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女優たちの性暴力告発の波紋広がる。映画「ハザードランプ」公開中止、NHKドラマも修正

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊文春』の告発は続く(2022年4月7日号)筆者撮影

映画「ハザードランプ」の公開中止発表

 監督や俳優から性暴力を受けたと『週刊文春』で女優たちが相次いで告発した事件が深刻な事態になっている。『女性自身』や『週刊女性』など女性週刊誌もこの問題を報道し始めている。

 3月31日、一連の告発を受けた榊英雄監督の4月15日公開予定映画「ハザードランプ」の公開中止が発表された。告発が始まってすぐの3月9日に同監督の映画「蜜月」が公開中止になったのに続くものだ。 

 映画は大勢の人が関わって何年かにわたって製作するもので、それが公開直前に相次いで中止という異例の事態とあって、関係者は断腸の思いだろう。「ハザードランプ」は「蜜月」の公開中止が決まってからも、予定通り公開という方針を掲げていたが、さすがにその後の事態の深刻さに中止を決めたのだろう。公表された文書に苦渋の跡がうかがえる。

 映画の公式ホームページの中に「劇場公開中止のお知らせ」が告知された。

https://hazard-lamp.com/

《この度は、映画監督の榊英雄氏に関する報道について、被害に遭われた皆様、心を痛められている全ての皆様に心からのお見舞いを申しあげます。

 過日、発表させていただきました通り、榊氏が監督を務めた映画「ハザードランプ」の製作委員会は、制作にかかわった多くの関係者の尽力に報いるためにも本作を公開したいという方針のもと、作品に携わった方々へのヒアリングおよび協議を継続して行ってまいりましたが、総意形成に至らなかったため、映画「ハザードランプ」の4月15日(金)の公開を中止とする決定をいたしました。

 本作に関わったキャストやスタッフをはじめとする関係者、および制作にご協力いただいた皆様、そして映画の公開を望んでくださっているお客様には大変ご迷惑をおかけいたしますこと、深くお詫び申しあげます。》

NHKドラマ「正直不動産」現場は「混乱の極み」

 既に4週にわたる『週刊文春』の告発第3弾で榊監督とともに告発された俳優の木下ほうか氏は、3月28日にツイッターに謝罪文を公開、芸能活動の無期限停止を発表した。木下氏も人気俳優としてテレビ番組に多数出演していたため、こちらの影響も大きい。

 木下氏出演のドラマ「正直不動産」を4月5日から放送予定だったNHKは、出演部分を全てカットしたという。

 『週刊文春』4月7日号「雲隠れに女優が新告発、NHKドラマ大混乱『私は木下ほうかにレイプされた』」で、NHK関係者がこうコメントしている。「終盤まで取り終わっていた上に放送まで一週間しかないので現場は混乱の極みです」

 この一連の問題についてはヤフーニュースに3月30日付で下記の記事を書いた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220330-00289110

是枝裕和監督らが声明を発表、『週刊文春』告発で映画界に#MeTooの大きな波紋

 その後、判明したことなどを補足的に書いておこう。

 まず一連の事態の発端について『女性自身』のウェブサイトがこういう記事を掲載している。

https://jisin.jp/entertainment/entertainment-news/2081113/

監督に性加害報道の映画『蜜月』スタッフが製作委員会に抱く不信感「まだ公開中止の連絡もない」

一連の告発のきっかけは何なのか

 『週刊文春』の報道では、告発の発端は映画『蜜月』の脚本家・港岳彦氏が3月1日に製作委員会関係者に送ったメールだとされていた。恐らく同誌編集部が動き出すきっかけはそのメールだったのだろう。しかしこの記事によると、『蜜月』カメラマンの早坂伸氏がこうコメントしている。

「実は『文春』報道の前に“映画監督から性暴力を受けた”と告発するブログ記事を発見したんです。監督の名は伏せられていたものの、書かれている内容から榊氏に対する告発だと認識しました。そこで、『蜜月』製作委員会のメンバーそれぞれにブログを転送したんです」

 つまり女優が固有名詞を伏せてブログに書き込んだ記事を見て、『蜜月』関係者がそれを製作委員会に送ったというわけだ。『蜜月』は性被害をテーマにした映画だったから、その映画の監督による性被害の告発があったという告白がネットにあがればそのままにしてはおけないと映画関係者が問題にし始めたのだろう。 

 しかし、『女性自身』のウェブ記事によれば、製作委員会は動こうとせず、『週刊文春』が記事にして、9日に文春オンラインが報じて慌てて公開中止を決めたということのようだ。

 文春砲が炸裂し、さらに他の女優たちが#MeTooと声をあげなければこの件が今のような問題にはならなかったかもしれないのだ。

映画界、メディア界に深刻な波紋

 今回の一連の事件は、そもそも#MeTooが世界的に広がるきっかけとなったハリウッドの元大物映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインの事件と構造が似ている。伊藤詩織さんの性暴力事件の告発のあった2015年から2020年頃にかけては日本でも#MeTooが広がり、メディア界も議論の対象となった。文藝春秋から『マスコミ・セクハラ白書』が刊行されたのも2020年だ。

 今回の事件も3月18日の是枝裕和監督らの声明に書かれていたように、以前から指摘されてきた映画界ないし芸能界、メディア界の構造的問題を明らかにしたものだ。#MeTooがあれだけ広がっていたのに今になってこの事件が告発されたという、そのこと自体が深刻さを示してもいる。

 なお2020年には月刊『創』でも性暴力被害の問題を何度も取り上げており、下記記事は当時、ヤフーニュースに書いたものだ。参考にしていただきたいと思う。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20200807-00192186

23年前の集団レイプ事件被害者が語った性暴力被害女性の衝撃の座談会

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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