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『週刊ポスト』との応酬で露呈したように見える吉川赳議員「反論」の落とし穴

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊ポスト』8月5・12日合併号が全面的反論(筆者撮影)

 8月3日、臨時国会開会日に登院する国会議員をテレビカメラが追うという映像が流されたなかで、異様に目立ったのが雲隠れしていたとされる吉川赳(たける)衆院議員だった。18歳女子大生への「パパ活」スキャンダルを『週刊ポスト』に暴露され、7月15日に突如、自身のブログで反論。同誌を提訴することと議員を辞めないことを宣言した。その日、マスコミが押し掛ける中で登院したのは、議員を続けるという意思表示だったのだろう。

 このスキャンダルをめぐる吉川議員と『週刊ポスト』の応酬については、下記の2つの記事に書いた。週刊誌の取材手法をマッチポンプだと議員が非難するという、やや異例の展開になっている。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220630-00303294

『週刊ポスト』が暴いたスキャンダルに雲隠れを続ける吉川赳議員の四面楚歌(6月30日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220717-00305952

スキャンダル報道の吉川議員が『週刊ポスト』を訴えるとブログで反論した内容の気になるポイント(7月17日)

『週刊ポスト』がウェブと誌面で連続反論

 最近、週刊誌は『週刊文春』など一部を除いてニュースのウエイトが低くなったのを受けて、月3冊発行態勢となり、やたらに合併号が増えた。発行回数が減った分をそれぞれウェブサイトでの速報で補うということになっているのだが、『週刊ポスト』も吉川議員の7月15日のブログでの批判に対して、矢継ぎ早に「NEWSポストセブン」で反論した。紙の雑誌の発行まで間があくため、とりあえず必要な反論はウェブでということなのだろう。

 まずは7月19日18時に《18歳女子大生に4万円は「渡したこともありません」と文書回答していた吉川赳議員 いまさら「補填だった」の言い訳》を配信。

 そして紙の雑誌が発売された7月25日には早朝6時57分から《【パパ活飲酒・吉川赳議員反論の嘘を暴く】反論ブログから抜け落ちた“ホテルの話”》、7時から《【動画】18歳と飲酒の吉川赳議員 反論でも触れなかった「胸を見せて」》、《「週刊ポスト」本日発売! パパ活・吉川議員「ホテルの出来事」ほか》と、記事や動画を公開した。

 興味深かったのは、7月15日の吉川議員の反論が、問題となった女子大生との一夜について経緯を詳細に書いていたのだが、『週刊ポスト』の反論も具体的で詳しかったことだ。この応酬を通じて、もともとの同誌のスキャンダル報道がどういう経緯でどう取材されたかがかなり明らかになりつつある。

個室での録音をしたのは誰かという応酬

 例えば吉川議員のブログでは、議員と女子大生が高級焼き肉店で会話した内容が暴露されたのは、女子大生自身が録音し、それを同誌に渡したものだとして、こんなふうに詳しい記述をしていた。吉川議員の記述を引用しよう。

《焼肉屋において、私と女性とは個室で夕食をとりましたが、当該店舗は、テーブル席の並ぶ解放された平場スペースと、個室スペースとが、大きく区分されております。個室スペースは、廊下に面して合計4室並んでおり、中2室は6名用で、廊下と格子壁にて接しており、外からも内部を見通すことができ、会話も筒抜けのしつらえの半個室となっていますが、両端の2室は、2名用及び4名用で、いずれも音漏れしないような堅い木製の扉で遮蔽され、音漏れしようのないしつらえの完全なる個室でした。

 私は、2名で完全個室を予約し、実際に、並びの端であり、また建物の角部(壁の2面が外窓となります)に位置する2名用の完全個室に通されました。個室のドアは狭い通路に面する分厚い板状の扉であり、週刊ポストの記者が張り付いて個室内の会話を録音しようと思うならば、廊下の扉の隙間に張り付いていなければならず、店舗従業員に怪しまれて即座に制止されること必定となる構造です。

 にも拘わらず、週刊ポストの記事は、個室の扉が「格子戸」であったと記述し、あたかも格子戸越しに会話が漏れ聞こえたかの如く装っていますが、これは明らかな虚偽です。個室内では、店員が食事や飲料を運ぶとき以外には、ドアを閉め切っておりましたので、私のいた個室内での会話を録音することができるのは、同席していた女性以外にはあり得ない構造となっておりました。》

「廊下と格子壁」の説明は議員側の勘違い?

 吉川議員にすれば『週刊ポスト』の嘘を暴くという力の入った記述だったのだが、同誌側はどう主張したかというと、吉川議員の説明こそ「明らかな虚偽」だというのだ。同誌8月5・12日合併号から引用する。

《当日、吉川氏が焼き肉店内に入った後に、吉川氏がいたと主張した2面が外窓の〈完全個室〉の一つは20時の予約まで一時空いていた。その隣にある、〈廊下と格子壁にて接しており、外からも内部を見通すことができ、会話も筒抜けのしつらえの半個室〉(吉川氏ブログ)のほうに吉川氏とXさんはいた。記事にある通り、記者は「格子越し」に2人を確認している。》

 吉川議員も反論にあたって最低限の事実確認はしたと思うのだが、どう見てもこの応酬は吉川議員に分が悪い。訴訟を検討中というから、もしかすると現場を確認に行ったのは弁護士なのかもしれない。それほど興味のない人からすれば個室の構造がどんなだったというのはどうでもよい話に思えるだろうが、この部分は、吉川議員の反論の骨子のひとつだ。

 外部から記者が録音はできない構造だから女子大生が録音したに違いないという暴露は、一連のスキャンダルにこの女性が積極的に関わり、実は仕組まれていたものだという主張を裏付ける部分だったからだ。それが勘違いだったとあっては、他の経過説明についても吉川議員の主張は信用性に欠けるという印象を与えてしまう。

それ以上に決定的な「ホテルに向かった経緯」

 それ以上にこの『週刊ポスト』8月5・12日号の記事「パパ活飲酒 吉川赳議員 ブログに書かなかった『ホテル』の話」でインパクトがあったのは、焼き肉店での飲食の後、女子大生がホテルに連れていかれた経緯だ。女性は同誌にこう証言したという。

《4万円のお小遣いをいただいて、バーに行くだけだからって……。バーだったはずがホテルの部屋で飲むと言われて》

 バーで飲むと言われて車で同行したらホテルの部屋で飲むという話だったというのだ。ホテルで酒を飲んだ後、吉川議員に服を脱がされ、自分は経験がないと拒否をして過呼吸になってしまったという話に続くのだが、こうなると2人でホテルに行ったというのも、嘘をついて暴力的に連れ込んだという印象が強く、自分の方がはめられたという吉川議員の釈明がかなり色あせてくるのは否めない。

 細かい釈明をブログでしたうえで国会議員は辞職しないと居直っているのは、実はスキャンダルは女子大生と週刊誌が仕組んだマッチポンプなのだという暴露が根拠になっていたのだが、こう見てくると、かなり吉川議員の分が悪いように見えるのだ。

 そもそも国会議員という立場を考えれば一般の市民よりモラルを問われてしかるべきで、これまでの対応自体が見苦しいという批判を受けているのに、その釈明も反論されて論拠が崩れていくというのでは、墓穴を掘っているという印象が拭えない。

 国会に姿を見せるたびにスキャンダルについて追及されるといった状態で、議員の職責を果たせるのだろうかとは誰もが思うことだろう。

 吉川議員はもしかして認識があまりないのかもしれないが、この何年かの#MeTooの流れ、最近で言うと映画界の告発の流れからいうと、今回の吉川議員の行動は「性暴力」と言われても不思議はないものだ。もちろん告発された映画監督も、一部については合意のうえだったと主張しているようだから、そこは議論が分かれるところだが、今回の吉川議員の行動は、本人がマッチポンプの被害者だと言っている主張が簡単に受け入れられるような時代状況ではないと言える。ましてや国会議員としての説明責任などを考えると、どう見ても吉川議員の分が悪い。

 8月3日に立憲民主党は再び吉川議員の辞職勧告決議案を衆議院に提出した。記者会見を拒否し、説明責任を果たさず居直ったまま国会議員を続けるというのはどう見ても無理なように思えるのだが。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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