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TBS最後の挑戦『THE TIME,』と『news23』調査報道の取り組み

篠田博之月刊『創』編集長
TBSがスタートさせた『THE TIME,』(TBSホームページより)

の特集は「テレビ局の徹底研究」。かつて最強のメディアだったテレビは、若者のテレビ離れに直面し、まもなく全局がネットへの同時配信に踏み切るなど、ネットとの融合という歴史的新局面に入ろうとしている。そうした状況に各局はどう取り組もうとしているのか。その動きを取材した。

 その中でもこの秋の話題といえば、朝の情報番組で長らく苦戦してきたTBSが満を持してスタートさせた『THE TIME,』だ。その取り組みについて高橋務プロデューサーにインタビューした内容と、もうひとつ『news23』が新コーナーを設けて始めた「調査報道23時」について取り上げよう。両方ともなかなか興味深い話だからだ。

 調査報道については一時期、大手新聞が次々と特別チームを作って取り組んだが、テレビ局がこんなふうに取り組むのはこれまでなかった試みではないだろうか。

 『創』の特集ではそのほかTBSについては、ドラマ『日本沈没』の世界配信の舞台裏などいろいろな話が盛り込まれている。興味ある方は、ぜひ原文を読んでいただきたい。

満を持して『THE TIME,』スタート

 取材のために訪れたTBSでは、至る所に安住アナと金曜日のMCを務める香川照之さんの顔が掲出されていた。エレベーターの左右に開閉する扉も2人の顔だ。この番組にかけた局の意気込みがひしひしと感じられる。

 何しろ早朝5時20分から8時までという尺の長い番組だ。毎朝のコンテンツを揃えるだけでも大変だろう。今回話を聞いたのは、その新番組立ち上げで陣頭指揮をとる情報制作局情報一部の高橋務プロデューサーだ。毎朝2時に局入りで、番組終了後の反省会を終えるとすぐに翌朝の準備にかからねばならない。自宅に帰れるのは週末だけで、局の近くに寝泊まりしているという。

 MCの安住アナは、そのほかにも土曜夜には『新・情報7days ニュースキャスター』のMCを務め、日曜朝には『TBSラジオ 安住紳一郎の日曜天国』のパーソナリティも務めている。相当な激務で、『THE TIME,』の金曜MCを香川さんにしたのもそれを考えてのことだろう。もちろん週末の金曜日は少し色を変えるという戦略もある。香川さんは終了した『ぴったんこカン・カン』のゲストとして(男性出演回数1位)、安住アナと一緒に仕事をしてきたし、ドラマ「日曜劇場」などでもTBSではおなじみの人気俳優だ。

 高橋プロデューサーは安住アナの1年先輩だが、以前からいずれ情報番組を一緒にやりたいと思っていたという。

「安住君は以前トーク番組のインタビューを受けて、『完全無欠の情報番組をやりたいです』と語っていたんですね。それが僕の頭の片隅にありました(笑)。

『THE TIME,』のコンセプトは『ニッポンの朝がみえる』。こんなニュースが届いています、こんなエンタメ情報があります、こういう天気ですと、まさにあらゆるニッポンの朝が見える番組にしたいと思っています」

 各局の早朝番組が特に力を入れる7時台にはジョギングやピアノ演奏といった定番の企画を設けているが、朝の番組を時計代わりにしている視聴者も多いので、決まったコーナーを設けるという「定時性」は意識しているという。

「あるデータによると、朝、家族がそれぞれ慌ただしく出かけていくわけですが、テレビを見る平均時間が30分だというのです。ですからどこから30分見ても基本的な情報が入っているような構成を心がけています。特に7時半まではそうですね。基本的な情報というのは、ニュースと天気予報です」(高橋プロデューサー)

系列局との掛け合い、実は他局のあの番組が原点だった!?

 各地の系列局と中継で結び、スタジオとやりとりするという手法も取り入れた。

「子どもの頃、僕は九州にいたのですが、日本テレビ系の『ズームイン!朝!!』をよく見ていて、地元が映ったりするのを見て気分が高まったのを覚えています。各地の朝を結ぶという手法は、労力もコストもかかるので最近はどこもあまりやらなくなっているのですが、『ニッポンの朝がみえる』という番組ならやってみたいなと思いました。日本各地の景色や情報が入ってくるというのもこの番組のコンセプトに合うと考えました。それから安住・香川という両MCともそれは相性がいいように思えたのです」(同)

 JNN系列はTBS以外27局あるが、系列局にとっても自分たちが出るというのは励みになっているに違いない。

「全部の系列局に毎回順番が回るわけではないのですが、たまにやってくるその数分間のためにいいものを出してやろうという気概を各放送局のアナウンサーにもスタッフにも感じます。

 系列局の評判は良くて、視聴率が軒並み上がっており、なかには順位が2つ上がった局もあります。ただ箱根を越えてTBSエリアになるとまだまだ厳しい。朝の視聴習慣を変えるのは大変ですからね。年末頃までには基本的なフォーマットを固めようと思っていますが、視聴率を変えるのはまだまだです。他局を見ていた人にこの番組を見てもらい、乗り換えてもらうというのは、その人たちの朝の生活習慣を変えることですから」(同)

『THE TIME,』スタジオ風景(TBS提供)
『THE TIME,』スタジオ風景(TBS提供)

 始まった初日は世帯視聴率で6・5%と、以前の『あさチャン!』の1・5倍になったが、その後は元に戻ってしまい、ネットでは厳しい見方も吹き荒れている。でも、帯番組を定着させるには何カ月かの時間が必要だろう。

「『THE TIME,』というタイトルには、朝、時計代わりに見てもらおうというイメージともうひとつ、『最高の時を作る』という意味合いもあります」(同)

 8時台の情報バラエティ番組『ラヴィット!』とのタテの流れを意識して番組の変わり目にMC同士の掛け合いも行っている。お笑いコンビ「麒麟」の川島明さんがMCを務める『ラヴィット!』は4月の改編で始まった番組だが、『THE TIME,』を制作している情報制作局でなく、バラエティなどを手がけるコンテンツ制作局が作っているという。

 TBSにとっては悲願ともいうべき朝の両番組の定着は可能なのか。『THE TIME,』に大きな期待がかかっていることは間違いない。

 今回、『創』1月号では、『THE TIME,』のスタジオのスナップ写真を特別に撮影していただき、カラーグラビアに掲載した。安住キャスターを始め、スタジオで出演者がどんな表情をしているかご覧いただきたい。この番組は、SNSなどでも積極的に発信すべくチームを作って取り組んでいるという。

報道番組『news23』の「調査報道23時」

 夜の報道番組『news23』もこの秋、リニューアルを行った。その狙いなどについて山岡陽輔・報道局ニュース部部長兼統括編集長に聞いた。

「この秋から変えたのは、ひとつは小川彩佳さんともう一人、MCに国山ハセンキャスターを投入したことですね。若い世代にもなじみやすいような形に変えました。それと調査報道に力を入れると同時に、ポジティブジャーナリズムをうたっていこうと考えています」

 このリニューアルと同時に星浩さんはスペシャルコメンテーターとして今後は『news23』だけでなく他の報道番組にも出演することになった。

 調査報道については、番組内でも「調査報道23時」という名称を掲げたコーナーを放送している。

『news23』もこの秋、大幅なリニューアルに踏み切った(TBSホームページより筆者撮影)
『news23』もこの秋、大幅なリニューアルに踏み切った(TBSホームページより筆者撮影)

「今年7月に報道局内に『調査報道ユニット』というチームを新設しました。今、社会部出身の記者を中心に専従は5人ですが、今後増やしていく予定です。キャップは村瀬健介キャスターですが、警察検察取材はもちろん、中東支局長の経験があります。私も統括する立場ではありますが、村瀬と一緒に関わっています。

 報道局では土曜夕方の『報道特集』などで調査報道をやってはいましたが、その出し口をさらに『調査報道23時』という形で『news23』にも広げたわけですね。今後は『報道特集』などとも連携していきたいし、系列局でもMBS毎日放送など、様々な局が以前から調査報道に取り組んでいますから、そういうところとも組んでいこうと思っています。

 報道局全体で調査報道を強化しようということで、『Nスタ』のディレクターやデスクもユニットに入っています。彼らは飲酒運転などの取材に取り組み、『Nスタ』でも放送しています。『調査報道23時』は週1回放送をめざしていますが、今のところなかなかそういっていないのが実情です」(山岡部長兼統括編集長)

反響も大きく、視聴率にも跳ね返っている

 第1回の「調査報道23時」は、コロナ禍での補助金不正受給を追ったものだが、反響も大きかったという。

「『中小企業デジタル化応援隊事業』の補助金を不正に受け取っている大掛かりなグループを追ったものでしたが、放送を受けてその補助金は一時凍結され、それまで受給したものも調査すると経済産業省が発表しました。取材には2カ月ほどかかりましたが、最初のきっかけはTBSインサイダーズという今年設けた情報提供窓口に連絡があったのです」(同)

視聴者からの反響も大きく、視聴率にも跳ね返ったケースが多いという。

「反応はいいですね。補助金不正受給の放送も、その後、放送した自衛隊のパワハラ問題も、多くの人に見ていただき、さらなる情報も寄せられました。そして、パワハラ問題については防衛大臣が『根絶しなければならない』とコメントする事態になりました。調布市の道路陥没問題も大きな反響がありましたね」(同)

 ポジティブジャーナリズムとは、批判するだけでなく提言も行えという批判が寄せられることもあるのを受けて新しい取り組みを模索するもので、若い国山キャスターにその部分を期待したいという。

 TBSは新ファミリーコアという49歳までの視聴者を意識していこうという方針を掲げており、ニュース番組でも若い人たちにどう届けるか考えたいという。

「先頃『戦後76年』の特番をやったのですが、災害と戦争というテーマは報道として必ず取り組まなければいけないと思っています。それを若い人たちにどうやって伝え、興味を持ってもらうか、工夫が必要だと思っています」(同)

『創』の記事では、この後、その「新ファミリーコア戦略」について福士洋通編成部長の話を紹介している。2021年4月にTBSが新たに設けた指標なのだが、昨年度までファミリーコアとしていた13歳から59歳というターゲットを10歳引き下げ、4歳から49歳の男女とした。なかなか大胆な施策なのだが、それを情報番組や報道番組でどう実現していくのか。TBSの模索はまだしばらく続きそうだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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