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元AKB篠田麻里子さんめぐる不倫スキャンダル報道は、どう見ても行き過ぎではないのだろうか

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊新潮』1月5・12日号(筆者撮影)

 元AKB48の篠田麻里子さんをめぐる不倫スキャンダルがネットで大きな話題になっている。きっかけは週刊誌とそのウェブ版なのだが、この騒動を見ていて気になるのは、これまでのスキャンダル報道の一線を越えてしまったのではないかという印象だ。

 これだけ大きな騒動になっているのになぜワイドショーはいっさい取り上げないのかという意見も見られるが、これは恐らく局内の法務あるいはコンプライアンス上の判断だろう。プライバシー侵害ということで法的に問題にされた場合、報道する側に弁明の余地がほとんどないからだ。

 騒動の成り行きによっては、この報道はプライバシー侵害の行き過ぎのケースとして今後取り上げられるかもしれないとも思うのだが、どうしてここまでエスカレートしてしまったのかを含め、一連の報道とそれに伴う騒動を整理し検証しておこうと思う。

12月下旬に文春と新潮が報道

 大騒動になった契機は、文春オンラインの12月23日の配信記事とデイリー新潮の12月26日の配信記事だ。後者は12月27日発売の『週刊新潮』1月5・12日号の記事「不貞『篠田麻里子』夫の追及で『飛び降り自殺寸前』の修羅場120分音声」の速報だ。

 同記事は、篠田麻里子さんと不倫相手とされた男性とのLINEでのやりとりや、6月3日に夫が彼女を詰問した時に録音された内容を詳細に報じたものだ。記事によると、麻里子さんはスマホと同期したi PADをリビングに置いたままにすることがあって、妻の不倫を疑っていた夫が妻のいない時にパスワードを突破してLINEに侵入。妻の行動を2週間にわたって把握したうえで、証拠を突き付けながら詰問したのだった。

 そして同時にそれに対して妻がどう語るか密かに録音をしていた。妻は最初は非を認めて謝罪するのだが、夫に許そうとする姿勢が見られないと判断して、途中でベランダから飛び降りようとして抑えられる。そうした2時間のやりとりが全て録音されていた。最終的には麻里子さんのマネージャーが駆け込んできて修羅場は収まったという。

 その音声テープがなぜ今になって週刊誌に流れたのか、それはこの騒動のその後の経緯をたどると見えてくる。

 ちなみに『週刊新潮』が文字起こしして伝えたその音声は、どういうルートを経てか生の音声がネットに出回っているのだが、夫婦のやりとりの中で何度も娘の名前が出てくるのだが、音声が消されずにそのまま公開されている。そういうことひとつをとってみても、この騒動は尋常ではないと言えるものだ。

もともとは『女性セブン』の報道だった

 さかのぼって見てみると、実はこの問題を最初に報じたのは『女性セブン』だった。最初は8月24日に配信された『NEWSポストセブン』で、それは25日発売の『女性セブン』9月8日号の内容を伝えたものだった。もっともその内容は、不倫問題が原因で篠田麻里子さん夫妻が別居しているというもので、今回報じられたような詳細な内容ではない。しかもこの報道に対して、麻里子さんの事務所は「事実無根」と不倫の噂を否定していた。

 その後、12月1日にも『NEWSポストセブン』はこの問題を報じているから、否定されながらも取材を続けていたのだろう。これは同日発売の『女性セブン』12月15日号の内容を伝えたものだが、「現在は双方弁護士を立てて家庭裁判所で監護者指定の調停中だという」と、夫婦の対立が抜き差しならないところにまで至っていることを伝えたものだ。

 恐らく12月下旬の文春オンラインとデイリー新潮ないし『週刊新潮』の報道は、その『女性セブン』の記事がきっかけだったのだろう。報道された夫婦の会話やLINEの記録は、12月に、夫が妻の不倫相手を提訴した際に提出された証拠物だという。裁判所に提出された証拠がそのまま週刊誌で公開されるという事態が、どういう経緯とどういう判断で引き起こされたのか詳細はわからない。ただ、記事においてはもちろん夫の意向でなく編集部が独自に入手したとされているが、録音を行ったのは夫だから、彼が何らかの形でかかわっていると考えるのが普通だろう。

 こんなふうに夫婦間の対立を週刊誌で詳細に公開してしまえば、もう夫婦の関係修復はありえないし、将来にわたって娘への影響も懸念される。それにもかかわらずこういう事態になったというのは、当事者たちが追い詰められた結果なのだろう。

12月に裁判に至ったことが引き金に

 6月3日に夫が証拠を突き付けて妻を問い詰めて修羅場になったことは前述したが、その後、前出『週刊新潮』によれば、夫は実家に一時的に預けていた娘と合流し、妻と別居するに至った。その後、妻は「夫が子どもを連れ去った」と家庭裁判所に訴え、家裁は妻を監護者と指定、12月に家裁の決定により娘は麻里子さんに引き渡された。それに納得できない夫はその後、妻の不倫相手と目された男性を慰謝料を求めて提訴。親権争いも調停から訴訟に発展するのではとされている。

 全体として見れば今回の事態は、妻の不倫を指弾して娘を連れて別居した夫が、その意向に反して家庭裁判所の裁定で娘は妻のもとへ渡されるという結果に至ったことに怒って、新たな裁判を起こし、それを機に自分なりの方法で妻に報復を行ったという印象が強い。

 週刊誌で公開された夫婦の激しい会話が夫によって録音されていたことは明らかにされているが、それがどうやって週刊誌に渡ったかは情報源秘匿の観点から伏せられているのだが、いずれにしても、こういう形でプライバシーが暴かれ、妻に社会的制裁が科せられるというのが事態の解決になるとは思えない。ネットでは面白がって話題にされているが、それが将来にわたって残るとしたら、何よりも娘がかわいそうだ。

複数の媒体が競い合ったことの影響

 今回のプライバシー暴露報道が当事者間の対立をさらに激化させることも明らかだから、報道する側も一瞬、その影響については考えたとは思うのだが、結果的にそこまでやるかという線にまで至ってしまったのは、ある種の競争意識も働いたような気がする。

 文春オンラインとデイリー新潮はライバルだから、相手がここまで報じようとしているらしいと考えたら対抗意識が働く。『女性セブン』『週刊文春』『週刊新潮』は同じ木曜発売で、しかもニュース性を後景化させた『週刊現代』『週刊ポスト』と違って、事件報道で熾烈にしのぎを削っている媒体だ。競争原理は当然働いたと思う。

 細かく考えると、文春オンラインが12月23日に配信した内容が、デイリー新潮と『週刊新潮』の場合は連動したのに、『週刊文春』はそうなっていないことなど気になる点は幾つかある。もともと文春オンラインは『週刊文春』と別に取材班を動かしており、別個の判断で動くことは珍しくないのだが、今回はどういう判断が働いたのだろうか。

 いずれにせよこんなふうに個人のプライバシーがさらされてしまってよいのだろうかという疑問は禁じ得ない。

週刊誌の不倫スキャンダル報道をめぐって

 この何年か、不倫スキャンダルが報じられる都度、当事者のLINEが一方的に公開されるという状況が続いているが、こんなふうに歯止めがなくなっていくことに不安を感じる人は少なくないだろう。

 一連の不倫報道でLINEが公開されるといった事態は、当然ながら当事者や近親者の関わり抜きには存在し得なかった。多くの場合、相手に対する報復が週刊誌への情報提供という形で表われたと考えてよいのだが、仔細に見てみると、その中でもある程度納得できるケースもあればそうでないケースもある。

 かつて不倫は、男性の場合は「浮気は甲斐性」などと社会的にある程度容認されてきたのだが、ジェンダー意識の高まりによって、そんなことは許せるわけがないと怒った女性の側がそれを公にして社会的制裁を加えるというケースもあった。いや、実際はそのケースが多かったと言えるかもしれない。かつては配偶者が不倫しても妻は泣き寝入りを迫られたケースが多かったが、それを許せないと考える女性が増えた。不倫スキャンダルの告発は、妻であったり、最終的に傷つけられた愛人の側だったりするが、女性の側から週刊誌に情報提供がなされるケースも多かったと思う。

 しかし、今回のケースはそうではない。社会性や時代性を感じ取ることが困難な、極めて私的な事柄なのだ。名誉棄損裁判として争われた時に、公共性や公益性の主張がほとんど成立しない事例だ。

 プライバシー報道のあり方を、このへんでもう一度議論すべき時が来ているのではないだろうか。

[追補]この記事の続報を下記に書きました。参照ください。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20230130-00335056

元AKB48篠田麻里子さんスキャンダル騒動の新たな展開に週刊誌について改めて考えた

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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