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メディア大変革の中で読売新聞は「紙とデジタル」で大きく舵を切ったのか

篠田博之月刊『創』編集長
読売新聞オンラインの画面イメージ(読売新聞提供)

 2月7日発売の月刊『創』(つくる)3月号は新聞社の特集で、この1月は各社を取材で相当回った。取材をしていて実感したのは、先月の出版特集でも感じたが、既存の紙媒体がいま相当大きな変貌を遂げようとしつつある現実だ。長いメディアの歴史の中でもこれはエポックメイクな出来事だと言ってよいと思う。特に新聞についていえば、「新聞」という概念そのものが変わりつつあると言ってよいと思う。

 今でも一定年齢以上の人にとっては、新聞というのは、毎朝自宅に配達され、生活習慣とリンクされている存在だと思う。しかし、例えば日本経済新聞社発行の日経電子版について言えば、新規加入の7割は、紙と電子版を両方とって使い分けるという利用の仕方でなく、電子版しか契約しない人だという。一定年齢以下の若い人にとっては、「新聞」という概念が既に上の世代と違っているのだ。現状においては電子版を読んでいる人も、ビューアーを使って紙の新聞と同じ紙面をネットで見るというケースが多いのだが、これも10年も経つと変わっていくかもしれない。スマホでテキストだけを読むという電子版読者にすれば、紙の新聞の、あの1面とか社会面といった紙面をめくるという概念自体がなくなっていくかもしれないのだ。

「新聞」の概念が変わるような大きな変化

 この2~3年、デジタル化を進める新聞社が大きく取り組んでいるのが「統合編集」体制への移行だ。大きく変わりつつあるのは、今まで朝刊夕刊の締切にあわせて組み立てられていた新聞の編集局の仕事が大きく変わっている。朝・昼・夕というデジタルが読まれる時間帯にあわせて配信を行うというスタイルに各社変わりつつある。

 例えば2018年11月19日の日産カルロス・ゴーン前会長の逮捕だが、朝日新聞は「逮捕へ」という超速報を17時11分に朝日新聞デジタルで配信。そして「逮捕」という報道を19時54分に配信した。その間、ゴーン前会長の専用機に地検特捜部が踏み込んでいく場面を動画撮影していくのだが、そのスクープ動画も含めて、デジタルで勝負をかけていく。紙の新聞はその間、介在していないのだ。時代が変わりつつあることを新聞業界に実感させた出来事だった。

 さてそんなふうに取材・配信などの新聞の仕事の概念が大きく変わりつつある中で、今注目されているのが読売新聞の動向だ。「部数世界一」を売りにしてきた同紙は、もちろん紙もデジタルも取り組みは行っているのだが、あくまでも「紙」が第一なのであった。これまでもそれは内外に言明してきた。

 その読売新聞が今年1月から業界で話題になっているのは、ひとつにはこのご時世で新聞代の値上げに踏み切ったことと、そしてもうひとつは2月1日から、「読売新聞オンライン」という本格的なデジタルサービスを開始したことだ。業界でもそれについての評価は真っ二つに分かれる。ひとつの見方は、やはり読売新聞もデジタルに舵を切ったかというもの。そしてもう一つは、あくまでも読売新聞は販売店にも気を使ったシステムにしているし、紙が第一という姿勢を崩していないという見方だ。

 実際はどうなのか。これはなかなか微妙な問題だ。今回の『創』の新聞特集では、同社のメディア局オンライン部の菅谷一弘部長に話を聞いた。「読売新聞オンライン」の準備は、昨年来、社長室を中心にプロジェクトとして進められてきたのだが、この新設されたオンライン部が今後、司令塔になっていくらしい。組織的位置づけについては、菅谷部長の説明はこうだ。『創』の記事から引用しよう。

読売新聞の「紙とデジタル」めぐる今後の行方は

《「これまでプロジェクトとして100人以上が準備に関わっていましたが、今年1月にその事務局機能がメディア局に移り、オンライン部になったのです。司令塔的な役割で、指標の分析やユーザー調査、マーケティングなどを含めて受け持つことになります。ニュースも、速報的なものは誰でも読めるようにヤフーニュースやSNSなどにも配信しますが、鍵のついた定期購読者だけが読める記事との関係など、配信の仕方はいろいろ考えていくことになります。

 そのあたりは、まさに試行錯誤だと思います。作ったら終わりではなくて、常に改善していける体制を担保するために、オンライン部ができたということです」(菅家部長)

 冒頭にも書いたように、読売新聞はこれまでもデジタルに取り組んではきたが、「あくまでも紙が第一」という考え方だった。それは今回の取り組みでどうなっていくのだろうか。「『大きく舵を切った』という言い方で良いのでしょうか」と尋ねると、菅谷部長はこう答えた。

「紙とデジタルを、セットで売り出すということになる。その意味では、舵を切ったというのは間違いないと思います」

 続けて「では『紙が第一』というこれまでの考え方はどうなるのでしょうか」と尋ねるとこう答えてくれた。

「そこは変わらないですよ」》

 なかなか微妙な答えである。

毎日新聞も「過去になかった大改革」

 日本経済新聞や朝日新聞などはもちろんだが、毎日新聞や産経新聞でもこのところ、デジタル化に伴って組織改編が行われつつある。毎日新聞の場合は「過去になかった大改革」が大詰めで、この4月には統合編集体制へ向けて大幅な組織改編が予定されている。

 同社の松木健・東京本社編集編成局長の話を『創』特集から引用しよう。

《「社長が去年から言い続けていますが、今進めているのは『デジタルトランスフォーメーション』、会社全体をデジタル化するということです。

 もともと編集編成局のデジタル化の先兵として、2年前に統合デジタル取材センターという部署を立ち上げたのですが、それがかなり効果を上げています。デジタルの世界で話題になっているニュースをいち早く取材して、他の媒体に先駆けて報じるというケースが増えているんです。

 その統合デジタル取材センターについて、デジタル化をさらに加速させるために、この4月にスタッフを大幅に拡充します。当面は、ここが中心になって、社会部や政治部や経済部などの各出稿部と協力しながら、記事をどんどん出していくことになると思います。

 紙の新聞のスペースは限られていますから、そこで載せきれないものをデジタルで詳しく読んでもらうというケースももちろんありますが、新聞には出ていないデジタルオンリーのコンテンツを出していくことにも、これまで以上に取り組んでいこうと思います」

 この4月には組織改編も行うという。

「昔の整理部を、今私たちは『情報編成総センター』と呼んでいますが、その中にデジタルサイトを運営しているウェブ編集グループというのがあるんです。そのグループと統合デジタル取材センターが、編集編成局の中ではデジタル化の両輪を担っているんですが、4月にそこを率いるヘッドクォーターを設け、専従者を置こうと思っています。局長直属の組織ですね。

 例えば、今『デジタル毎日』という大きなサイトがあるわけですが、もう少しそこを小分けにして、我々が特別に強いコンテンツ、例えば将棋とか囲碁とか、そういう特別なサイトを作れないかとか、いろいろなことを検討していく。そうした取り組みを続けながらデジタル化を加速させていこうと思っています」》

 産経新聞も2019年10月、これまでと全く違う新しい電子媒体をスタートさせる予定で、社内での呼称が「産経新聞アンリミテッド(仮)」。なかなかすごい名前なのだが、これについては別稿に書いた。下記をご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190209-00114170/

産経新聞が準備を進める新しい電子媒体「アンリミテッド(仮)」とは何か

 ともあれ大手新聞各社ともこの1~2年、相当ドラスティックに変わりつつあることがわかる。名古屋での中日新聞の紙の新聞が安定しているためにデジタル化が遅れたと言われる東京新聞でも、昨年来、会社側を突き上げるような形で現場からデジタル化への取り組みを求める声が湧きあがり、2019年中に本格的な取り組みを行うことが既に決まっている。

 新聞界はまさに激変の時代に入っていると言えるだろう。

※『創』3月号新聞特集の詳しい内容は下記をご覧いただきたい。

http://www.tsukuru.co.jp

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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