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テレ東『充電させてもらえませんか?』大ヒットの背景と気になる展開

篠田博之月刊『創』編集長
『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』テレビ東京提供

 正月のテレビは、中身のないバラエティ番組がダラダラと続くばかりで見るものがないと言われるが、2019年はTBSのドラマ『下町ロケット』など、期待作もある。その中で『池の水ぜんぶ抜く』など看板番組を拡大スペシャルで全部並べて見せるのが、このところのテレビ東京だ。

 2019年も看板番組が並ぶが、その中で初登場。どのくらい視聴率を取るのかと期待されているのが1月3日放送の『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』だ。この1年で急速に人気が拡大して、いまや『池の水ぜんぶ抜く』と並ぶテレビ東京の看板番組となった。

 

 『家、ついて行ってイイですか?』や『池の水ぜんぶ抜く』など、このところヒットしているテレビ東京の番組にはある特徴がある。予定調和的でないドキュメント・バラエティで、視聴者が次の展開はどうなるかドキドキしながら見るという点だ。これはいまや忘れられつつある「テレビの原点」かもしれない。

 2018年のテレビ東京の大ヒット『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』もその流れにあると言えよう。

 月刊『創』(つくる)発売中の1月号の特集「テレビ局の徹底研究」では、NHK『チコちゃんに叱られる!』、TBS『下町ロケット』など人気番組のプロデューサーに詳しいインタビューを行っているが、このテレビ東京の番組プロデューサー平山大吾さんにも話を聞いた。

 

 『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』は、深夜で4回ほど試験的に放送した後、2017年4月から土曜20時台(番組開始は19時54分)のゴールデン枠でレギュラー番組としてスタートした。

 番組のコンセプトもさることながら、人気が出るのに付随して、SNSとの連動という新たな展開も出始めたというその話は大変興味深いものだった。『創』の特集では、テレビ東京についてはそのほか、『池上彰の現代史を歩く』の企画者などにも話を聞いているが、それはぜひ『創』の原文を読んでいただくことにして、ここでは『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』をめぐる制作局CP制作チームの平山プロデューサーの話を紹介しよう。

プロデューサーが語る番組コンセプト

 「電動バイクは20キロ走るとバッテリーが切れるのですが、家庭用の電源で充電ができるのです。だからそれで走って、バッテリーが切れた時に『充電させてもらえませんか?』といって旅先の農家などに声をかける。そうすることで触れ合いができるのではないかと考えたのです。

 出川さんのゴールデン帯初の冠番組となったのですが、なぜ出川さんにお願いしたかというと、長回しのドキュメント・バラエティなのでスケジュール的にそれが可能な方であることはもちろんですが、大事なのは人と触れ合うことをいとわない人であることです。『充電させてもらえませんか?』とお願いしても、もちろん断る人もいるのですが、そこを何とか話しかける出川さんのやりとりが絶妙なんですね。『視聴率低いのでどうせ見られませんから』とか言って頼み込むのですが、その掛け合いに思わず笑ってしまう。

 最初は出川さんと誰かもう一人出演者でと考えていましたが、ディレクターと走ってみたらこれがなかなか面白かった。スイカ模様のヘルメットを被って2人で走るんですが、結局、その組み合わせのまま、ディレクターは3人くらいで回しています。

 4月にレギュラーになった時の第1回は、横浜の出川さんの実家から日本海をめざして走るという構成にしました。アルプスを左に見ながら走るのですが、夕陽がきれいだし、充電をさせてもらおうと飛び込んだ農家の人とのやりとりも面白かったんです。

 視聴率が一気に上がったのは、7月にさんまさんに出ていただいた時でした。さんまさんがテレビ東京に出演するのは34年ぶりと話題になりました。その回は13・2%と初めて視聴率が2桁になったのですが、それ以降、11月までに2桁をとったのが3回ありました。

 さんまさんは出川さんが出演をお願いしたのですが、出川さんに話を聞いて、一度出てみたいとわざわざ電話をかけてきてくださったのが唐沢寿明さんでした。出川さんの屈託のない良い人柄が、そうやっていろいろな人を呼び込んでいったのだと思います」

 番組の人気が高まるとともに出川さんの好感度もあがっていくという相乗効果もあったようで、11月には開局55周年企画でついに海外ロケも実現した。「充電ザ・ワールド」と題して、イタリアで「充電させてもらえませんか?」の旅を敢行したのだ。

「もともとイタリアは出川さんが奥様にプロポーズしたところでもあるし、ご本人は『ローマの休日』が好きなので、当初はローマをめざす旅をと考えたのですが、それは実現しませんでした。海外ロケは話題にはなったのですが、制作費が相当かかったので、もう少し視聴率をとりたかったと思いましたね」(平山プロデューサー)

SNSと連動した視聴者からの反応

 人気が出るにつれて当初の想定と異なるいろいろな反応も出てくるようになった。

 「最近はご本人も『これはちょっと出来すぎているなあ』とつぶやくことが増えました。もともと先が予想できないのが番組の面白さだったのですが、最近は行く先々で『あ、充電だ』などと一般の方が反応して下さることが多くなったのです。充電を断られて出川さんが『ヤバイよ…ヤバイよ!』とうろたえるところが面白かったので、最初の狙いと違ってきてしまったのですね。

 それから出川さんがバイクで走っているのを見た方がツイッターなどに投稿することも増えました。『今ここを走っていたので、こっちに抜けるんじゃね?』とかつぶやいてくれるんですが、行ってみると沿道に大勢の人が待ち受けていたりします。

 北海道の石狩の海岸を走っていた時には、親子が駆け寄ってきて、この辺と思って札幌から駆け付けましたと言ってくれました。最近は『ここへ寄って下さい』とか、『親から実家のそばに来たよとメールがありました』といった投稿もありました。旅番組ならではの反応はありがたいのですが、行った先で思わぬ渋滞になったりして困惑することもあります。

 最初は僕がツイッターでここ走っていますなどと発信していたのですが、最近は行く先を教えられず、『こっちへ抜けるんじゃね?』といった投稿を見ても『正解です』とは打てません(笑)」

 SNSとそんなふうに連動していくというのは当初からは想定外だが、そこに次の可能性も見えてきたという。

 「行く先々でそんなふうに反応があるというのは、テレビという枠から逸脱しているようにも見えますが、多くの人が見られるテレビだからこそでもあります。テレビの枠を超えてもうひとつのチャンネルにつながっている感じがして面白いですね」(同)

 2019年の正月3日もスペシャル番組が放送されるというように、『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』は今やテレビ東京の人気番組になった。

 「出川さんが腰を痛めたりしない限り番組は続きますが、本人は痛風もちなのでどうなるか…。あとは出川さんがスキャンダルとかで週刊誌ネタにならないよう注意してほしいと、これはご本人にも申し上げています(笑)」

 テレビという枠から逸脱しているように見えて、実はそれはテレビだからこそ。「テレビの枠を超えてもうひとつのチャンネルにつながっている感じがする」という平山さんの感想は、テレビというメディアの持つ特性と同時に、新しい可能性も示唆しているように見えて興味深い。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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