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松本智津夫元死刑囚の遺骨問題と四女の言う「最後のメッセージ」について

篠田博之月刊『創』編集長
スポーツ紙も連日報道(撮影筆者)

 何やら毎日更新してますが(苦笑)、松本智津夫元死刑囚の遺骨問題をめぐって、9日夜に松本家の四女が発したメッセージが気になったので書いておこう。前回の書き込みで私は、遺骨をめぐる経緯に国家の意思が介在しているような気がして、それについては注意したほうがよいと書いたのだが、その後の報道を見ると、どうも松本元死刑囚が拘置所側に何らかの意思表示をした可能性もあるような気がしてきた。意思表示というのは今報道されているような明確なものでなく、曖昧な反応を当局が都合よく解釈したか、あるいはほぼ誘導的に想定していた筋書きに誘導して言質をとったのでは、という意味だが、恐らくマスコミ各社ともこの情報を当局にあてているはずだから、全く根拠がなければこうはならないと思う。

 四女もこの成り行きには驚き、これは父親の「最後のメッセージ」かもしれないと言っているが、本当だとすれば結構重要なことかもしれない。ただ、三女は7月10日付スポニチのインタビューで「四女指名は100%ウソ」と言明している。松本元死刑囚が仮に四女の名前を出していたとしても、それが彼の正しい意思の表れかどうかわからないという面は考えておく必要はあると思う。そもそも今の報道を見ていると、いったいどうやって当局の裏をとったのか曖昧で、大丈夫なのかと思わざるを得ない。

 で、9日夜の四女のメッセージだが、ほぼ全文を引用しておこう。

《松本元死刑囚の最後の言葉の件につきましては、指名を受けた私自身が大変驚きました。しかし、それは実父の最後のメッセージなのではないかと受け入れることにします。(メディア問い合わせで補充「当面、東京拘置所保管」を前提にて)

 捏造などではあり得ません。現に聖人化される恐れがあっても遠藤元死刑囚の遺体は教団に渡りました。

 私は自分が他の親族に比べて実父から愛されたとは最後の言葉を踏まえても思いません。ですが、かなり信頼してくれていたのかもしれないというのは思い当たる節があります。実は知る限り彼と最後に接見できたのは私だったからです。

 松本元死刑囚はおそらく最後は一人の人として葬られたいのだと思います。

私には自分の過去の体験を振り返ると少し彼の気持ちが分かります。信者から神と崇められ、世間から悪魔と憎まれる人生というのはつらかったのではないでしょうか。誰も人として温情をかけてくれないわけですから。

今、実母と、長女以外の姉弟と、信者たちに言いたいことがあります。どうか松本元死刑囚の最後の意向を尊重してやっていただけませんか。彼は自分で始めたことの幕引きをもはや一人ではできなくなってしまったのです。自分の真意を伝えるのが苦手なのもあると思いますが、あまりに事が大きくなりすぎました。

 もう麻原教祖に依存するのは終わりにしませんか。支配されるのは終わりにしませんか。松本元死刑囚のためでもあり、また信者も一人一人の人生を生きるためにです。

 実父はもう麻原彰晃ではありません。

 その荷を死と共に降ろしたいと願った松本智津夫という一人の人間でした。

 松本元死刑囚の罪を増やさないためにも、ご自分が人生をこれ以上台無しにしないためにも報復テロや奪還テロなど絶対にやめてください。今まで松本元死刑囚に従ってきても、これからを彼と心中する必要はないんです。

彼のためには彼を崇めるのではなく、たくさんの人を傷付けてしまった彼の霊がいつか救われるよう祈ってあげることではないでしょうか。

 もうオウムを終わりにしませんか。社会を憎むのは終わりにしませんか。そして、改めて自分の人生を始めてみませんか。

 残された者が生きて自分と周りを幸せにするのが死者への最大の供養になるはずです。

 どうかお願いします。》

 印象に残ったのは「実父の最後のメッセージなのではないか」という表現で、もしその見方が正しいとしたら、そのメッセージの意味を考えることは重要だ。報道によると四女指名は刑の執行直前に行われたというが、その詳細を可能なら公表してほしいと思う。松本元死刑囚が、四女が家出をしたり、父親を忌避していることを理解したうえでそうしたのか、あるいはもっと単純な理由で大きな意味はないことなのか。今の情報ではよくわからない。

 このへんは松本元死刑囚の精神状態をどう見るかという問題にからんでいるので憶測は慎まねばならないのだが、仮に松本元死刑囚が精神的変調をきたしていたとしても、自分や家族に関わる事柄について少なくとも何らかの認知はしていた可能性があるような気がする。だから、もし遺体引き取りに四女の名前を出したというのが本当だとしたら、そこには何らかの意味があるような気がするのだ。

 その意味を四女も考えたようで、先に引用したメッセージでこう書いている。

《私は自分が他の親族に比べて実父から愛されたとは最後の言葉を踏まえても思いません。ですが、かなり信頼してくれていたのかもしれないというのは思い当たる節があります。実は知る限り彼と最後に接見できたのは私だったからです。》

 この「思い当たる節」ももちろん四女の推測で、そこから彼女はこう結論を導きだしている。《松本元死刑囚はおそらく最後は一人の人として葬られたいのだと思います。》

 前回、宅間守死刑囚が最期に「遺体のまま外に出してほしい」と獄中結婚した妻に告げた話を書いたが、この宅間元死刑囚の最期の気持ちも、本人が詳細に語ったわけではない。いろいろな情報を突き合わせて推測するしかないのだが、松本元死刑囚の遺体引き取りをめぐる今回の話も、詳細な内容がわからない段階で憶測しすぎるのは危険だが、何らかの意味が含まれている可能性もあるだけに気になるところだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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