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袴田事件再審開始決定を受けて再審法改正へのうねりが。5月19日に関係者が一堂に会して議論

篠田博之月刊『創』編集長
3・13袴田事件再審開始決定直後の東京高裁前(筆者撮影)

5月19日に「再審法改正をめざす市民の会」が集会

 袴田事件の再審開始を受けて冤罪や再審についての関心が高まっているが、5月19日に袴田事件と再審法改正をめぐる大きな集会が開かれ、2014年に静岡地裁で袴田事件再審開始決定を出した村山浩昭元裁判長と、現在袴田弁護団所属の水野智幸元裁判官の対談が実現する。

 朝日新聞もこれについて5月18日の紙面で報道し、朝日新聞デジタルには17日にアップされた。

https://digital.asahi.com/articles/ASR5J61BSR5HOXIE027.html?iref=pc_ss_date_article

袴田さんの釈放を認めた元裁判長、19日に対談 再審制度の問題点は

 この対談は、弁護士の鴨志田祐美さんや元裁判官の木谷明さん、映画監督の周防正行さんなどが取り組んできた「再審法改正をめざす市民の会」(通称RAIN)が5月19日の正午から参議院議員会館で開催する結成4周年記念集会で行われるものだ。IWJでオンライン配信も予定されており、下記のRAINのホームページからアクセスできる。

https://rain-saishin.org/

 私もそのRAINの運営委員のひとりだが、「市民の会」といっても、元日弁連会長の宇都宮健児さんや、布川事件の桜井昌司さんら中心メンバーはそうそうたる顔ぶれだ。再審法改正をめざしてこれまで様々な活動を行ってきた。

袴田巖さんの近況は…

 その話の前に、最近の袴田巖さんの様子について、支援者の話を紹介しよう。これまで巖さんの外出に付き添う「見守り隊」の活動などが続けられてきた。

「巖さんは、以前は毎日5~6時間歩いていたのですが、最近は車での外出になり、足腰その他の体調面がやや弱っているようです。加えて、好物の鰻にはまっており、コレステロールなどへの影響が心配されているようです。

 最近も、週に5回も鰻を食べたそうです。支援者のクルマで街歩きに行き、戻って来てから駅まで行き、うなぎを食べたことがあったそうです。

 また学習会で木谷明弁護士が巖さんに『体調はいかがですか?』と聴いたところ、巖さんは『ウナギを食べていれば、死なないで済むんだ』と答えたとのことです。

 この間、メディアが多数訪れているのも大きな変化で、『最高裁長官である自分』が東京の最高裁へ行かなければならないとも考えているようです。でも全体としてみれば、日常は穏やかで従来と変わらない様子です」

袴田事件で明らかになった重大な問題

 この袴田事件では2014年に再審開始決定が出されたのに検察が抗告を行ってその妨害を9年2カ月も続けてきたとか、現在の再審の仕組みの問題点があらわになっているばかりか、今回の東京高裁の再審開始決定でも改めて捜査側の「証拠捏造」の可能性が指摘されるなど、重要な問題が幾つも浮かびあがっている。

3月13日再審開始決定を受けた会見でひで子さんと日弁連会長(筆者撮影)
3月13日再審開始決定を受けた会見でひで子さんと日弁連会長(筆者撮影)

 それらの問題点や再審法改正の必要性については、月刊『創』(つくる)5月号で鴨志田弁護士や江川紹子さんらによる座談会を行ったが、その全文を先頃ヤフーニュース雑誌に公開した。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a88ba633b828807b0a3a930a23126733a9cae40d

袴田事件再審開始決定!今こそ再審法の改正を  鴨志田祐美[弁護士]・木谷明[弁護士]・周防正行[映画監督]・江川紹子[ジャーナリスト]

 そのなかで袴田事件をめぐる捜査側の証拠捏造についてはこういう指摘がなされている。

《鴨志田 冤罪と制度改革の問題を考える時に検証ってすごく大事なんですね。他の国は冤罪の歴史からそれを検証することによって制度改革に進むという経過を辿っているんです。日本だけが冤罪が晴れた時に「良かったね」と言って、そこをゴールにして終わってしまうんですね。そこから検証して制度改革にという動きにならないんですよ。今までずっとそうなんです。

 特に袴田事件は死刑事件でもあるし、死刑事件で証拠捏造の疑いが極めて高いという時に、それをそのままにして終わるというのは、国家の見識を疑うというレベルだと思うんです。

 だから現実的なところとしては、袴田事件についてこのような判断に至った経緯とか、死刑事件であるということの特性に鑑みて、まずは袴田事件検証委員会という、今までとは全く違う、関係者や有識者とかも入れた検証委員会を作りましょうという提案をしていく。そのあたりからが現実的かと思います。

江川 2011年の福島原発事故の時に、国会のほかに民間でも事故調みたいなのを作りましたよね。民間でできることは限られているとは思いますが、できるだけ広く有識者を集めて検証できないかと思います。国会がやらないというのであれば、民間の市民レベルの検証委員会みたいなのができるといいかもしれないという気はします。》

 この座談会では、再審法改正についてもこう議論されていた。

《木谷 今回の再審開始決定と検察の動きは法改正の絶好のチャンスと捉えるべきです。このチャンスを逃してしまうと、また何十年も経過してしまうことになりますから、今回何が何でも実現すると。

周防 こういうことがないと改正できないというのは情けないとは思いますが、世界を見ても、だいたい大きな問題があった時、大きな事件があった時に動くことが多いので、今回は絶対、動かさないとダメだろうなと本当に思います。》

あの袴田さん釈放の感動から何と9年2カ月が…

 ここに掲げた写真は、2014年に静岡地裁で再審開始決定が出て釈放された袴田巖さんが最初に報告集会に姿を現し、会場が拍手と感動に包まれた瞬間だ。私も参加していたが、あの興奮は今でも覚えている。多くの市民がこれで袴田さんの無罪は近々明らかになると思った。

2014年、再審開始決定が出た直後の集会に姿を見せた袴田さん(筆者撮影)
2014年、再審開始決定が出た直後の集会に姿を見せた袴田さん(筆者撮影)

 ところが何とそれから9年2カ月にもわたって検察の妨害が行われ、いまだに袴田さんは死刑囚のままだ。再審法を改正しない限りこんな理不尽なことがいつまでも続くことになる。

 日弁連が大きな取り組みを行い、国会議員の間でも様々な動きが起きている再審法改正については、それこそ5月19日の集会で議論される。当日は袴田ひで子さんら冤罪犠牲者のアピールも行われるが、議員会館で行われるこの集会に国会議員のどういう人が参加し、発言を行うかも、今後の国会の取り組みを示すものとして重要だ。

今年は再審法改正が大きなテーマに

 木谷弁護士が先の座談会で「法改正の絶好のチャンスと捉えるべきです。このチャンスを逃してしまうと、また何十年も経過してしまうことになります」と語っているように、今年はこれからこの問題が大きな社会的テーマになっていくのは間違いない。

 現状の再審法のどこに問題があり、どう変えるべきなのか。そうした議論が行われる集会の内容はこうだ。

《再審法改正をめざす市民の会結成4周年記念集会

 5月19日(金)正午から14時。参議院議員会館1階101会議室にて。

 登壇者は、村山浩昭弁護士、水野智幸法政大学教授、西嶋勝彦袴田事件弁護団長、袴田ひで子さんらのほか、日本弁護士連合会や他の冤罪事件関係者、国会議員の発言など。》

 再審法改正は今、大きな問題として注目を浴びつつある。集会に直接足を運ばなくてもIWJのオンラインの配信動画を見ればこの問題をめぐる熱い空気が感じ取れるはずだ。ぜひ多くの方が再審法改正に関心を持ってほしいと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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