フジ『マスカレード・ホテル』vsTBS『七つの会議』のヒットが日本映画界に及ぼす影響

「七つの会議」全国公開中 C2019映画「七つの会議」製作委員会

 フジテレビ製作の映画『マスカレード・ホテル』が大ヒットしていた映画界に、今度はTBS製作の『七つの会議』が打って出てランキング首位に立った。この両者の争いの日本映画界に及ぼす影響と持つ意味はかなり大きいと言える。

 2017年、実写邦画が不振と言われた時期があった。アニメは隆盛だが、実写については興収で30億円の壁を超えられないと言われた。ところが昨年来、状況は変わりつつある。2018年夏に公開されたフジテレビ製作の『劇場版コード・ブルー―ドクターヘリ緊急救命―』が興収93億円と、30億円の壁を軽々と超えたのだ。

 『コード・ブルー』はもともとフジテレビのドラマだったコンテンツで、それを映画にして100億近い興収を上げたというのは、日本映画界にとって大きな意味を持つ。『マスカレード・ホテル』はドラマ発でない原作ものだが、監督が『HERO』などで知られる鈴木雅之さんで、キャストも木村拓哉さんらだから、フジテレビのドラマのイメージと意識的に連動させたのは明らかだろう。

 TBS製作の『七つの会議』も、池井戸潤原作に、伊與田英徳プロデューサー、福澤克雄監督という、『半沢直樹』から『下町ロケット』『陸王』へと続くTBSドラマでヒットを連発してきたチームの作品だ。恐らくそのドラマで培ったブランドイメージが今回の映画のヒットになっているのは間違いない。

 これらのヒット映画は、単にテレビ局が製作したというだけでなく、ドラマと映画の連動を戦略的に考えたコンテンツ戦略の結果なのだ。配信ビジネスが拡大している中で、今後、テレビ局のコンテンツビジネスがどう展開していくかを見るうえで、『コード・ブルー』に続くこの2作品のヒットは大きな意味を持つと言える。

 そうした観点から、発売中の月刊『創』3月号で、『七つの会議』のプロデューサーである伊與田英徳さんにインタビューした。それをここで紹介しよう。

テレビも映画も一緒だなと思った

――昨年から今年にかけて『下町ロケット』の制作だけでも大変だったと思うのですが、並行して映画撮影をやっていたわけですね。

伊與田 撮ったのは2018年の5月です。昔みたいにフィルムじゃないので、割とテレビを作るのと同じような感覚で作れるんです。確かにスクリーンが大きい分、編集にはデータ処理とか、時間がかかりましたが、8月には映像が完成していて、音入れをしたのは9月です。

 もともとフィルムを最初にやった時から、映画もテレビも一緒だなと思っていたんですが、これはフィルムだ!といった構える気持ちさえなければ全く変わらないですね。フィルムになるとカッコよいと思う人もいるようですが、結局、撮ったものしか映っていないんです。制作現場は全く変わらないですね。レンズがちょっと良くなるとかそのくらいで。

 映画はまず先に台本が出来上がっているので、連続ドラマと多少の違いはあるのですが、まあ2時間ドラマを作ると考えれば全く変わらないです。

 私の感覚だと、ネットとテレビと映画は一緒。ただスクリーンの大きさが違うだけなんです。

――池井戸さんの作品をドラマでずっと手掛けてこられたわけですが、池井戸作品の中で『七つの会議』を映画にしたのはどうしてですか。

伊與田 池井戸さんの原作を読んだ際に面白いなと思っていたんです。原作はオムニバス形式になっているんですけれども、ひとつの会社で偽装があって、それを隠蔽していくのか、それともどのように解決していくのか、みたいな話です。ちょうどやりたいなと思った頃に、日本の社会で耐震偽装とか、いろいろ偽装が起きたんですよ。だから、すごく時代とマッチしていると思いました。むしろ池井戸先生はそれを予言して書いたんじゃないかと思えたほどでした。

――映画の準備を始めたのはいつ頃だったのですか?

伊與田 一昨年、『陸王』をやっていた時にはもう頭の中で準備を始めていました。だから3年前くらいだと思います。

 今回は、東宝さんもやりたいとおっしゃっていると伺ったので一緒にやらせていただいたのですが、映画の場合は、映画会社とのやり取りも必要です。テレビ局の映画事業との兼ね合いももちろんですが、公開する東宝さんのスケジュールも考えないといけない。東宝さんが公開を決めた時には、映画の前に『下町ロケット』があるとか、東宝さんも知らなかったと思います。

 確かに流れを考えると結果的には良かったかもしれませんが、戦略的に考えたというより、たまたまこういう流れになったという感じですね。『下町ロケット』を編成の都合で1月クールにやるという可能性もゼロじゃなかった時期もあったので、もしそうなってしまったら『七つの会議』はどうなっていたかと思います。

キャストの方々も「出たい」と言ってくれた

――プロデューサーも演出も、『半沢直樹』や『陸王』『下町ロケット』などと同じでしょう。キャストも馴染みの人が多いから、観ている方はイメージをだぶらせてますよね。

伊與田 キャストの方々も映画をやると言ったら、みなさん「出たい」と言ってくださって、お願いしますという感じでした。福澤が「今はテレビを楽しんでやっていますけれども映画監督にもなりたい」とも言っていたのを知っていたこともあると思います。

 主役の野村萬斎さんだけは初めてですけれども、萬斎さんとは前々から一緒にやりたいと思っていて、こちらからアプローチしていたんです。

 スタッフはテレビとほぼ一緒ですね。映画のスタッフは優秀だと思われがちだけれども、福澤がテレビのスタッフは優秀だ、うちのスタッフがいい映像を作ると言ったんです。映画だと構えて、映画のスタッフを連れてくる人もいるのですが、私たちはそうでなかったのです。

 私たちはテレビの人間なので、テレビを第一に考えていることは事実なんですけれど、できたら映画もやりたいなあと思いますよね。大きなスクリーンでやってみたいなという気持ちですね。

 テレビをやっていると当然、視聴率が気になりますけれど、映画の興行成績も気になりますね。出資していただいているから収益をある程度上げないといけないわけですが、それ以前に「テレビ屋さんが映画をやるとダメだ」と言われたくないなという気持ちもあります。

――池井戸さんの作品はこのところすごい勢いで映像化されていますよね。今後はどういうものをやりたいと思いますか。

伊與田 そうですね。まだ映像化されていない昔の面白い作品はあります。でも多くの作品は映像化されていると思います。

 私は、池井戸先生に新しいものを書いていただけると嬉しいなと思っています。『下町ロケット』も、まだ書くとは一言もおっしゃってないんですけれども、次の展開があったら面白いですねといった話はさせていただいています。そういうことを含めて今後もいろいろできたら嬉しいですね。全てがあらかじめレールに乗っているわけではありませんけれど。

――ドラマや映画にする時には原作者である池井戸さんと相談はしながらも、独立した作品だという認識なんですね。

伊與田 そうですね。いろいろ教えていただいたり、行間にこういうことがあったんですかとか、先生はこういうふうに考えたんですか、みたいなことはありますけれども、最後はお任せしますということでしたね。

これからも新しいものに挑戦していかないと

――毎週続く連ドラと2時間の映画との違いはどんなふうに意識されましたか?

伊與田 展開というか速さが違うというのと、テレビだとザッピングされないように前から詰め込んでいく作業をしますが、映画の場合は来た人に2時間見ていただけるので、そういうところの作り方や考え方は違いますね。もちろん最初にわっと思わせないと、映画も退屈になってしまいますけれども。

――テレビ局にとってドラマのコンテンツで映画でも勝負できるというのは良いことですよね。

伊與田 これからのテレビ局のあり方としては、ネットの世界も含めて、いろんなところで力を発揮できるのは必要なことだと思います。視聴者層が多様化し多岐にわたってきているので、その辺はフレキシブルにやっていくことが必要なんじゃないかなと思います。

――コンテンツをどう展開するかというのは、今後のテレビの一つのヒントになるかもしれないですね。

伊與田 一つのヒントにはなるかもしれないですけれども、まあ連動したから全て当たるかというとそうではないと思います。やはり一つ一つちゃんとやっていかないといけませんしね。

――でも『半沢直樹』から『下町ロケット』まで、一連のドラマではブランドイメージができつつありますね。

伊與田 それが良いのか良くないのかは一言では言えません。多少は良い意味で裏切っていかないといけないので、やっぱり新しいものを展開していかないといけない。まだこれからもいろいろ挑戦していきませんかと福澤とは相談しているんです。

 一つのイメージができるというのは、見やすさとか、ある種水戸黄門的な安心して見られるソフトということになっていくかもしれないし、逆にいつも同じようなパターンに陥ってしまうかもしれない。微妙なラインであるなあと思います。