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奥なな商店の「春馬提灯」――「春友」さんたちが取り組んだ奇跡のような、ちょっといい話

篠田博之月刊『創』編集長
奥なな商店の春馬提灯。右端が奥山さん、手前が脇屋さん(脇屋さん提供)

 三浦春馬さんをいまだに慕う「春友」さんたちの活動が、各地で続けられている。最近話題になったのは、10月17日の神戸みなと花火大会で流れる使用曲に春馬さんのnightdiverが選ばれたとか、第1回京都映画賞1位に春馬さん出演映画『太陽の子』が選ばれ、10月11日に京都市役所前で野外上映されたといったものだ。春馬さんのあの事件からもう3年以上経っているのだが、いまだに春友さんたちは何かの機会を見つけては春馬さんの作品などを推薦・推奨する活動を続けているわけだ。

 さてここで紹介したいのは、東京・吉祥寺の「奥なな商店」に飾られている春馬提灯をめぐるエピソードだ。11月下旬までその春馬提灯が飾られているから、興味のある方は訪れてほしいと思うが、どういう経緯でそれが飾られることになったのか、ここでは脇屋恵子さんの報告を紹介しよう。

春友さんたちがお金を集めて春馬提灯を

《9月16日、吉祥寺の奥なな商店さんを訪問しました。

 私を含む春友さん5名で11時の開店30分後くらいに行ったのですが、私たちの前にも4人の春友さんたちが来ていたとのことでした。

 オーナーの奥山さんの快諾を頂き、写真を撮影しました。顔出しの赤いエプロンの女性が奥山さんです。

 元々は、春馬さんが青森県の小山内冷菓店バナナアイスのCMに出演したことがきっかけでした。奥なな商店さんは、期間限定の青森県のアンテナショップ(オーナーの奥山ななこさんは青森県出身)で、小山内冷菓店さんよりバナナアイスを仕入れて、販売しています。

吉祥寺の奥なな商店(脇屋さん提供)
吉祥寺の奥なな商店(脇屋さん提供)

 この度、春友さんたちでお金を集め、小山内冷菓店さんと奥なな商店さんに、春馬さんの名前が入った提灯を置いてもらうため、提灯作成を職人さんに依頼したのです。

    春友さんたちの思いが込められた春馬提灯(脇屋さん提供写真)
    春友さんたちの思いが込められた春馬提灯(脇屋さん提供写真)

 小山内冷菓店さんでは一足先に提灯が飾られましたが、つい先日、吉祥寺の奥なな商店さんでも“三浦春馬”の名前が入った提灯がお目見えしたという訳です。》

 先日、その奥なな商店の奥山さんと電話で話したが、ホームページで見ると、このお店の由来自体がなかなか感動的で、近々ぜひ行ってみたいと思う。さて、上記の説明だけではわかりにくいので、脇屋さんにさらに詳しい経緯を報告していただいた。なかなか良い話なのだ。

SNSで拡散し「奇跡」が起こった

《春馬さんが青森県・弘前市の老舗アイス店「小山内冷菓店」さんの危機を救った、という話を今年の5月、X(旧ツイッター)で知りました。

 そこで紹介されていた新聞記事によると、テレビCMで春馬さんは小山内冷菓店さんのバナナアイス(バナナの形を模したアイス)を作る姿を披露していたとのことでした。春馬さん効果からか、バナナアイスは地元の方だけではなく、北海道から九州まで注文がある人気商品になったそうです。

 しかし今年4月、小山内冷菓店さんはバナナアイスを製造していたフリーザーが突然動かなくなってしまうというアクシデントに見舞われました。小山内さんが業者に相談したところ、壊れてしまったフリーザーは50年以上前のもので、今となってはフリーザーを作ったメーカーもすでに存在していませんでした。

 新品を購入するにしてもお金が掛かり過ぎる…。一時はバナナアイスの販売を諦めた小山内さんでしたが、ここで奇跡が起きたのです。

 4月8日、バナナアイスを求めて小山内冷菓店さんを訪れた春友さんが事情を聞きツイッターで拡散したのです。

 すると、そのことが弘前の製造業の方の目に留まり、バナナアイスは地元でも愛されているアイスということで、その製造業者さんは小山内冷菓店さんを訪問。そして店内にかつて防空壕として使用していた地下の空間があることがわかり、そこで使わなくなっていた冷蔵庫のモーターを発見!

 まさに奇跡。数十年前のモーターはまだ動き、故障したフリーザーのスペックとほぼ同じだったのです! 修理には時間がかかりましたが、廃業まで考えていた小山内冷菓店さんは持ち直したのです。

 そして、その小山内冷菓店さんからバナナアイスを仕入れているのが、吉祥寺に期間限定で店舗を構える青森県のアンテナショップ「奥なな商店」さんです。

 このたび、春友さんたちでお金を集め、小山内冷菓店さんと奥なな商店さんに、春馬さんの名前が入った提灯を置いてもらいました。提灯は、福井県の提灯職人さんが作ってくださいました。

 私はその奥なな商店さんに9月、春友さんと訪れたのですが、青森出身のオーナーの奥山さんは春馬さんのCMのことは御存じなかったそうです。ただ、春友さんから送られた『日本製』を通じて春馬さんのお人柄を感じて頂けたようです。

『日本製』も飾られている(脇屋さん撮影)
『日本製』も飾られている(脇屋さん撮影)

 奥なな商店さんで春馬さんの名前の入った提灯を眺め、バナナアイスを楽しんだ後は、吉祥寺に詳しい春友さんに案内して頂き、吉祥寺近辺の春馬さんゆかりのお店をいくつか巡りました。

 春友さんの言葉が印象に残っています。

「春馬さんは今でもそこかしこで生き続け、お店まで助けて周りを幸せにしているんだよね」》

いまだに強固な春友さんたちの「輪」

 私が編集している月刊『創』(つくる)では毎月、全国の春友さんから様々な情報提供があり、ここで紹介した春馬提灯もそのひとつだが、いつも感心するのは、春友さんたちの行動力だけでなく、その行動が多くの場合、人間の温かさを感じさせるものにつながっていることだ。世界で次々と戦争が起こっているような殺伐とした現代に、何かほっこりとした温かさを感じさせる、それがこの春友さんたちの「輪」がいまだに衰えることなく広がっているゆえんなのだろう。

 奥なな商店の春馬提灯、吉祥寺を訪れる人はぜひ立ち寄ってみてはどうだろうか。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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