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田原総一朗さんや小林よしのりさんらが「共謀罪」法案反対の記者会見

篠田博之月刊『創』編集長

2017年4月27日午後、参院議員会館で田原総一朗さんや小林よしのりさんらジャーナリストや作家ら14人が会見を行い、「共謀罪」法案反対を訴えた。

発言に立ったのは、以下の各氏。

青木理、田原総一朗、岩上安身、大谷昭宏、金平茂紀、岸井成格、小林よしのり、斉藤貴男、神保哲生、田勢康弘、津田大介、鳥越俊太郎、安田浩一、吉岡忍。

「私たちは『共謀罪』法案に大反対です」という声明を岸井さんが読み上げ、一人ひとり発言、その後質疑応答を行った。これまで特定秘密保護法や安保法制、総務相の電波停止発言などに反対してキャスターが反対の会見を行ってきたが、今回もその流れだ。新しい要素としては、4月25日の国会で参考人として発言した小林よしのりさんや、ネット系のジャーナリストが加わったことだ。ネトウヨからサヨクとして攻撃されてきた斎藤貴男さんや安田浩一さんと、保守派の論客だった小林よしのりさんが並んで会見するというのは、少し前まで考えられなかったことだ。

会見の全貌は下記のザ・ページで動画配信されている。

https://thepage.jp/detail/20170427-00000003-wordleaf?pattern=1&utm_expid=90592221-74.n0eFzRcKTSudq9ws3SXSYQ.1&utm_referrer=https%3A%2F%2Fthepage.jp%2F

ここでは以下、田原さんら何人かの発言を紹介しよう。共謀罪は「平成の治安維持法」と言われており、なかにはそれを大げさという向きもあるのだが、戦争世代である田原さんが「むしろ両者はそっくりだ」というのはやはり説得力がある。

■田原総一朗さんの発言

発言する田原総一朗さん
発言する田原総一朗さん

安倍首相はテロリストを対象にした法案であり一般の国民は全く関係ないと言っていますが、テロリストは一般の国民の中に潜り込んでいるわけだから、本気になって取り締まろうとすれば、当然一般国民のプライバシーに深く広く入り込まざるを得ない。おそらくそのつもりだと思います。

私は戦争を知っている最後の世代だと思います。小学校5年生の夏休みに玉音放送が流れた。争を知っている世代だとすれば、どうしても治安維持法を思い浮かべます。治安維持法も安倍さんの言い方と同じでした。「これは国体を壊そうとする共産主義者を取締りの対象とするもので一般国民は全く関係ない」。そう言いながら、2回改正して、政府を批判する人間、さらに満州事変が始まってからは戦争を批判する人間を全部逮捕した。私の知り合いでも拷問されて亡くなった人がいました。

今回の「共謀罪」法案は、この治安維持法とそっくりですよ。だから、戦争を知っている私たちは体を張ってこれに反対しなければいけない。実は明日4月28日の「朝まで生テレビ」も、この共謀罪についてやります。

次に今やリベラル派の象徴でそれゆえ右派から攻撃も受けている岸井さんの発言。政治記者を長年やってきたが今の国会運営は本当にひどい、と力説した。

■岸井成格さんの発言

発言する岸井成格さん
発言する岸井成格さん

これまでの国会審議を聞けば聞くほど、そして取材を続ければ続けるほど、この法案はテロ対策とは関係なく、あの3回廃案になった共謀罪を、名前だけを変えてもう一回生き返らせようとしている意図がはっきりしています。

最初は、この国会でどうしてもという感じではなかったらしい。通すのはなかなか難しいだろうとされていたのを、「テロ対策」とすればいけるんじゃないか、となってから、バタバタとこの国会に持って来た。もともと自民党に最初に説明した原案では、「テロ」の「テ」の字もなかった。そういう法案なんです。

もう一つの問題は、「テロ等」と「等」という文字が入っています。700近かったものを277にしたようですが、何を根拠にどういうものが犯罪対象となるかと決めたのか。大臣は何と言ったかというと、「そんな基準はありません」と国会答弁で言いました。

そもそも大臣の答弁が本当に二転三転。よく聞いていても、この人、本当に分かっていないな、と。最近、金田大臣を評価する皮肉な声がある。こんなデタラメな法案まともに答えられるわけがない。だから、大臣としては答えられない。非常に正直なんじゃないか、と。無理やりテロに持って行かなきゃいけないから大臣も答えられない。

国会では野党の合意なしに与党の多数で押し切って刑事局長を同席させて、しかもほとんど大臣よりは刑事局長が答え、それをそのままおうむ返しに大臣が喋っている。本当にみっともない国会審議をやっています。こんなことが許されるのか。これを数の力で押し通してしまうなんて、考えられないですよね。

既に日本弁護士連合会、日本ペンクラブなど多くの団体が反対を表明し、廃案に向けて頑張ろう、ということを決めています。それは我々の気持ちと全く同じです。こんなものを通してはえらいことになります。

もう一点あえて申し上げると、私たちはずっと何回かこういった会を持ちました。特定秘密保護法がそうでした。集団的自衛権の閣議決定がそうでした。安保法制もそうです。そして前回は電波停止発言。放送法違反ということで高市大臣がどういう発言をしたか、大問題ですよ、これは。憲法違反の発言です。そして、今言った一連の流れというのがどうもここへ来て、安倍政権4年間のアメリカとの一体化ですね。安保法制、集団的自衛権その他全部連動している。そこに秘密保護法や共謀罪というものが一体のものとして出てきている。そういう視点での追及も必要ではないか、そう思います。

小林さんの発言も紹介しよう。国会で発言したのと同趣旨だ。

■小林よしのりさんの発言

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この共謀罪法案は、国民世論で見ると、賛成のほうがパーセンテージが高くなってしまう。ここのところを突破しなければどうにもならないところがあるんですよ。だいたい共謀罪に反対と言っている人は左翼だと、そういう認識になってしまっているんですね。保守がこれに反対するはずがない、と思われてしまっている。

一般の人、90%以上の人が、「自分は一生テロとかそんなことやるはずもないから、関係ない。そういうことをやる人がいるのだったらさっさと捕まえればいい」としか思っていないですよ。だから、関心がない、ということになります。

けれども、ワシは国会に参考人招致で呼ばれて話しましたが、国会の人数構成は自民党の人のほうが多い。ワシは自民党の議員から見たら左翼と思われていないので真剣に聞いてくれるんですよ。それはやっぱり、どちらかというと右の方向からワシが共謀罪の危険性を訴えたからなんですね。

普段はほとんど90%以上の人がモノ言わぬ市民として暮らしています。それで一生終えますよ。けれども何かあった時は、たとえばワシが関わった薬害エイズ事件では子どもが非加熱製剤入りの注射を打たれてしまった。いわば無差別テロのようなことをされてしまったわけですよね。

そういう時は権力と闘わなきゃいけなくなるんですよ。モノ言わぬ市民のはずが、被害を被った時は、モノ言う市民に変わるんです。こういう時のことを一般の普通の市民が想像できるかどうか。ここにかかっているんです。このことをマスコミの人たちがちゃんと伝えてほしい。誰でもモノ言わねばならない市民に変わってしまいますよ、と。

団体もそうですよ。ワシは薬害エイズ訴訟を支える会の代表でしたが、この代表がテレビで「天誅!」とかって出すと、その時点でこの団体が「変質した」「変容した」と公安から見られますよね。そしたら、ワシが監視対象になってしまう。通信傍受されてしまったりするわけでしょ。

でも、そういう切羽詰まった、自分や子どもたちの被害のためにはラジカルに闘おうと一般の人が思うときも来るんです。そういう人のことを考えないと、民主主義というのは成立しませんよ、と言っているんです。マイノリティの、権力の被害者になる人だっている。その人たちをどうやって救うか、ということを考えないと、民主主義は健全に機能しませんよ、と。

国会でこういう話をしたら、自民党の議員は誰一人首を横に振る人はいませんでした。「うんうん」とうなずいていましたよ。だから、もっとマスコミの人たちが啓蒙して欲しい。「自分たちは関係ない」とみんな思っているかもしれんけど、あなたの子どもがどんな目に合うか分からないのだから、そういう時にちゃんと救えるようにしておかないといけない。権力が恣意的な形で「こいつらはテロ集団に変質した、だから監視してもいい」と、権力にとってマズければそれはやれるんですから。そういう世の中にするとマズいですよってことをワシは訴えたわけだけれども、マスコミの人たちも、そこをもっと啓蒙して国民に分かるように伝えて欲しいと思います。

そのほか津田さんや吉岡さんの発言も紹介したいのだが、長くなるのでここでは鳥越さんの発言を取り上げよう。戦争を知っている世代の発言はやはり貴重だ。

■鳥越俊太郎さんの発言

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二つのことを申し上げます。一つは、皆さんもお気づきでしょうが、現在の安倍政権は戦後最悪の政権です。特定秘密保護法をはじめ、集団的自衛権の閣議決定や安保法制、そして今回の共謀罪と、次々と悪法を提出して数に任せて国会を通過させて成立させています。

こんなことは過去にはなかった。かつては自民党の中からでも必ず反論が出て、それは国民のもっと大きな共通の課題となった。しかし、今はとんでもない悪法が出てきても、自民党の中で議論さえ起きない。法務大臣が何一つ答えられない状況の中でもどんどん審議が進んでいく。

そういう状況の中で、私たちはとんでもない時代の曲がり角に生きている、ということを皆さんに自覚して頂きたいな、と思います。私は戦後70年ずっと見てきて、そういうふうに思います。

今回の共謀罪の最大の問題は、警察、公権力が私たちの内面に侵入してきて、私たちが何を考えているのか、何をしようとしているのか、いろんな手を使って察知して、それに対して何らかの手を加えていく。

おそらく背景には、日本の警察がオウム真理教によって、サリンを撒かれた、という失敗の歴史が一つあると思います。それからもう一つは、今、日々世界中で、ヨーロッパ・中東を中心として起きているイスラム過激派によるテロ行為。こういうものが何となく、日本人の中に「怖いな」というような不安感を呼び起こしている。さらにもう一つ付け加えるとすれば、北朝鮮をめぐる一連の報道。「北朝鮮なんとなく怖いよね」、なんとなくテロにつながるんじゃないかと、今は戦後一番、こういう不安感が社会の中にみなぎっている時代です。 

世論調査でも法案に賛成の方が結構いらっしゃる、という状況を作り出している。だからこそこうやって私たちは皆さんに呼びかけて共謀罪の実態を知って頂きたい。これが第一点です。

もう一点、私はこの共謀罪の話を聞いているとですね、小林多喜二の死を思い起こします。小林多喜二という作家は1933年、築地警察署で亡くなりました。彼は何か犯罪行為をやったんでしょうか。やっていません。共産党への献金ということで捕まりました。さらに彼の書いたものが不敬罪にあたるということで起訴されました。そして最後は治安維持法によって築地警察署の中に長く勾留されました。

その間に、最終的には、母親が遺体を見たときに全身真っ黒に膨れ上がっていた。棒で殴られて拷問されて亡くなった、ということが歴史的に明らかになっているわけです。これは遠い昔の話のように思えますけれども、今の「共謀罪」法案は、何も犯罪を犯していない、しかし彼の思想が危険だ、誰かと共謀したら何か事件が起きてしまう、それを事前に捕まえて逮捕してしまおうと。戦前の時代と全く同じとは思いませんけれど、基本は一緒です。犯罪を犯さないでも、何か考えていること、誰かと話していることが、共謀罪という形で警察に認められて逮捕されてしまう。

そういう時代がこの共謀罪がもし成立すれば来てもおかしくない。したがって、戦後最悪の国民の自由に対する挑戦である共謀罪は何としても食い止めなければならないと思っています。ぜひ皆さんもその辺をご理解の上、繰り返し共謀罪について報道して頂きたいと思います。

興味深い4月25日の朝日新聞の報道

共謀罪については、4月25日の朝日新聞が大変興味深い報道を行っていた。見出しは「『共謀罪』ばらつく賛否 報道各社世論調査 質問の文言も影響か」。この間、いろいろな世論調査で共謀罪法案への賛否を問うとかなりばらつきが出るのだが、これは設問のしかたに負うところが大きいのではないかというのだ。つまり政府が行っているような、東京五輪を控えてテロ対策として出てきた法案だという説明を行ったうえで賛否を問うと、賛成がどんと増える。逆に、犯罪を実行しなくても計画段階で処罰できる法案だという説明をすると反対が増える。

こんなふうにぶれが出るのは、要するに法案について国民が知らされておらず、自分なりの意見を持つに至っていないため、設問の説明に左右されてしまうというわけだ。確かに、その意味では、まだ安保法案のほうがわかりやすかった。

問題は、国民の大多数がまだ中身について理解していない段階で、強引に賛成多数で成立させてしまおうとしている政権与党の国会運営だ。民主主義がこれほど抹殺されている時代は過去なかったのではないだろうか。

実はこの会見に先立って、冒頭、会場でちょっとした議論があった。反対アピールの文面に当初、「正直に申し上げますが、もう遅きに失したかもしれません」という一文が入っていたのだが、発言予定の出席者で、あくまでも廃案を求めていこうとしている時に、こういう弱気の文言をアピールに入れるのは反対だという声が多く、急きょその文言が削除された。取材陣に配布されたペーパーにはその文言が入っていたのだが、岸井さんが読み上げる際に「この一文は削除します」と説明した。

確かに国会の議席数からいうと法案はこのままでは成立してしまう恐れは高いのだが、復興大臣の失言で国会審議が一時停滞するといったことを含めて、まだ何が起こるかわからない要素もある。また会見でビデオニュースの神保さんが発言していたが、今後、警察の権限が飛躍的に拡大する恐れがある状況下で、どのくらい反対の声があがるかというのも大きな意味を持つ、あきらめずに声をあげることが大切だ。

4月末までに衆院通過という当初の政権与党の思惑は何とか回避されたが、今後国会審議が本格化する過程で、どこまで市民の声が高まるかが重要だ。5月には反対運動も加速し、いろいろな抗議行動が連日展開される予定だ。勝負はあと1カ月といえる。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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