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死刑判決の控訴を取り下げた山田浩二死刑囚に接見。到底納得できないと思った

篠田博之月刊『創』編集長
控訴取り下げを伝える報道(筆者撮影)

 2019年5月23日、寝屋川中学生殺害事件の山田浩二被告に接見した(法的には取り下げた時点で「山田死刑囚」と表記すべきらしいが、呼称変更が煩雑なのでこの記事では「被告」と表記する)。1審の死刑判決に対して控訴していたのを、突然本人が取り下げてしまったもので、関西では新聞の1面を飾るニュースになっている。きょうも取材陣が接見希望でつめかけていた。一昨日に毎日新聞が報じ、昨日は読売新聞が接見して報道したため、他の社も何とか、ということなのだろう。

 私は昨日、本人に電報を打って、きょう接見に行くと連絡していたので、やや安心して朝8時20分頃に接見申し込みをしたのだが、報道陣が既にその前に訪れていた。山田被告に接見してまず驚いたのは、その私の電報が届いていなかったことだ。幸いその前にも電報を打っておいたので、本人はきょうあたりに私が来るかもしれないと報道陣の接見申し込みを断っていた。

 その電報が届いてない件については、山田被告は「最近、手紙などが全てそうなんです」と憤っており、意図的に意地悪をしているとしか思えないと言った。大阪拘置所では林真須美死刑囚も同様のことを言っていたのだが、そのいじめ云々の真偽はさておき、山田被告はそういう雰囲気で刑務官と険悪になっていたらしい。そういえば私への手紙もこの1週間ほど途絶えていた。

 そして問題の5月18日、貸出されていたボールペンを時間内に戻さなかったとかで刑務官にとがめられ、山田被告が反論したために、喧嘩になったらしい。その挙句、懲罰処分を食らいそうになって、山田被告曰く「パニックになってしまった」。そんな問題になるようなことはしてないじゃないか、などと彼も強く反発したらしい。

 そしてパニック状態のまま、何と控訴取り下げをしてしまったというのだ。彼は「あの事件の時と同じです」とも言っていた。確かに寝屋川殺人事件は、殺害の動機も不明で、「事件の時もパニックだった」という本人の言葉の意味は重いかもしれない。

  最近の手紙でも、山田被告はやや精神的においつめられており、その心情をこう書いていた。

 《今こう見えて、かなり精神的に不安定なところもあって、気持ちは前向きですけど、時には凹んでしまったり、押したらアカンボタンを押したくてたまらない感覚? つまり控訴取り下げ手続きをして、死刑確定し、早く執行してもらって(自ら控訴を取り下げると執行時期が早まると聞いたことがあります)この淋しさや苦しさ悲しみ等から解放されて楽になるんじゃないかなぁ……もうすべてに絶望し過ぎて疲れたわ……と考えることだってあります。

 そんな弱音を吐くと、私を応援してくれる人達に怒られそうですけど、やっぱ、このような日々がずっと続いていると、ふとした瞬間ですけど、もうどうだっていいやっていう気持ちになります。この気持ちは実際、求刑や判決で極刑を宣告された人でしか判らない。》

 

 手紙では「押したらアカンボタン」と書いていたが、それが頭をよぎるような不安定な精神状態だったのだろう。そこへ刑務官と口論になりパニックに陥ったということらしい。

 本人もきょうは少し落ち着いていて、死刑確定の意味を説明したら、熱心に聞いていた。何よりもこのままだと明日にも死刑確定で接見禁止になる恐れがあることを説明したら、そういうことさえ彼は知らなかった。確定後の連絡先など確保しているのかと訊くと、前から考えて取り下げたのでないので何もやってないという。面会室で話を聞いていて私のほうが絶句した。

 さてその話を本人から聞いて、明日も接見してほしいと言うので、私は一度東京に戻って明日の早朝また接見するつもりだが、なんとか上記の事情を考えてこの「取り下げ」を無効にする方法はないものか力を尽くすことにした。何よりもこんな形で死刑が確定するなどというのは法の精神から言ってもあってはならないことだと思う。山田被告本人は、きょうの面会時にも、控訴審は受けるつもりだったと言っていた。

 具体的にどうなる可能性があるかは、今は書けない。弁護士さんとも話ができた。

 似たようなケースでは、2004年の奈良女児殺害事件の小林薫死刑囚の事例があって、小林死刑囚は弁護士に説得されて「控訴取り下げ無効」の手続きを行うことになった。これには私も関わりがあるのだが、ただ少なくとも小林死刑囚の場合は、それなりに思いつめて考えた末に取り下げ手続きを行ったものだった。しかし、今回の山田被告の場合は、ひどすぎると思う。真相を解明し、法の裁きを受ける、しかも被告は起訴内容を否認しているのだから、裁判はきちんと行われるべきだと思う。

 ということで明日の朝も報道陣は拘置所につめかけると思うが、大事な局面なのでご理解いただきたい。事件を追っているマスコミの方々もこのヤフーニュースを見ていてくれているようなので、ここに経緯を書くことにした。控訴取り下げ手続き自体は重たいものだから簡単に何とかなるものでないことは明らかだ。でも何とかできないものかと思う。山田被告とはまだ半年ほどのつきあいだが、控訴取り下げと聞いた時には本当に重たい気分になった。今まで宮崎勤死刑囚を始め、つきあいのあった死刑囚が何人も執行された経緯を見てきたからということもあるが、死刑判決の確定や刑の執行は厳格に手続きしなければいけないものだと思う。

 なおこの間の経緯については何本も記事を書いているし、山田被告の獄中手記をヤフーニュース雑誌で全文公開した。

獄中手記は下記からアクセスできる。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190521-00010000-tsukuru-soci

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190521-00010001-tsukuru-soci

〔追補〕この記事の続きとして5月24日に下記の記事を書いているので参照いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190524-00127258/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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