Yahoo!ニュース

ジャーナリスト山岡俊介さんの怪我は安倍晋三スキャンダルと関わりがあるのか

篠田博之月刊『創』編集長
寺澤さん(左)と怪我をした山岡さん(右)筆者撮影

 対談の現場にジャーナリスト山岡俊介さんが包帯姿で現れた時には驚いた。新宿で突然階段から転落したというのだが、誰かに押された可能性もあるので新宿署に届け出ているという。

2005年には自宅マンション放火事件

 そういう可能性を考えるのにはわけがある。山岡さんは2005年7月深夜に突然、自宅マンションに放火され、危うく命を落としかけたことがあった。ベランダ伝いに隣家に逃れたため無事だったが、エアコンや照明も溶けてしまうほどの火力だった。写真は事件直後の現場だが、ボヤというレベルでない火災のすさまじさがわかる。

放火事件直後の山岡さんと現場(『創』06年11月号)
放火事件直後の山岡さんと現場(『創』06年11月号)

 この時は、山岡さん宅を盗聴していた武富士と全面対決し、武富士王国を崩壊に導いた後だったので(その詳しい経緯は山岡さんの著書『銀バエ 実録武富士盗聴事件』創出版刊を参照)、武富士関連ではないかという噂が流れたが、山岡さん本人は別の筋だろうという見立てだ。

 山岡さんは「アクセスジャーナル」というウェブマガジンを発行し、大手マスコミが書かない政界や企業のスキャンダルを暴いている。そうした活動との関係で、訴訟を抱えたり、危ない目にも何度もあってきた。その日、対談を行ったジャーナリストの寺澤有さんも、警察のスキャンダルなどを果敢に暴いてきたとして業界では知られた存在だ。

 

取り組んでいるスキャンダルは国会で質問も

 さてその二人がこの間、取り組んできたのは、安倍晋三総理をめぐるスキャンダルだ。しかも反社会勢力が絡んだもので、山岡さんの「アクセスジャーナル」も記事にしているし、寺澤さんは『安倍晋三秘書が放火未遂犯とかわした疑惑の「確認書」』というアマゾンの電子書籍でその話を書いている。

 その日はそのスキャンダルをめぐって対談を行うために顔を揃えたのだが、直前に山岡さんが不審な大怪我をしたというわけだ。

 その対談は発売された月刊『創』(つくる)10月号に「封印されてきた安倍晋三スキャンダル」と題して9ページにわたって掲載されているのでぜひ読んでほしい。

 スキャンダル自体は、さる7月17日に山本太郎議員が国会で、安倍総理自身に質問して問いただしている。2000年6月から8月にかけて下関市の安倍総理の自宅や後援会事務所に火炎瓶が投げ込まれ、銃弾が撃ち込まれたという事件だが、山本議員はカジノ法案絡みの審議中に、政治家と反社会勢力というテーマで質問したものだ。それに対して安倍総理は「私たちはあくまでも被害者ですから」と答弁した。

 確かに放火事件だけを見れば安倍総理は被害者なのだが、山本議員が敢えて昔の事件を取り上げたのは、この事件が単純にそれだけで片づけられない要素を含んでいるからだ。火炎瓶を投げて逮捕された人物らは、1999年の下関市長選で安倍氏が推薦する候補の対立候補を非難する怪文書をまくなどして協力したのに、その報酬が払われないとして事件を起こしたのだった。そして安倍総理の当時の秘書とその犯人が接触した文書や、実際に秘書から300万円が支払われていたこと、犯人らはそれに満足せずさらなる見返りを求めていたことなどが裁判で明らかになった。

火炎瓶事件の犯人が今年5月に出所

 その事件がなぜ今、改めて問題になっているかといえば、その逮捕され服役していた人物が、今年5月に出所したからだ。安倍総理周辺は警戒を強めているという。山岡さんと寺澤さんは、5月と6月の2回にわたって、その人物と接触して詳しい話を取材した。

 事件そのものについての詳細は『創』を読んでもらうとして、今回、この一件を記事にしたのは、その安倍スキャンダルがこれまでマスコミに封印されてきた経緯を問題にしようと思ったからだ。2006年に共同通信がこの事件について取材し、記事を配信する直前に上層部の判断でお蔵入りになった。

 それについては、既に休刊している『現代』2006年12月号で共同通信OBである魚住昭さんと青木理さんが「共同通信が握りつぶした安倍スキャンダル」と題して告発記事を書いている。ちょうど安倍総理が総裁選に当選して権力を掌握していった時期で、共同通信はピョンヤン支局開設をめぐって政権側とやりとりしていたこともあって、スキャンダルを封印してしまったのだった。

 実は前述した火炎瓶事件の犯人は、1999年の市長選挙妨害事件で一度逮捕されながら不起訴となっている。その時、本人は、自分は安倍氏と関わりがあるので、起訴はできないんだと周囲に言っていたという。ところが、その後火炎瓶事件を起こして逮捕されるのだが、それは一緒に犯行に及んだのが福岡の暴力団・工藤会の人間で、逮捕は工藤会壊滅を狙っていた福岡県警の手になるものだった。つまり安倍総理のお膝元の山口県警でなくだが、福岡県警だったから事件化できたのではないかと言われているのだ。

山岡さんの怪我とスキャンダル追及の関係は?

 この1年ほどの森加計スキャンダルでもそうだが、圧倒的な権力を持つ安倍政権に対しては、官僚も「忖度」を重ね、「無理が通れば道理引っ込む」という事態が次々とまかりとおっているのが現実だ。火炎瓶事件は確かに事件としては安倍総理が被害者なのだが、裁判記録などを仔細に読むと、そう単純ではないいろいろな事実がわかる。ちなみに2007年3月9日の福岡地裁小倉支部で出された判決は、今でも裁判の記録としてネットで検索すれば読むことができる。山本太郎議員はその判決を詳しく検討したうえで国会質問を行ったものだ。

 

 寺澤さんと山岡さんは、安倍氏の当時の秘書と火炎瓶事件犯人の間で交わされた確認書なども把握しており、今後もこの問題を追及していくという。

 さて冒頭の話に戻るが、山岡さんがそうした追及を行おうとした矢先に大怪我を負ったのは、果たして偶然なのかどうか。

 気になるところだ。

月刊『創』:

http://www.tsukuru.co.jp/gekkan/2018/09/201810.html 

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

篠田博之の最近の記事