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批判された『女性自身』佳子さん「交際報道」の波紋と宮内庁が取り組む「皇室のSNS対策」

篠田博之月刊『創』編集長
皇室の情報発信は今後どうなるのか(写真:Motoo Naka/アフロ)

『女性自身』が8月23・30日号でぶちあげた「佳子さま 本命恋人は両親公認エリート歯科医」が波紋を広げ、この記事は誤りだという批判報道が続いた。それにからめて、そもそも皇室報道や皇室情報をどう発信すべきかという議論も起き、8月末に宮内庁が発表した、SNSの活用などを含む皇室情報発信をめぐる改革という話が予想以上に話題になっている。

 おりしもイギリスのエリザベス女王追悼をめぐる英王室と国民の距離の近さが連日報道され、これもまた情報発信のあり方との関係で多くの識者が言及している。情報発信をどう行うべきかというのは特にこの何年か、皇室をめぐる大きな課題になっている。一連の動きを整理し、考えてみたいと思う。

『女性自身』記事を他の週刊誌が真っ向から批判

 まず『女性自身』の報道をめぐる経緯だが、同誌記事そのものについては一度ヤフーニュースで取り上げた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220818-00310788

小室圭さんビーチサンダル事件と佳子さんの恋人報道―秋篠宮家関連の騒動の行方は

『女性自身』8月23・30日号「佳子さま 本命恋人は両親公認エリート歯科医」は、佳子さんが幼馴染みで家族ぐるみのつきあいをしている男性歯科医Aさんの実家である医院を7月6日にお忍びで訪問したという話を、隠し撮り写真とともに報じたものだった。カラー写真を載せたグラビアの記事には「もしかしたらご婚約の公表は意外と早いのかもしれない」という思わせぶりな締めくくりがなされていた。

 それゆえにか、『週刊新潮』を始め他誌が後追いするなど波紋を広げたのだった。ちなみに『週刊新潮』の記事では、交際報道について同誌記者に直撃されたA医師の父親がそれを否定していた。

 その後、この『女性自身』記事について、『サンデー毎日』や『女性セブン』が批判的な報道を行っている。女性週刊誌の皇室報道については、羊頭狗肉のタイトルを含め、信ぴょう性はどうなのかと思うことが少なくないが、こんなふうに他誌が真っ向から批判するケースは珍しいかもしれない。

『サンデー毎日』は「偽情報」と厳しく断罪

『サンデー毎日』9月11日号記事の見出しは「佳子さま『歯科医交際』の『女性自身』は偽情報」。そのものズバリの『女性自身』批判で、「偽情報」という表現もかなり厳しいものだ。執筆したのは同誌で「社会学的皇室ウォッチング!」を連載している森暢平成城大教授だ。記事の一部を紹介しよう。

「複数の関係者に確認し、佳子さまと若手歯科医Aさんは恋人関係にない、とはっきり断言できる。佳子さまは、Aさんの父親である院長に歯の治療をしてもらっていただけだ」

「少し取材をすれば、佳子さまとAさんが恋人関係にないことや、ご訪問が治療目的だったことはすぐに分かるはずだ。その事実をつかめなかったとしたら『女性自身』は報道機関として取材不足だ」

 かなり手厳しい批判だが、森さんは記事の中でこういう提言もしていた。

「日本のメディアの伝統である『ご婚約奉祝報道』は見直される時期に来ていると私は考える」

「ご婚約奉祝報道」とは、週刊誌などが半ば予測をまじえて皇族の結婚相手を報じるもので、佳子さんも既に何人もの男性との恋人報道を書かれてきた。おめでたい話なので誤報だったとしてもあまりクレームは来ないし、当たっていれば大スクープということで、昔から芸能マスコミを賑わせてきた。

 そして森さんの記事は最後にこう結ばれていた。「佳子さまは、『女性自身』の『恋人報道』とネットの反応を読んで、悲しみ苦しんでいるに違いない」

「佳子さま激怒」と報じた『女性セブン』

 それに応えたというわけでもないだろうが、『女性セブン』9月22日号は「佳子さま“エリート歯科医との交際報道”に激怒 『SNSで反撃』準備」と、これまた派手な見出しをぶち上げた。宮内庁関係者や皇室記者に取材して、『女性自身』記事が誤りではないかという感触を得たようだ。

 ただこの記事も少し気になるのは、「佳子さま…激怒」と見出しにあるから、何か具体的な情報でもつかんだのかと思って読んでも、「激怒した」という根拠が何も書かれていないことだ。確かに週刊誌などの皇室報道に以前から批判的な佳子さんのことだから激怒して不思議はないのだが、その推測をこんなふうに断定的な見出しに掲げるというのもどうなのだろうか。

『女性セブン』9月22日号(筆者撮影)
『女性セブン』9月22日号(筆者撮影)

 見出しの後半「『SNSで反撃』準備」の意味は何かというと、記事にこういう話が書かれている。実は8月30日、宮内庁は「来年度の概算要求で、皇室に関する情報をより積極的に発信するために、長官官房参事官1人と、職員2人の増員を出した」。つまり皇室情報の強化改善へ向けた増員が来年度予算概算要求に盛り込まれた、というわけだ。

 記事は佳子さん報道とそれを結びつけて書いているが、両者に直接の因果関係があるわけではないだろう。皇室情報発信のあり方をめぐっては以前から宮内庁で検討が行われてきた。思い起こせば、過熱報道について語った2021年11月25日の秋篠宮会見でもそれがこう指摘されていた。

「もし、そういう今言われたような(注:バッシング報道)関係の記事に対して反論を出す場合には、一定のきちんとした基準を設けてその基準は考えなければいけないわけですけれども、それを超えたときには例えば反論をする、出すとかですね。何かそういう基準作りをしていく必要が私はあると思います」「宮内庁とも相談しながら何かその今言ったような基準であるとかそういうものを考えていくことは、私は必要だと思っております」

宮内庁の皇室情報改革に多くの反応が

 皇室情報強化改革のための動きが始まったというのは同誌に限らず様々な媒体がとりあげている。宮内庁としては予算措置をとっただけで、具体的にどうするかという検討はまだこれからなのだろうが、この話は、予想を超えて多くの週刊誌が報じるところとなった。

 例えば『週刊新潮』9月15日号「宮内庁『SNS』解禁の裏に『秋篠宮』」だ。SNSを使った情報発信強の背景にあるのは、一連の眞子さんの結婚をめぐる報道の問題だろうという、ストレートな見立てである。記事中では君塚直隆・関東学院大学教授の、英王室では既にSNSを使った情報発信がなされており、誤った情報が流れても淘汰されていくというコメントも紹介されている。

 英王室といえば、エリザベス女王の逝去を国民全体が追悼する様子が連日テレビで映されているが、こうした王室と国民の距離の近さは、王室情報がオープンに公開されてきたことも一因だという指摘は少なくない。

 例えばこの間、英王室に詳しいジャーナリストとしてテレビに頻繁に登場している多賀幹子さんも『女性自身』9月27日・10月4日号でこうコメントしている。

「(英国王室の)ご一家の屈託のない自然な表情を、英国民は楽しみにしていて、王室への親しみを広げるうえでSNSを大いに役立てています」「(日本の皇室の)ご家族の仲のよさを発信するうえで、SNSを活用すれば、国内外に素早く伝えることが可能になるでしょう」

『女性自身』9月27日・10月4日号(筆者撮影)
『女性自身』9月27日・10月4日号(筆者撮影)

 ちなみにこの記事の見出しは「愛子さまと“愛される皇室改革”!雅子さま『インスタで母娘私生活公開』だ。SNS活用という皇室改革には、天皇夫妻、特に雅子皇后の意向が反映されているという内容だ。コロナ禍で行幸啓もオンラインという形が多くなっていたなかで、むしろその効用を生かして地域の人々と積極的に交流するという可能性を積極的に考えるべきだという声も高まっているというのだ。

 情報発信の手段としてオンラインやSNSの活用というのは当然検討されてしかるべきで、来年度から宮内庁も本格的に取り組む姿勢を見せたというのは、当然の流れではあろう。しかし一方で、それがそう簡単でないことも明らかだ。

果たして皇室のSNS活用は可能なのか

『週刊女性』9月20日号は「皇室SNSが抱える『炎上リスク』と『眞子さんの教訓』」と題する記事で、その問題を取り上げている。眞子さんバッシングや秋篠宮家バッシングがネットに吹き荒れた経緯を考えれば、当然、リスク回避をどうすればよいかも検討せざるをえない。

 例えば元毎日新聞記者の江森敬治さんが5月に出版した書籍『秋篠宮』は、発売直後からアマゾンのレビューに酷評コメントが大量に書き込まれ、アマゾンが一時書き込み停止の異例の措置を取る事態となった。同書は、秋篠宮本人の肉声を伝えているとして話題になった本だが、眞子さん結婚騒動で秋篠宮家バッシングを行ってきた人たちにはそれゆえ最初から反発の対象となってしまったわけだ。こういうエモーショナルな反応は、ネットならではと言ってよいかもしれない。

 そういうリスク回避をどう考えるのか、これまでの宮内庁の「菊のカーテン」と言われてきた閉鎖的なメディア対応を考えれば、「SNS活用」といってもそう簡単でないことは明らかだろう。

『週刊女性』9月20日号(筆者撮影)
『週刊女性』9月20日号(筆者撮影)

 英王室がそれをどうやってきたのかは参考になるだろうが、『週刊女性』の記事で匿名の記者がこう解説している。

「イギリス王室の発信力は別格です。ツイッター、インスタグラム、ユーチューブのアカウントを持ち、それぞれフォロワー数は482万、1116万、96万(9月3日時点)。ツイッターでは毎日のように活動内容をアップしています」

 いきなりそこまで行くのは簡単ではないが、この『週刊女性』の記事も、「炎上リスク」を指摘しながらも、若者にアピールするためにはSNS対応が必要だと強調もしている。

皇室報道のいびつさは改革されるのか

 この記事でも言及されているが、宮内庁は1999年にホームページを開設し、ネットでの情報発信に取り組んできた。サイトの一部には「皇室関連情報について」というページもあって、週刊誌などの皇室報道についてコメントも行ってきた。しかし、特定の記事を思いついたように取り上げるだけだし、それも「週刊新潮12月24日号の記事について(令和2年12月18日)」という記述を最後に、この2年近く更新されていない。

 拙著『皇室タブー』に歴史的経緯を書いているが、皇室報道をめぐってはかつて「菊のカーテン」と言われたように、情報開示がほとんどなされず、しかも批判的な報道には右翼団体が押しかけるという前近代的状況が長らく続いてきた。前近代的というのは、報道が事実かどうかでなく、「不敬」にあたるという理由で攻撃が行われてきたからだ。皇室報道をめぐってはかつて、右翼の襲撃で死者まで出た風流夢譚事件や、大江健三郎さんの小説の一部が長らく封印されてきたといった事態があり、言論界・出版界に重くのしかかってきた。皇室については批判的論評自体が許されないという「皇室タブー」が支配的だったのだ。

 右翼団体は、皇室が直接反論できないから我々が代わって行う、という主張を暴力行使にあたって掲げてきた。しかも事実かどうかでなく皇室を貶めるような報道は「不敬」だという理屈だった。だから宮内庁が不十分とはいえ、個々の報道について事実関係の誤りを指摘するという体制を作り、事実かどうかが問題の争点になったこと自体は「一歩近代化」と言えるかもしれない。ただホームページでの報道に対する指摘も断片的・恣意的で、ネットの活用といえるほどのものになっていなかったのは明らかだ。

 一方で、皇族が誕生日会見といった場やいろいろな局面で自分の思いを語ることが少しずつ増えてきたように思う。特に眞子さんや佳子さんは、報道批判も含め、率直に思いを語ることが目についた。これも時代の流れを反映したものだろう。

 私は何度も指摘しているが、新聞やテレビの大手メディアは宮内庁の統制ゆえに公式発表しか報じず、そこからこぼれた情報はもっぱら週刊誌に憶測交じりで書かれるという、これまでの皇室報道のあり方がいびつなのは間違いない。

 その意味で、宮内庁が情報発信のあり方を本格的に考えようというのは一歩前進と言えるかもしれない。ただ、これまでの歴史的経緯を考えると、果たして現状がどの程度改善されるのか。来年度へ向けた宮内庁の取り組みも、今は注視していくしかない。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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