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なぜこのタイミングで『週刊朝日』休刊、『AERA』を残す決断か、朝日新聞出版社長が語った真相

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊朝日』と『AERA』(筆者撮影)

決断をくだした市村社長本人に真意を聞いた

 1月19日は朝から衝撃を受けた。朝日新聞の朝刊で『週刊朝日』の休刊が発表されていたからだ。発行元の朝日新聞出版のホームページには早朝5時に社告がアップされた。

 その日からネットには休刊を伝えるたくさんのニュースが氾濫したが、この記事は、同誌発行元の朝日新聞出版社長に直接聞いた、重い決断をするに至った真相だ。一問一答の形式で市村社長の話を載せるにはニュアンスも含めて丁寧な確認作業を行わなければならないので、とりあえずそうでない形でこの記事を配信することにしたが、もちろん当人にも確認いただいてこの記事をアップしている。

 

 実はその19日、朝日新聞出版の市村友一社長にインタビューすることが決まっていた。毎年、月刊『創』(つくる)の特集の中で同社の社長に話を聞いているのだが、市村社長がその日を指定してきたのは、それ以前に休刊の話はできないし、インタビューの後になってその話が出るというのも良いことではないという判断だったらしい。『週刊朝日』編集部には前日に伝え、執筆者などへの連絡を始めたらしいが、編集部以外の社員全員に詳しい説明を行うのはその19日で、幹部は1日忙殺されたはずだ。

 まず発行元が公開した社告を紹介しよう。

《週刊朝日は、2023年5月末をもって休刊します。

 大正11(1922)年に創刊した同誌は、日本最古の総合週刊誌として100年余にわたって読者の皆様から多大なるご愛顧をいただきました。心より御礼申し上げます。

 週刊朝日の2022年12月の平均発行部数は74,125部。弊社の業績は堅調ですが、週刊誌市場の販売部数・広告費が縮小するなか、今後はウェブのニュースサイトAERA dot.や書籍部門に、より一層注力していく判断をしました。当社のもう一つの週刊誌AERAは、AERA dot.との連携を強め、ブランディング強化をはかっていきます。(以下略)》

『週刊朝日』は好きな雑誌だったし、『サンデー毎日』とともに最古の総合週刊誌で、戦後出版社系週刊誌が続々と創刊されるまでは、週刊誌といえばその2誌をさす時代が続いていた。当時は両誌ともに部数が100万部を超え、ピーク時には約150万部に達したという。

 その意味で『週刊朝日』の休刊は、間違いなく週刊誌の歴史に残る大事件と言える。デジタル化の波の中で紙の週刊誌はいずれも苦戦し、ウェブに力を入れているが、同誌もコンテンツをAERA dot.にて配信、誌面でも様々な試みを行っていたし、大きな波の中で生き残りの模索を続けていた。

 苦境というなら週刊誌はどれもそうだし、ライバル誌『サンデー毎日』など2022年よりABC公査から離れて部数の公表をやめてしまった。部数が少なくなると公表しない方が良いという判断だが、『週刊朝日』は『サンデー毎日』より部数は多かったはずだ。どの週刊誌もいまやコストを最大限にカットしながら何とか続けているのが実情だ。

『週刊朝日』を休刊させ『AERA』を残すという判断

 その中でなぜ今『週刊朝日』休刊なのか。以下、朝日新聞出版社長に聞いた話を紹介しよう。

 大きな要因は朝日新聞出版が同誌のほかに『AERA』も出していたことだ。小学館のような大きな出版社なら『週刊ポスト』『女性セブン』の2誌を発行するというのはあり得るが、朝日新聞出版はそこまで大きな出版社ではなく、週刊誌2誌を継続発行するのは体力的に厳しいという判断があったようだ。週刊誌は編集者や記者の人数も多いし、総合力がないと維持するのが困難だ。かつて大きな利益を上げていた頃は2誌持っていることはプラスに働いたろうが、苦境に立たされる中では半端でない負担となる。

 何年か前から、どちらか1誌を休刊させるというのは検討課題に上がっていたらしい。その中でなぜ『AERA』より部数も大きく、歴史ある『週刊朝日』のほうを休刊させたかといえば、読者の高齢化が『週刊朝日』の方が進んでおり、今後AERA dot.を軸にブランディングを図っていくうえでは、『AERA』の方が親和性が高いということだったという。『AERA』は広告集稿も良い雑誌で、AERA dot.と連動させて展開できる可能性が高いという判断だったようだ。

 市村社長からは、AERA dot.も子育て世代に読んでもらえる媒体にとブランド再構築を進めているという説明もあった。『AERA』と一体運用を進める形で広告集稿強化など様々な施策を強めていこうと考えているようだ。

 そして同時に、会社全体が苦境でそうなったのでなく、書籍部門は極めて好調であることを強調していた。ホームページの社告でもそれは強調されており、『週刊朝日』休刊がネガティブな影響を及ぼさないようにという配慮だろう。

『週刊朝日』は2022年に創刊100年を迎え、周年企画を続けてきた。そういう時期に休刊という決断は簡単ではなかったはずだ。読者の中にも、親子にわたって長年読んできたという人がおり、100年の歴史に終止符を打つというのは、そうした読者や書き手を含めた社会的影響力も、苦境が続いている週刊誌業界に与えるインパクトも大きいはずだ。

 そもそも『週刊朝日』の休刊は5月末なのに、なぜこの時期に突然発表することになったかといえば、契約スタッフなど3月で更新する人もいるので、年度末ぎりぎりにならない時期にということだったようだ。

書籍部門は絶好調という事情

 実際に、同社の書籍部門はこの何年か、かなり好調だ。2022年の年末に出された年間ベストセラーには2冊の本が入っている。『本当の自由を手に入れるお金の大学』と「TOEIC L&R TEST出る単特急 金のフレーズ』だ。そんなふうに実用書のシリーズもののヒット商品を持っているのが同社の強みだ。その2冊以外にも『ゲッターズ飯田の五星三心占い』や『科学漫画サバイバルシリーズ』などあり、毎年一定の収益をもたらす構造ができている。

 さらに辻村深月さんの『傲慢と善良』の文庫が36万部突破と文芸部門でもヒットを飛ばしている。

 特に安定した書籍シリーズを持っていることはかなりの強みで、その意味では苦境といってもすぐに週刊誌を休刊させるような状況ではないように思えるが、恐らく経営的判断で長期的な構造改革を進めようと考えたのだろう。書籍部門の利益を雑誌につぎこんでいくという構造が長期化するのはよくないという判断もあったようだ。

 出版界は確かにいま、紙からデジタルへの大きな流れのなかで、書店はどんどん減っているし、紙の雑誌の部数は長期低落で、かなり厳しい状況にある。週刊誌のような部数の大きな雑誌になると、その苦境の度合いも半端ではない。この何年か、『週刊朝日』は読者高齢化にあわせて健康などの実用情報を増やすなど、様々な取り組みを行ってきた。そうした努力のうえで、それにもかかわらず休刊というのは、苦渋の決断だったに違いない。

休刊決定が出版界に与える衝撃

 この決定が出版界全体に与える影響はかなり大きく深刻だと思う。コミックの場合は、紙の雑誌の落ち込みをデジタルの伸びが補い、全体としては拡大という流れになっているが、紙の雑誌全体としてはそうでない。勢いのある『週刊文春』でさえジリジリと部数を落としていることが象徴的と言えよう。『創』2月号が出版界の特集だったため、この1カ月ほど私は大手出版社の現状を毎日のように取材してきたが、例えば光文社の『FLASH』など、いまやウェブの方が紙の雑誌の売り上げを上回っているという。出版界全体をデジタル化の波が覆いつつあるのだが、ニュースサイトでPVを稼いで収益につなげていく広告モデルにするのか、サブスクリプトと呼ばれる課金型で行くのかなど、デジタル化もまだ試行錯誤の状態だ。

 そんななかでの『週刊朝日』の休刊、波紋は今後さらに広がっていくのだろう。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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