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光文社、文藝春秋に続きマガジンハウスと、出版社が続々コミックに本格参入する理由

篠田博之月刊『創』編集長
マガジンハウスのあのマンガの大ヒットからもう4年(筆者撮影)

『呪術廻戦』『東京卍リベンジャーズ』など大ヒット

 2022年春、マガジンハウスがコミック市場に本格参入する。同社は2017年刊行の『漫画 君たちはどう生きるか』が大ヒットしたし、1990年代に一度、『コミック アレ!』というコミック誌を創刊して撤退した経験もある。後述する文藝春秋も90年代に『コミックビンゴ』を創刊しながら撤退していた。また光文社もかつてコミック部門を持ちながら撤退した出版社だ。

 そうした出版社が次々とコミック部門を立ち上げ、文藝春秋など予想を超えるペースで取り組んでいる。何しろ担当しているのはコミック編集局。編集部でなくていきなり局としてスタートしているのだ。相当な意気込みと言ってよい。

 なぜ次々と参入が相次ぐかというと、理由は2つ。1つは講談社、小学館、集英社の大手3社のコミックが、経営の屋台骨を支えるほどの収益を上げ、安定した市場の伸びが続いていること。そしてもう1つの大きな理由は、かつてのように紙の雑誌を発行しなくてもデジタルで連載したものを書籍化することが可能となって、リスクが相当小さくなったことだ。マガジンハウスなど、既に発行している各雑誌がウェブサイトを持っており、そこでコミックの連載ができる。新たに紙の雑誌を創刊といったリスクを回避できる。

 一方で、大手3社のコミックの収益は予想を超えて伸び続けている。集英社が『鬼滅の刃』でコミックだけでなく、ノベライズや関連書までベストセラーになったのは周知のことだ。2021年の年間ベストセラーでは『鬼滅の刃塗絵帳』までベスト10に入っている。関連書全て合わせると莫大な利益をもたらしている。しかも2021年末は『鬼滅の刃』に続く大ヒットの『呪術廻戦』が映画化され、集英社は文芸誌『すばる』まで含めて22誌がそれにあわせて表紙などでコラボするという『鬼滅の刃』と同じ、社を挙げてのキャンペーンを展開している。

 講談社も2021年、ビッグヒットの『進撃の巨人』が連載終了をコミックス最終巻を迎えたが、それに代わるように『東京卍リベンジャーズ』が映画化、アニメ化をきっかけに爆発的ヒットとなった。2021年の重版分で『進撃の巨人』は約800万部売り伸ばしたが、『東京卍リベンジャーズ』は新刊と重版分合わせて2021年の売り上げが2500万部と驚異的なヒットとなった。

 しかも人気作品は海外を含めて配信やライツの展開があるし、いまや紙の書籍だけでなくデジタルコミックも拡大している。出版界不況と言われる出版界でコミックは恐るべき伸びを示していると言える。この1~2年では新潮社のコミック部門も大幅な伸びを示している。作品の映像化など追い風が吹いているから今後も伸びが期待できる。

 そうした状況を見ていれば、光文社や文藝春秋などがコミックへ参入していく流れは当然の動きと言えよう。しかも前述したようにリスクの大きい紙の雑誌を発行する必要がない。今後も大手や中堅の出版社でコミックへの取り組みは続くだろう。

 さて、そうした出版界全体の背景を押さえたうえで、この1~2年本格参入に踏み切った光文社、文藝春秋、マガジンハウスの現状を見ていこう。

マガジンハウスはコミックと新書に参入

 まず新しいニュースとしてマガジンハウスの動きを紹介しよう。既に2021年に「マンガ準備室」を立ち上げており、春頃からウェブで本格展開する予定だ。

 書籍部門の新規事業として立ち上がっているのだが、書籍部門担当の鉄尾周一常務取締役に現状を聞いた。ちなみにこうした出版社の取材は、1月7日発売の月刊『創』(つくる)2月号の出版特集のために行ったもので、コメントなどの引用はその特集に掲載したものだ。

「今、マガジンハウスの各雑誌がウェブを持っていますが、そこでマンガの連載をして単行本にしていく予定です。マンガ準備室は他社でマンガの編集をやっていた方をヘッドハンティングし、フリーの編集者にも入っていただいて立ち上げました。

 連載は春頃から『ブルータス』と『アンアン』のウェブで始めて順次広げていき、将来的には独自のコミックのウェブサイトを立ち上げたいと思っています」

 ついでながら同じく鉄尾常務が手がけている同社初の新書創刊も少しだけ紹介しておこう。2022年1月27日に刊行がスタートする。

「奇数月に隔月で刊行していきますが、最初の1月3月5月は2冊ずつ、それ以降は1冊ずつ出していきます。

 最初に出るのは五木寛之さんの書きおろしで、『捨てない生きかた』です。世間ではいらないものは捨てて、シンプルにさっぱり生活するというスタイルがブームですが、人生100年時代を迎えて、愛着のある物を捨てないで、豊かな生きかたをしましょうという本を出すことにしたのです。

 もう1冊は松浦弥太郎さんの『新100のきほん』です。松浦さんはマガジンハウスからこれまで何冊も本を出していて平均7~8万部売れているのですが、生活のベーシックな基本を書いた『100のきほん』に、あと10の項目を加筆して新書版にします」

 マガジンハウスにとって今年は大きな挑戦の年になりそうだ。

文藝春秋はコミックを毎月約3点刊行

 次に2020年9月にコミック編集局がスタートした文藝春秋について取り上げよう。予想以上に順調に進んでいるようだ。飯窪成幸専務に聞いた。

「コミック編集局は局長を含めて7人が在籍しています。うち2人は電子書籍部と兼任です。コミック局がスタートした時はどのくらいの点数が出せるか不安でしたが、始まってみれば毎月3点前後刊行しており、順調です。

 柱の一つはまず文藝春秋で出している原作物のコミック化。『鬼平犯科帳』や『新選組血風録』などが出ています。

 2つ目は文春オンラインのデジタルコミック連載から生まれたコンテンツ。電子と紙両方ありますが、『僕が夫に出会うまで』や、異世界もので『俺、勇者じゃないですから』などがあります。前者は小社の原作物でもありますが、『俺、勇者じゃないですから』は発売してすぐに増刷がかかりました。紙より電子が売れるもの、電子より紙が売れるもの、紙も電子も売れるもの、とにかく今はトライアル・アンド・エラーを重ねチャレンジする時期だと思います。

 創業100周年を記念して、司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』、半藤一利さんの『日本のいちばん長い日』、山崎豊子さんの『大地の子』をコミック化することになっています。『竜馬がゆく』はまもなく『週刊文春』で連載が始まります」

 コミックについては今後も積極的に取り組む意向のようで、コミック編集経験者の中途採用を募集している。

 原作もののコミカライズを手がけていることもあって、コミック編集局の会議には他部署の編集者も参加するなどしているという。スタートして1年余で連載や単行本出版も含め、当初の予定以上の取り組みになっているようだ。

光文社のデジタルコミックは毎月20%の伸び

 2020年に「コミック編集室」を立ち上げた光文社はどうか。古谷俊勝常務に聞いた。

「コミックについては、サイトを3つ作りました。まず2021年6月に『COMIC熱帯』、こちらは文庫編集部に所属しており、時代小説のコミカライズと新作の連載を始めました。11月に、ここで連載した『グレイト トレイラーズ』『2番セカンド』を単行本で出しました。

 10月にBLコミックのサイト『comic Pureri』をオープン。今まで出してきたBL作品を集め、新作連載も増やしています。電子書籍として出し、数字がよかった作品を2022年3月から出版します。

 11月に立ち上げた『マンガ コミソル』は光文社のコミック総合サイトという位置づけです。まだ始まったばかりですが、新進気鋭の作家の作品、小説のコミカライズなどを連載しています。いろんな編集部で開発しているコミックもここに集積していく予定です。

 コミック編集室は20年11月に独立し、兼務となっている『COMIC熱帯』の担当者を含め、編集者は4名とまだまだ小さな所帯ですが、ここ数カ月のデジタルコミックの売り上げが毎月20%伸びています。

 サイトのアクセス数はまだそれほど多くはないのですが、立ち上げた効果としては、メディアからの問い合わせや、海外から版権についての話も来るなど、手ごたえを感じています。

 デジタルコミックは多くの出版社が取り組むようになって玉は揃いますが、独自性を出していくには、やはり編集的な目が必要だと思います」

 出版不況と言われながらも、コミック市場だけは急速に伸びていると言われる出版界で、マンガをめぐる動きはまだ活発化していきそうだ。

http://www.tsukuru.co.jp/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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