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ジャニーズ事務所をめぐる激震!『週刊文春』vs事務所の応酬と気になる他メディアの沈黙

篠田博之月刊『創』編集長
ジャニーズ事務所から猛抗議を受けた『週刊文春』11月17日号(筆者撮影)

二つの出来事は連動しているのか

 ジャニーズ事務所をめぐって激震が続いている。11月1日に同事務所副社長でジャニーズアイランド社長の滝沢秀明氏の退社発表。続いて4日には人気グループのキンプリことKing &Prince5人のうち3人の来年退所が発表された。キンプリ自体は存続するというが、5人のうち3人が退所というのは異例の事態と言ってよい。当初の報道では、同グループの海外進出をめぐる考え方の相違によるものとされた。

 テレビ界や芸能界に絶大な影響力を持っている同事務所だけに、衝撃を持って受け止めた関係者も多いだろう。特に滝沢氏の退社については、同氏がカリスマ創業者・ジャニー喜多川前社長自身の遺志により、後継者として指名されてそのポジションに就任した経緯があっただけに、それがこんなに早く退社となったのにはかなりの事情があったと思われた。

退社・退所についてはスポーツ紙も大々的に報道(筆者撮影)
退社・退所についてはスポーツ紙も大々的に報道(筆者撮影)

 スポーツ紙や女性週刊誌は二つの出来事を大きな扱いで報道した。ただ、当初、よくわからなかったのは、その二つが互いに関連しているものなのかどうかだった。

『週刊文春』の報道と事務所の抗議

 そこに斬り込んだのが11月10日発売の『週刊文春』11月17日号だった。タイトルは「キンプリ・滝沢秀明を壊したジュリー社長“冷血支配”」だ。2019年にカリスマ創業者のジャニー喜多川前社長が他界、21年にはメリー喜多川前副社長も他界し、事務所はメリー氏の娘・藤島ジュリー景子社長と滝沢副社長に引き継がれたのだが、この2人に確執が起きていたというのだ。

 しかもこの記事は、タイトルからわかるように、その原因をジュリー社長の“冷血支配”と批判していた。これに対して発売当日、ジャニーズ事務所は「事実と全く異なる虚偽の内容を多々含む記事であり、法的措置を検討しております」とコメントした。実はこのコメントを出すとともに、事務所は『週刊文春』に強い抗議文を出していたことが後になってわかる。

 具体的に記事のどこが誤りなのかこのコメントだけではわからないが、『週刊文春』のタイトルのもととなったのは記事中の匿名の事務所関係者のこういう証言だ。

「ジャニーズはこれまでジャニー氏とメリー氏という、激しくも、情に厚い二人によって支えられていた。それゆえ、長年事務所に尽くしてきた人物を排除していくジュリーさんの姿勢は“冷血”に映る」

 記事によるとジュリー社長は「自らを支える事務所内部の体制も変えていった。昔から支えてきた人物に代わり、入ってきたのが、大手レコード会社や民放テレビ局の人間たちだった」。滝沢氏の提案もはねつけられることが多かったという。

ジュリー社長と滝沢副社長の確執とは

 もともとジャニーズ事務所は、タレント発掘や舞台のプロデュースを担ったジャニー喜多川社長と、経営や事務所管理を担ったメリー喜多川副社長との二人三脚で運営されてきた。『週刊文春』の記事では、「ジャニーさんや滝沢は舞台やショーが中心で、メリーさんとジュリーさんはテレビと映画が中心。それゆえ経営に対する考え方が違う。ジュリーさんは叔父を『天才プロデューサー』と認めつつも、一定の距離を置いていました」と書かれている。

 滝沢氏とジュリー氏の関係も当初は「タレントのデビューまでは滝沢の管轄。デビュー後はジュリー氏の管轄」と棲み分けがなされていたという。しかし明確な線引きは実際には難しいし、滝沢氏がデビューさせた「Snow Man」「SixTONES」が成功を収めるといった経緯の中で、確執が生まれていったらしい。キンプリについても記事中で関係者がこうコメントしている。

「辞める三人はジャニーさんシンパで海外公演をしたいと願っていたメンバー。ジュリーさんにも不満を持っていた。残る二人は映画やドラマを優先したいと考えるメンバーでした」

 ジュリー氏と滝沢氏の肌合いの違いや、ジュリー氏の経営に対する違和感などが一気に噴出したのが今回の2つの出来事だったのだろう。

 ただこの『週刊文春』の報道が、どちらかといえば辞めていく側に依拠してジュリー社長を批判する印象を与えたことは否めない。「ジュリー社長“冷血支配”」というタイトルはインパクトを考えてのものだったのだろうが、これだけ見るとジュリー社長を一方的に責めているように見える。確執や対立は双方に言い分がある。『週刊文春』が締切前に幾つかの質問をジャニーズ事務所にぶつけていたことは本文を読めばわかるが、タイトルを含め全体が、ジュリー社長への非難というトーンだったことに、ジュリー氏は怒ったのだろう。

『週刊文春電子版』で同誌の加藤晃彦編集長は「ジャニーズ“キンプリ報道で法的措置”声明に感じたこと」というコラムで(11月12日付)、ジャニーズ事務所の抗議が強硬だったのに驚いたと書いている。

『週刊文春』は翌週、第2弾を掲載

 『週刊文春』は翌週の11月24日号に第2弾を掲載。タイトルは「ジュリー社長の正体」だが、サブタイトルにこう書かれている。「平野=話し合いが進まず帯状疱疹に キンプリ=退社交渉で滝沢が汚れ役」

 タイトルだけ見ると、今回もジュリー社長を激しく批判した記事のように見える。同誌としては訴訟をチラつかされようと、それで報道はやめないという意志を社会に示したのだろう。記事はジュリー氏について生い立ちからたどったものだ。

 こうした動きに対してジャニーズ事務所がどう対応するか。その推移はしばらく見守らねばならない。

 ジャニーズ事務所といえば、かつて批判的なジャーナリズムに対しては強硬な対応をすることで知られていた。批判的な報道を行う媒体はリストを作り、徹底的に排除した。私の編集する月刊『創』(つくる)も一時ジャニーズ事務所のメディア支配を批判する連載を載せたことでブラックリストに載せられていた。例えばあるテレビ番組について取材申し込みをテレビ局にしたところ、断られたのだが、後になって関係者から、実はその番組はジャニーズ枠で、リストに載っている媒体の取材は受けられないことになっていると聞かされた。『創』だけでなく多くの週刊誌や総合誌がリストに載っていたというが、こちらはジャニーズ事務所とは関係のないテーマで取材しようとしていたし、その番組がジャニーズ枠という認識がなかったので、「え?」と逆に驚いた。

 テレビ界はジャニーズ事務所にさからえば所属タレントの出演に支障をきたすため、基本的に事務所のスキャンダルは情報番組などでも取り上げられない。雑誌界でも所属タレントを表紙に据えたり、グラビアに掲載したりすることができなくなるため、事務所への忖度は当然働いている。メディア界でかねてより果敢に批判報道を行ってきたのは、『週刊文春』と東京スポーツだった。

 ただ、近年、ジャニーズ事務所も強面のメディア支配だけでは得策ではないと判断したのか、『週刊文春』や東スポの取材にも応じるようになった。ジュリー体制になってからも『週刊文春』は所属タレントの不祥事は何度も報道してきたが、それによって事務所側が取材拒否したりといったことはなかったようだ。そういう関係だったから、今回の強硬な抗議に、加藤編集長は「驚いた」というわけだ。

気になる『週刊文春』以外のメディアの沈黙

 ある意味、事務所側もこの間、メディア対応については「近代化」を進め、強硬策だけではまずいと考えるようになったのだろう。新しい施策も打ち出していた。ひとつは芸能マスコミだけでなく、硬派な媒体にもアプローチを行ったことだ。

例えば、新聞社系週刊誌にも積極的にタレントを露出させるようになった。実際、『週刊朝日』『アエラ』『サンデー毎日』などの表紙を事務所タレントが頻繁に飾るようになった。表紙を飾り、中に特集記事が載ると、ファンが購読するから売れ行きは伸びる(もっともジャニーズ事務所所属ならどのタレントでも雑誌が売れるというわけではないらしいが)。

そして強面で知られる『週刊新潮』を発行する新潮社が、ジャニーズ事務所のカレンダーを発行するようになったことも業界を驚かせた。ジャニーズ事務所は、批判的な報道には強硬措置を取る一方で、ファン向けのカレンダーなど確実に売れるものを特定の出版社から出すことを認め、「飴と鞭」でメディア支配を行ってきた。近年は鞭よりも飴を有効に使うようになったといえる。

 そこで気になるのが今回の報道状況だ。『週刊文春』はジャニーズ事務所の内部事情にまで踏み込んで報道し、強硬な抗議を受けたのだが、滝沢・キンプリ報道で同様な切り口、あるいは『週刊文春』vsジャニーズ事務所といった切り口ででも、これに続いて報じる媒体がないのが、いささか異様なのだ。

 奇しくも『週刊朝日』と『アエラ』はその時期、ジャニーズ事務所タレントが表紙を飾っていた。もちろんそれは以前から決まっていたものだろう。しかし、その同じ号で事務所の内紛といった話はまず不可能だろう。そのほか『週刊新潮』がこの問題に触れないのも気になるところだ。滝沢氏退社やキンプリの退所自体はスポーツ紙も女性週刊誌も報じたが、事務所の内部事情にまで踏み込んだのは今のところ『週刊文春』だけだ。

『週刊文春』加藤編集長が語った「衝撃」とは

 実は前述した『週刊文春電子版』で加藤編集長は、ジャニーズ事務所の強硬な抗議に驚くと同時に、こうも書いている。

「もう一つ衝撃的だったのは、いつもはあれだけ芸能ニュースには食いつくテレビの情報番組、スポーツ紙、そして週刊誌で、滝沢氏に批判的な報道はあっても、ジャニーズ事務所の体質を批判するような記事は全く出てこないことです」

 確かに、この沈黙は、気にならざるを得ない。事務所が圧力をかけているというより、恐らく「忖度」が働いているのではないだろうか。

 いったい事務所に何が起き、今後「ジャニーズ帝国」はどうなっていくのか。カリスマ創業者亡き後、タレントの離脱が相次いでいる現実は誰の目にもわかる。求心力が急速に失われつつあるのは確かだと言えよう。

 思い起こせばかつて「ナベプロ帝国」と言われ、芸能界を支配していた渡辺プロがやはり創業者が他界したのを機に、一気に崩れていった。

『週刊文春』第1弾の記事はこう結ばれていた。

「ジャニーズ帝国は今、崩壊の危機を迎えている」

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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