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ジャニーズ事務所の内情への『週刊文春』の最近の食い込みが意味するもの

篠田博之月刊『創』編集長
カリスマ創業者亡き後揺れるジャニーズ事務所(写真:ロイター/アフロ)

 このところ『週刊文春』がジャニーズ事務所の内情に圧倒的に食い込んでいる。ジャニーズ事務所をめぐるスクープやスキャンダルはほとんど『週刊文春』が報じたものだ。他のメディアを圧倒しているといってよい。

 なぜそうなっているのか、またその背後の気になる事情について考えてみたい。

『週刊文春』11月19日号はジャニーズ関連記事が3本も

 まず最近の状況を整理してみたい。象徴的なのは11月12日発売の『週刊文春』11月19日号だ。何とジャニーズ事務所関連の記事が3本も載っている。そのうち同誌が力を入れたのはマッチこと近藤真彦さんの不倫スキャンダルらしいが、ワイドショーやスポーツ紙がジャニーズ事務所に忖度してか、発売当初はほとんど後追いされなかった。

山P退所の報道は事務所発表後一斉に(筆者撮影)
山P退所の報道は事務所発表後一斉に(筆者撮影)

 

 代わって大きな話題になったのは、山Pこと山下智久さんの同事務所退所だった。なぜこちらが一斉報道になったかといえば、10日にジャニーズ事務所が正式に発表したからだ。10月末日付の退所をなぜこの時期に発表したのか、とワイドショーなどで話題になっていたが、『週刊文春』の記事を読むと事情がわかる。実はその10日に文春オンラインがスクープ速報として報じていたのだ。その3時間半後に事務所がホームページで公式に発表したというわけだ。

 以前は『週刊文春』はスクープネタを雑誌発売前日水曜の午後4時頃に文春オンラインにあげることが多かった。翌日発売される雑誌のプロモーションという考え方からだろう。

 しかしこの時は1日前の10日火曜日にオンラインにあげた。こういうネタは1時間でも早い方が勝ちで、雑誌発売前日まで寝かせておいて他のメディアが先に報じるというのを避けようとしたのだろう。恐らく情報を入手し、ウラが取れ次第配信したものと思われる。

山下智久さん退所スクープめぐる事務所との攻防

 それを知って事務所が即座に正式発表したのは、事務所のメディア対策の一環だろう。第一に、それによって芸能マスコミが一斉に報じ、『週刊文春』の単独スクープという話が消えてしまう。実際、一斉に報じたスポーツ紙やワイドショーは、「『週刊文春』によると」ではなく、各社独自ネタとして報道した。

 そしてもうひとつ、退所の説明を事務所主導にできるからだ。『週刊文春』の見出しは「山下智久退所!ジャニーズとの確執全真相」。山Pの退所は事務所とのの確執の末だった、という見方だ。

 それに対して事務所の公式発表とそれを受けたワイドショーなどの報道は、円満退所というトーンだった。恐らく事務所としては、山下さん本人と話し合いを行っていたはずだから、円満退所という話に持っていくのが得策と判断、双方に対立を残したような報道が広がるのを避けようとしたのだろう。

 山下さんが退所するのではないかというのは、『週刊文春』の一連の報道を見ていれば予想がついた。まず未成年女性と飲酒し、しかもホテルに「お持ち帰り」していたという情報をすっぱ抜いたのは、8月7日の文春オンラインだった。その時点で『週刊文春』は山下さんの周辺から情報が取れるような関係を作り上げていたのだろう。そして事務所の方針として、山下さんは8月17日から活動自粛となった。厳しすぎるのではという情報も漏れていたから、恐らく、山下さん自身はあまり納得していなかったのだろう。

 結局、その自粛期間中に本人が退所するという結末になったわけだ。もちろん海外から仕事のオファーが来たというのが大きなきっかけだが、そのオファーだって、自粛中で他のスケジュールが入ってないからこのタイミングで来たのかもしれない。

自粛期間中に当のタレントが辞めてしまうという事態の意味

 そして問題は、事務所の処分を受けて活動自粛しているさなかに、当のタレントが辞めてしまう、今回の結末だ。これはジャニーズ事務所の威光や求心力が低下したことを内外に示したものだ。以前なら、タレントの都合で事務所を退所した場合、テレビなどがそのタレントを起用しないように干しあげてしまうというのが同事務所のやり方だった。そのために、かなり事務所との関係を作って円満退所しない限り、タレントは独立ができなかった。典型的なのが、SMAPが独立しようとした時の騒動だ。

 しかし、カリスマ創業者・ジャニー喜多川元社長が他界して以降、ジャニーズ事務所のタレントは堰を切ったように独立や対処、活動休止が目についた。そのたびに求心力の低下を満天下に示しているようで、事務所としても苦慮していたものと思う。

 そこで今回の山下さん退所については、処分期間中にタレントがやめていったというのでは事務所の面目がつぶれるので、円満退所の形にしたかったのだろう。冷静に見れば今回の退所劇がジャニーズ事務所の求心力低下を示すものであることは明らかだ。

 

 『週刊文春』11月19日号の記事を読むと、実は山下さんはもともと6月に退所届を出していたという。その後自粛騒動があったわけで、山下さんが今回のように退所してしまうのではないかというのは、恐らく関係者の間では囁かれていたのだろう。事務所が退所発表の時には既にカナダに行っていたという。そんな状況で退所発表というのも、何とも「示しのつかない」印象を世間に与えるものだが、それがジャニーズ事務所の現状なのだろう。

 いまだにテレビ界は事務所への「忖度」一色だから、テレビへの支配力はいまだ続いているわけだが、かつてのジャニーズ事務所の権勢を思えば隔世の感があると言ってよい。

『週刊文春』が大きく扱った近藤真彦さん不倫スキャンダル

 『週刊文春』11月19日号が、山下さん退所よりも目次などで圧倒的に大きく扱っていたのが近藤真彦さんの不倫スキャンダルであることは前述したが、こちらの騒動の顛末もいろいろなことを考えさせるものだった。

 当初、ワイドショーなどは同事務所に忖度してほとんど取り上げなかったのだが、結局、17日に近藤さんの芸能活動無期限自粛という処分が発表された。それを詳しく報じたのは19日発売の『週刊文春』11月26日号だ。見出しは「逃げる近藤真彦に妻が激怒『離婚する』」だった。

『週刊文春』11月26日号(筆者撮影)
『週刊文春』11月26日号(筆者撮影)

 記事によると、近藤さんは当初、同誌のスキャンダル報道を認めず、事務所関係者も芸能マスコミに取り上げないよう通達していたという。近藤さんは以前から、不倫相手に「俺は(不倫記事を)もみ消せる権力を持っている」と言っていたという。正確に言えば、「俺は」ではなく「事務所が」メディアを支配する力を持っていたということだろう。

 でも今回、結局、近藤さん本人も謝罪し、事務所が自粛処分を発表した要因は、記事によると、「妻の怒り」だったというわけだ。結局、本人が事務所に対して自粛を申し出たようで、「芸能活動無期限自粛」という重い処分となった。

歌手活動40周年記念報道とのチグハグ

 なぜ本人や事務所がなかなか事実を認めようとしなかったかといえば、タイミングがあまりに悪すぎたからだ。近藤さんは今年が歌手活動40周年とのことで、記念イベントが12月に予定されていた。そしてそれを盛り上げるために、雑誌などの媒体に出まくっていたのだった。全く間が悪いことに、不倫スキャンダルが発覚した翌週から、『週刊朝日』『サンデー毎日』などを始め、週刊誌の表紙を飾ったものが次々と発売されていった。

 

間が悪かったマッチの40周年キャンペーン(筆者撮影)
間が悪かったマッチの40周年キャンペーン(筆者撮影)

 往年のマッチを知っている層にアピールしようという戦略なのだろうが、ジャーナリズムを掲げる新聞社系週刊誌が、不倫スキャンダルの渦中に、近藤さんを持ち上げる特集を掲載するという何ともチグハグなことになった。最近は、タレントを表紙にして特集を組むとファンが買ってくれるというので、『サンデー毎日』『週刊朝日』『AERA』など、硬派と言われてきた週刊誌が、頻繁にアイドル特集を組むようになっているが、さすがに今回は編集部や関係者は「間が悪い」と思ったに違いない。

 こんなふうに最近は、ジャニーズ事務所のスキャンダルは、まさに『週刊文春』の独壇場のようになっている。内部事情に踏み込んだスキャンダルは、ネタの通報や持ち込みがないと書けないから、恐らく情報提供が増えているのだろう。これもジャニーズ事務所の求心力低下のなせる業だ。

気になる「嵐」大野智さんめぐるスクープ

 さて、そんな中で気になったのは、『週刊文春』が11月12日号でスクープした「嵐”分裂”全真相 大野智『9枚の熱愛写真』」だ。これもすごいスクープで、嵐のリーダー大野さんが熱愛していたという女性と沖縄の離島の海岸で熱く抱擁する写真が巻頭グラビアに掲載されている。

『週刊文春』11月12日号(筆者撮影)
『週刊文春』11月12日号(筆者撮影)

 こういう超極秘プライベート写真を持っているのは当事者の2人以外考えられず、恐らく2人のどちらかの意向で『週刊文春』に提供されたものと思われる。2人は既に決別したというから、通常だと有名タレントとの思い出を女性が持ち込むケースが多いのだが、この場合は違う印象を受ける。というのも記事を読むと、大野さんの恋愛遍歴が詳細に書かれており、どう考えても大野さん周辺から情報が出ていないと書けない記事のようなのだ。

 実際、このスクープ記事の車内吊りなどの印象では、「大野智 この恋がすべての始まりだった『9枚の熱愛写真』」と、あたかも大野さんの独占インタビューでも載っているかのような匂わせ方だ。

 嵐の活動休止へのきっかけは、大野さんが「嵐を辞め、彼女と生きていく」と、今後はアイドルタレントでない自分自身の人生を送りたいという意向を示したからだとされているが、実際、第2の人生を送るために、既に住む場所も決めていたとか、具体的な話が記事では詳しく語られている。

スクープ記事の背景にいったいどんな事情が…

 恐らく『週刊文春』としては、12月31日をもって活動休止に入ることが既に明らかになっており、これから大晦日へ向けて盛り上がるだろう嵐の、活動休止の原因とされる大野さんの周辺を取材していたのだろう。もしかすると、活動休止を前に、既に女性とは別れていたという、嵐を惜しむファンには衝撃ともいえる事実をつかんでいたのかもしれない。それをきれいな話として誌面化するために、大野さん本人と何らかの話し合いがなされたのではないか。この記事はそう考えないと理解できないような中身になっている。

 もしそうだとすると、『週刊文春』は、本来は事務所のガードが堅いはずのジャニーズ事務所のタレントやその関係者に食い込むところまで取材網を確保できていることになる。実際、前述した山P退所のケースを始め、そういう取材網がかなりできていると考えないと経緯の背景が理解できない気がする。

 これもジャニーズ事務所の求心力が失われているゆえなのだろう。カリスマ創業者亡き後のジャニーズ事務所は、メディア対応の面でも後手に回っている印象が強い。

 スポーツ紙やワイドショーのように、ジャニーズ事務所の支配下にあるわけでなく、しかも高い取材力で芸能界に食い込んでいる『週刊文春』は、独特のポジションを確保していると言える。ジャニーズ事務所によるメディア支配力が低下している状況とそれは微妙に関わり、結果的に同誌のスクープを通じて、事務所の内情が次々と明るみに出され、それがまた求心力低下を加速している。それが現状なのではないだろうか。

 ジャニーズ事務所の変遷を語ることは、芸能界全体を見ることにつながる意味を持っている。まだしばらく芸能関係者も『週刊文春』から目が離せない状況が続くような気がする。

 

 

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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