼んだ。

芸能界を激震させた松本人志「性加害」問題の行方を決める『週刊文春』の続報と#MeToo

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ac510122c4bb3f1a7805be0116cd2b15017f9bb3

 最初に書いたのは1月7日だが、8日に吉本興業が松本さんの「芸能活動休止」を発表したので記事の末尾に追加した。発表の骨子部分はこうだ。

《このたび、松本から、まずは様々な記事と対峙して、裁判に注力したい旨の申入れがございました。そして、このまま芸能活動を継続すれば、さらに多くの関係者や共演者の皆様に多大なご迷惑とご負担をお掛けすることになる一方で、裁判との同時並行ではこれまでのようにお笑いに全力を傾けることができなくなってしまうため、当面の間活動を休止したい旨の強い意志が示されたことから、当社としましても、様々な事情を考慮し、本人の意志を尊重することといたしました。》

松本人志さんの「活動休止」を大きく報じたスポーツ紙(筆者撮影)
松本人志さんの「活動休止」を大きく報じたスポーツ紙(筆者撮影)

 たくさんのレギュラー番組を抱えている松本さんだから、本人が出演しないとしたら番組をどうするのか、テレビ界に激震が走ったことは間違いない。当面は既に収録したものを放送するとか、代役を立てるとかの対応になるが、松本さん不在では成立しない番組もあるから終了になるものあるだろう。ただこの4月改編には間に合わないので、当面は苦慮しながら番組は存続させることになりそうだ。

 例えばフジテレビが激戦区の日曜夜に大きな覚悟でスタートさせた『まつもtoなかい』など、2023年前半は裏番組のTBS『日曜劇場』の快進撃で苦戦し、さあこれからという時期に今回の事態。制作側は大きなショックを受けているに違いない。

活動休止決定は『週刊文春』第2弾を知ったうえで

 前回の記事で、今後の展開がどうなるかについてはこう書いた。

《この問題が今後どう展開するかは、『週刊文春』が掲載するだろう第2弾第3弾にかかっている。同誌の2022年の映画界性暴力告発も、23年の旧ジャニーズ事務所性加害告発も、第1弾を放った後、次々と告発が続き、まさに#MeTooのうねりとなったことが事態を大きく動かした。今回の問題で果たしてそういう動きが広がるのかどうか。そこが今後の展開の分かれ目だ。》

 その結果はと言えば、さすが『週刊文春』。第2弾でさらに松本さんから性加害を受けたという新たな女性3人が登場した。そして、吉本興業が松本さんの活動休止を決めたのは、それを受けたものだったことも明らかになった。第1弾の2人の告発だけで終わってしまえば『週刊文春』が追い詰められた可能性があったが、現実には明らかに松本さん側が追い詰められたわけだ。松元さん側は提訴を決めたと言っているが、流れを左右するのは、次号の第3弾でさらに女性たちの告発が広がるかどうかだろう。まさに#MeTooという時代の流れが状況を決するというのが今の状況だ。

『週刊文春』第2弾の1月18日号(筆者撮影)
『週刊文春』第2弾の1月18日号(筆者撮影)

 そう書いたうえで、この間の動きを少し整理しておこう。

「松本人志SEX上納システム3人の女性が新証言」では新たに3人の女性が告発を行った。記事によると、同誌が締切前に内容を吉本興業側にぶつけたところ、8日に「法的措置を講じる」という回答が届き、その約4時間後に、松本さんの活動休止が発表されたのだという。

 『週刊文春』第1弾は、東京で松本さんの後輩芸人に呼ばれた女性が指定された高級ホテルに行ってみると何人かの女性が呼ばれており、松本さんらに性交渉を迫られたという内容だったが、第2弾では、福岡や大阪などでも松本さんの番組収録の機会に、同様の手口で女性が集められ、性交渉を迫られたと、女性3人が告発している。『週刊文春』は“SEX上納システム”と書いているが、似たような手口で性加害が繰り返し行われてきたというわけだ。

CMスポンサーの対応など旧ジャニーズ事務所問題の影響

 双方の主張は真っ向から対立しているが、事態に大きな影を落としているのは、昨年の旧ジャニーズ事務所性加害問題だ。

 例えば1月10日の事業方針を説明する記者会見でアサヒビールの松山一雄社長は、この問題について訊かれて「人権に関する基本方針に照らし、そのつど適切な対応を撮っていかなければならない」と話したことが読売新聞その他で報道された。その日、アサヒビールとサントリーが、23年12月29日の松本さんが出演した『人志松本の酒のツマミになる話』で、広告代理店を通じてCMに社名を表示しないよう要請していたことも報じられている。旧ジャニーズ問題を受けて、CMスポンサーが敏感に反応し始めたわけで、この動きはテレビ局にとっては無視できないものだろう。

 この問題を報じた『週刊現代』1月13・20日号は、影響は松本さんの番組にとどまらず、「吉本芸人がバラエティから追放される可能性もある」とまで書いている。そう単純には行かないだろうし、裁判になっても吉本興業は距離を置く可能性もある。しかし、旧ジャニーズ問題で、所属していたタレントが「紅白歌合戦」から排除された経緯などを見ていた芸能事務所にとっては、最悪の事態も想定しなければならない動きになっていることは間違いない。今回の事態が芸能界・テレビ界へ及ぼした影響は甚大だと言える。

  当初、松本さんは1月14日のフジテレビ「ワイドナショー」に出演するとX(旧ツイッター)に投稿していたが、結局出演は見送られた。フジテレビと吉本興業側が話し合いの末そうしたと言われるが、テレビ局としても一方的に松本さん側に立ったと見られるのを恐れたろうし、この間の旧ジャニーズ問題はいろいろな局面に影響を及ぼしているといえよう。

1月14日の『ワイドナショー』に松本さん出演せず(筆者撮影)
1月14日の『ワイドナショー』に松本さん出演せず(筆者撮影)

今後の裁判はどうなる?

 松本さん側は提訴の方針を明らかにしているから真相はいずれ法廷で争われることになろうが、松本さん側は、今回告発している女性たちは合意のうえでホテルでの飲み会にやってきたのであって性加害の強要という事実はないという主張を行うのだろう。『週刊文春』第1弾で証言した女性は、既に法廷で証言する決意も表明しているが、今回匿名で証言している女性たちがどの程度法廷で直接証言を行うかも含め、裁判所がどういう認定を行うかはそう単純ではない。

 この点でも旧ジャニーズ事務所問題が参考になるが、かつて『週刊文春』が旧ジャニーズ事務所に提訴されて、性加害の認定においては勝訴したのは、被害にあったジャニーズJr.が法廷で証言したことが大きかった。挙証責任は報道した側にあるから、記事が真実であることあるいは真実と思われることを証明しないと報道した側の敗訴になる。

 週刊誌には匿名で証言したとしても、その当事者が法廷でも証言を行うかどうかは簡単ではない。松元さん側も、そのへんも含めて判断しているのだろう。旧ジャニーズ事務所問題では多くのメディアやスポンサー企業が沈黙していたことを反省したのだが、そうなった大きなポイントは、旧ジャニーズ事務所が性加害を認めて謝罪したことだ。ジュリー前社長がビデオメッセージで謝罪した時から、新聞・テレビが堰を切ったように大報道を始めたのを思い出してほしい。

 新聞・テレビが大報道に踏み切ったのは、あくまでも当事者が認めたからで、週刊誌に報じられた側があくまでも事実無根と主張している場合は、そう簡単ではないのが実態だ。旧ジャニーズ事務所報道と同時期、『週刊文春』がキャンペーンを張っていた木原事件については新聞・テレビはほとんど踏み込まなかった。「疑惑」段階では新聞・テレビは訴訟リスクを考えて踏み込んだ報道をしないという現実自体は、旧ジャニーズ問題を経た今も基本的に変わっていない。

 したがって今回の問題も、今後の行方は不透明だし、そのあたりも踏まえて松本さん側は弁護士と相談しながら対応を決めているのだろう。

行方を決するのは#MeTooの動き

 ただ、今回の動きを見ていて、これまでの状況と違うと思えるのは、#MeTooという時代のうねりだ。『週刊文春』の第2弾で新たな告発が広がったことが松本さん側を追い詰めているのは確かだし、今後、第3弾でさらに告発が広がるとなると、CMスポンサーの対応も広がるだろう。

『週刊文春』は第1弾掲載後、新たに「女性たちの証言が続々と寄せられた」と書いている。今回の事態の行方を決するのは、#MeTooの歴史的動きが日本でどの程度定着しつつあるのかだろう。様々な意味で権力を持った人間に一人で立ち向かうのは大きな困難を伴うが、次々と告発が広がればそれ自体が大きな意味を持つ。それが世界的に広がったのが#MeTooだが、今回の問題がどうなるか行方を決定するのはまさにその流れだろう。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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