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寝屋川事件・山田浩二死刑囚の刑確定には、やはり重たい気分にならざるをえない

篠田博之月刊『創』編集長
山田浩二死刑囚が2021年夏に描いた暑中見舞いイラスト(筆者撮影)

 8月27日、寝屋川事件・山田浩二(現在は水海浩二)死刑囚の刑が確定したというニュースが一斉に流れた。私のところには大阪の新聞社からコメント取材依頼の電話が入ってそれを知った。二度にわたる控訴取り下げを無効とする申し立てをしていたのだが、最高裁が最終的にそれを棄却したらしい。棄却の日付は25日だったようだが、マスコミがそれを確認して一斉に報道し始めたようだ。

 そうはいっても山田死刑囚が2020年に二度目の控訴取り下げを行って以降、本人は死刑確定者の処遇になっており、接見禁止がついていた。既に確定後の処遇だったから、何かが大きく変わったわけではない。しかし、死刑確定という事実の意味は大きく、そのニュースにいささか重たい気分になった。

 山田死刑囚の近況はいまでも毎月のように届いており、最近も手紙を入手したところだ。

その中で彼は月刊『創』(つくる)に掲載を希望したらしい暑中お見舞いのイラストを送ってきていた。このイラストが、死刑確定の報告と一緒になるというのが複雑な気持ちだ。本人も、覚悟はしていたと思うが、やはり実際に死刑が確定したという通達には落ち込んでいるに違いない。

山田浩二死刑囚が2021年夏に描いた暑中見舞いイラスト(筆者撮影)
山田浩二死刑囚が2021年夏に描いた暑中見舞いイラスト(筆者撮影)

 死刑確定の通告を受けた気持ちなどは近々明らかにすることにして、ここでは『創』8月号に掲載した山田死刑囚の獄中手記を掲載しよう。

 彼から毎月のように手記は届くのだが、あまり新しい事実の進展がないため、掲載を保留してきた。ただこの8月号掲載の手記は、大阪拘置所のコロナ感染状況を書いていて興味を感じた。

 死刑確定の報道が出てから、多くの人が山田死刑囚についてネットで調べているのだろう。このヤフーニュースに以前書いた記事にもアクセスが増えている。そうした人ないしマスコミ関係者に向けて、『創』8月号の山田浩二獄中手記を以下、掲載する。

死刑囚が見た大阪拘置所の新型コロナ感染状況 山田浩二

《2021年の5月は例年より梅雨入りが早く、あっという間に過ぎていった気がする。爽やかな5月の気候が好きな僕にとってはなんだか淋しく思う。今これを書いているのは6月1日火曜日の午前中だ。

 昨年同様、今年も新型コロナの影響で想定外の出来事が社会で続いている。いや、社会だけでなく刑事施設内でも色々な影響を受けているが、今後はどうなっていくんだろう。このところ新聞やラジオニュースの報道の大半はワクチン接種関連ばかりだが、果たしてワクチン接種が感染拡大に歯止めをかけるのだろうか?

 僕にとって2021年の5月は個人的には特に大きな変化もなかった。最高裁からの特別抗告の決定通知もなかったし、所内生活においては相変わらずの発信指導等外部交通面での嫌がらせを受けてはいるが、大きなトラブル等に巻き込まれることもなかったし、自分で言うのもなんだが平穏に日々を過ごせた。

 ただ大阪拘置所(大拘)の所内は色々な出来事のあった1カ月だった。まず、これは所内告知放送で知ったことだが、5月4日に2名、7日に1名、10日に2名、13日に1名、さらに20日にも、当所男性職員の新型コロナの陽性反応が確認されたという。

「ただちに職員の接触状況等を調査しましたが、関係職員の出勤を停止しましたので現時点では皆さんの生活に影響はありません」といった告知もあったが、かなり深刻な事態みたいで夜勤職員のローテーションが大きく変わったりした。

 大拘は夜勤の班が全部で4班あるが、うち一つの班の夜勤がなくなり、5月中旬頃から3班のローテーションとなっている。昨年や今年の4月にも職員や新入時の検査で収容者の陽性が確認されたとの告知放送が流れていたけど、5月に入り大阪全体の感染拡大が増え、3回目の緊急事態宣言が延長となり職員もマスク、ゴーグル、フェイスガードの完全装備、腰には消毒液のスプレーを携帯するようになった。

 所内にウイルスを持ち込むのは、どうしても職員側になってしまうし、職員だって好きでコロナに感染しているわけではない。それに所内でクラスター感染が発生すると大変なことになってしまう。実際横浜刑務所や千葉刑務所ではクラスターが発生して、職員もそうだろうけど受刑者も処遇面を中心に色々な制限を受けている。そうならないためにも感染防止策はめっちゃ大切だ。

 刑事施設に収容されている身分の僕が出来ることなんてたかが知れているけれど、コロナ収束後の未来の景色を見るまではまだまだ死ぬわけにはいかない。

5月以降の様々な処遇変更

 あと5月10日から大拘では願箋について物品等を受け取った時と訂正する時以外は指印を押す必要がなくなった。これも時代の流れなんだろう。指が汚れる機会が少なくなったので僕的には有難いが、まだ慣れていないせいか物足りなさを感じる。

 5月12日には処遇変更として官物毛布3枚のうち2枚の引き上げとひざ掛け毛布の禁止となった。

 5月20日には職員の新型コロナ感染の都合で中止になっていた屋外運動が再開されるというアナウンスがあったものの、降雨の為に中止となり、それ以降も降雨や拘置所側の都合で中止が続いている。6月からは僕が現在生活を送っている居室フロアは週1回「毎週木曜日」のみの屋外運動となる。あとで詳しく書くが5月29日に新たな居室棟の運営が始まり、それに伴う移転や新型コロナの影響が原因らしい。

 また来週からは毎週水曜日にシャワー入浴が始まるし、気温が上昇すれば熱中症対策で外での運動が中止になる。大拘の新棟での運動は屋上にて実施されるが、目隠しが多く風通しが悪い。その目隠しも一部ナイロンビニール製で夏場はかなり気温が上昇する。僕は基本、屋外運動では30分間、せまい運動場の中を時間いっぱい走っている。ただでさえ汗かきなのにそんなビニールハウスの中のような所で夏場に30分ずっと走っていると、汗の量もハンパない。運動が終わって居室に戻ってきてもしばらくは汗が止まらない状態だ。

 けどストレスだらけの日々の中で暑い夏でもそれだけ汗を流して身体を鍛えることは、良い発散方法でもあり、何より気持ちが良い。なので久しぶりに早く運動場に行ってみたい。

 ところで先に少し書いたが、5月29日の土曜日に大拘は新たな居室等の運営が始まるのに伴い、居室棟の移転や一部処遇変更が開始された。5月中旬ごろからそのような情報が流れていたが、前日の28日にある程度の情報が解禁された。

 なぜ土曜日に行われるのか? それはほぼ全居室棟がそれぞれ別の居室棟へ移転となり、それを一日で済ませないといけない為。裁判所の出廷や一般面会、入浴等のない休庁日に行うとのこと。

 僕はもともと新棟のC棟6階のフロアにて生活を送っていたが、このフロア毎全員が移転することになり、それも朝食後の朝一発目に移転するとのことなので28日金曜日の午後に私物等の荷物を詰める為の青い折りたたみ式の領置箱をいくつか居室に入れてもらい、朝イチ引越しの準備。そして移転後は別のフロアから移転がある為、次に居室を使う人の為に居室内の掃除をするように、と言われた。そういった作業をしているうちに夕食準備の号令がかかり、結局半日の時間を使った。

 やはり次にこの部屋を使う人に汚い部屋を使わせたくないし、僕が逆の立場だったらめっちゃ嫌なので、これでもか! というくらいまでピカピカに掃除をしてやった。そして夜、午後9時の就寝のチャイムが鳴り、居室内の照明が消灯された。新しい居室は畳の部屋と聞いていたので、このフローリング部屋で寝るのも最後だ。フローリングの床は固くて寝心地は良くないが、それも今日で最後だと思うとなんか淋しくなる。

 同じ敷地内の移転をするだけで僕の身分とかが変わるわけでもないのに、新たな居室棟に移転するんだと思うと何故か遠足の前の夜みたいに気持ちがウキウキしてくる。大拘内の4年計画の二期工事が終了して(多分)新たな居室棟が完成し、何らかの理由でC棟6階のフロアで生活している者が、僕を含めて全員新しい居室棟へ移転する。

 もちろんC棟6階だけでなく他の新棟A・B・C棟の居室で生活している者も移転するだろうし、また新たにこのA・B・C棟に移転する者も多くいるだろう。おそらく、これによりこれまで既設棟「旧舎房」で生活を送っている男性の一部や女性も総て新棟に移り、既設棟収容者がいなくなって、三期工事が本格的に始まると思う。知らんけど、おそらくそういうことだろう。

仮にもし死刑を執行される朝が来たら…

 そして翌日、5月29日土曜日になった。今、大拘は朝食が全てパン食なので食事を済ませるとさっそく台車を持った多くの職員が廊下を歩いている姿を目撃した。僕は朝食後のこの時間だいたい午前8時から約30分、現在は外部交通が不許可にされてしまったカトリックの神父さんにすすめられてお祈りをしている。神父さんの教会も毎朝8時から30分間お祈りをしているのでこの時間帯は一緒に手を合わせて心を通じ合わせましょう、と言われたのがきっかけだ。

 それ以降入浴時間と重なる日以外は毎日欠かさずお祈りをしているが、今日はそれどころではないみたいだ。本当に朝食後、朝イチで多くの職員がやってきた。この時間帯に多くの職員が廊下を歩いている姿を見るのは我々の法的身分の人たちにとってはあまりよろしくない。目的や理由が判っていても妙に精神的に落ち着かず動揺し緊張をしてしまう。

 仮にもし死刑を執行される日の朝が前日までに知らされていたとして、その日の朝がやってきたら今とは別の意味で動揺し緊張してしまうだろう。多分処刑場まで連行されるのにそこまで歩いていく自信がない。もちろん、僕にその日が来ることなんてないと信じているけど、ふと、そんなことをこの時、初めて妄想してみた。

 最期は男らしく胸を張って…なんていうのは映画や二次元の世界だけで実際はとてもそんな精神状態ではないだろう。それ以上こんなことを妄想すると頭がおかしくなりそうやし、それよりもいよいよ移転が始まるんや…と気持ちを切り替えて扉が解錠されるのを待った。この居室フロア全員が移転すると聞いていたので僕は1室から順番に行われるのかな? と思っていたけど、どうやら順番ではなくランダムに各自移転して行ってるみたいだ。手前の居室や奥の居室等、どういった法則なのか判らないが移転が始まっているのは確かだ。

 僕の順番はいつ頃だろう…? 扉の外を見ながらその時をずっと待った。待っている時間が妙に長く感じた。もともと僕はイラチなところがあって待たされるのは苦手な方だ。どういった順番なのか知る由もないが、これまた嫌がらせで僕だけ後回しにされているのではないだろうか…?なんて考えたりして、ちょっとイライラしてきた矢先に、ようやく僕の居室前に台車が止まり、扉が解錠されて出て来いと言われた。

 私物は後から運ぶので身柄だけ先に連行された。そういえば最近は居室から出て廊下を歩くのは週2回の入浴時くらいで3月以降面会もないので、久しぶりに長い距離を歩いた気がした。初めて歩く通路だし、周りの景色が判らないので、今、敷地内のどの場所を歩いているのか判らない。なんか迷路みたいな道程に感じた。

 そして、ようやく移転先と思える居室棟が見えた。連行中に連行職員から新しい僕の居室はD棟7階だと教えてもらった。新しい居室の前に着いた時めっちゃ歩いた気がしてすごく疲れた。

新しい居室は鉄格子つきのホテルのようだった

 そして居室に入った。まず一番に目についたのはまっさらな畳! 畳の藁の新鮮な香りが部屋中に漂っていてすごく懐かしい気分になった。そして机はダンボールでなく白いプラスチック製の今風のオシャレなデザイン! 普通にIKEAやニトリ、無印良品等で売ってそうな机! それに床や机だけでなく壁や窓、棚、洗面所や便所、その他備え付けの備品、洗面器やほうき、ちりとり、食器入れ、衝立等全部が新品! まるで新築マンションのような感じだ。

 ただ天井にはちゃっかり監視カメラが設置されており、いきなりレンズにガンを飛ばされた。監視カメラも見た目、なんとなくパワーアップされたような最新型のデザインみたいだ。今後も24時間コイツにLock onされて生活するのか…と思うとゾッとするし気持ちも滅入ってしまうが、別にやましいことは何一つないし、いちいち気にしていたら頭が今よりさらにおかしくなってしまう。人権侵害される日々が続くが放っときゃいい…という気持ちで生活しな、やってられん。

 そんなことよりもやはり新しい居室に感動が止まらない感じだ。便所や洗面台の水流の勢いも良いし洗面所の床もwood調でなんかLog house風でいい感じだ。まるで鉄格子つきのホテルみたい。リアル監獄ホテル(笑)。桜ノ宮のホテル街の片隅にありそうだ。備品とかも桜ノ宮のホテル街近くにあるドンキでまとめて揃えてきたようなものばかりやし…。居室内の構造は畳以外は特に以前の居室と変わらないが窓も綺麗。日差しも良く廊下も明るいので、逆に居室内の照明が暗く感じるくらいだ。

 新しい僕の居室の窓の目隠しの上は少しだけ外の景色…といってもほとんど空だけど、奥の方をよく見てみるとそのイルミネーションを飾っていたマンションらしき建物を発見。更にネットコピーに写っている数年前の大拘の正門から敷地内方向の写真を見てみるとそのマンション(かなり高い)が写っており、その手前、元炊場があった辺りに何やら建設中らしい建物が映っていた。

 この居室は日当たりも良く方角的に南向きだろう。もし天神祭の花火大会が中止じゃなければ、ギリ花火が見えるか…見えなくても光が見えるだろう…そんな居室を指定されたんだなあ…。なんか感慨深い気分になった。

 この日は新たな居室棟の移転や運営が始まることで昼食時は朝食同様パン食で、おかず類は使い捨てのコンビニ弁当みたいな容器、お茶は市販されているペットボトルのお茶。官物以外のお茶を飲むのは久しぶりだったが、やはり市販のお茶はお茶らしい味がしてすごく美味しく感じた(笑)。

 夕食は普通のメニューだったが朝食、昼食とパン食が続いたため、カロリー計算の関係で普段より量が変わるとの告知放送が流れたけど、見た目はほとんど変わらなかった気がする。

 そして何故かトラブルが発生したらしく夕食時間が若干遅れ、この日の夕食時に支給されるお茶のペットボトルがこれまでの魔法瓶の熱いお茶からプラスチック製容器の冷やしたお茶に変更となった。季節の関係でポットの種類が変わったわけじゃなく、今後もずっとプラスチック製のポットになるそうだ。

 動作時限等も一部変更になった。平日はこれまで午後12時のチャイムで昼食配食、午後4時20分に間食配食、午後4時50分に夕点検、午後5時のチャイムで仮就寝、休日も午後12時のチャイムで昼食配食、夕点検が午後4時10分で夕食配食が4時20分、その間4時10分~40分まではラジオ放送が中断されていたが、5月29日から平日は午前11時45分のチャイムで昼食の配食、午後4時に夕食配食、午後5時に夕点検があり、午後5時30分のチャイムで仮就寝、休日は平日同様午前11時45分にチャイムが鳴って昼食配食となり、夕食配食が午後4時、その前に夕点検が午後3時50分に行われ、3時40分~4時10分までラジオ放送の中断となる。全体的に、昼食と夕食の配食が早くなり、平日の仮就寝時間が30分遅くなった。

死刑確定から半年、DVD視聴が可能に

 大まかな処遇変更はそれくらいだろうか。5月29日土曜日に新たな居室棟への移転が行われた。そろそろ大拘の夏期処遇に伴う処遇変更が少しずつ始まっていく時期だが、移転直後ということもあり、例年とは違うような夏期処遇になるかもしれない。

 今日は朝一番にD棟5階に移転となり初めての入浴があった。まっさらな居室だけでも感動しているのに入浴まで一番最初の順番に当たり、なんか得をした気分だ。新しい浴場で一発目の入浴…当たり前だけど浴場内はすごく綺麗だったし、新たな居室棟の浴場(単独室)には正面と横面にちょうど握りやすい位置に取っ手がついており、年配の人達にもやさしい構造になっていたのが感動した。

 汚したくないので浴場を出る時は綺麗に水滴を拭き取ってから出た。居室内でもまっさらな洗面器や洗面所に水垢をつけたくないので毎回水道を使う度、洗面器や洗面台をぞうきんで拭き取っている。

 便所も汚さないように毎回気をつけて使用し、毎朝必ず掃除をしている。

 本日の午前中に死刑確定者の処遇を受け持つ職員が僕の居室まで来て、死刑確定者の身分になって今日で半年経つが、半年間調査もなく平穏に生活を送っているのでDVD視聴(視聴覚支援)を受けさせてやる、ということを言われ、視聴覚支援施設願という願箋を書かされて提出した。今月中には、DVDが視聴出来るようになりそうだ。

 また教誨師の教誨を受ける希望の願箋の提出もようやく認められた。それらが最終的に決裁等で許可になるかどうかは判らないが、この半年間とりあえず無事故で大きなトラブルもなく平穏に…というか普通に生活を送っていたのが認められたことで、いわゆる優遇措置的な処遇扱いとなったんだろう。

 ならばいわゆる制限の緩和はいつになるんだろう。監視カメラのレンズの奥でのぞいてる人に聞いてみたい。》

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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