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TSUTAYAに送られた「黒子のバスケ」脅迫状の中身

篠田博之月刊『創』編集長

ツタヤが「黒子のバスケ」の関連商品を撤去することを決めたため、マスコミで報道がなされている。ツタヤに新たに脅迫状が届いたわけでなく、ここでも紹介した15日に届いていたものだ。また昨日、ツタヤが何かを発表したわけでもない。3日までに撤去という方針を現場に流したようなのだが、現場が早めに対応を始めたため、それを見たお客がネットに書き込み、マスコミが取材に動いたらしい。

ツタヤに取材をかけている新聞社などは脅迫状の中身を見せてほしいと言っているらしいが、ツタヤにしてみれば脅迫犯を刺激するからそれは難しいだろう。だから代わってこのブログで紹介する。というのも、以前も書いた通り犯人は各所に送った脅迫状を全部『創』宛に送ってきている。犯人によると、送付先は500カ所を超えているという。届け出があって警察が確認・把握しているものだけで200と言われるから、犯人が500以上送ったというのは誇張ではないだろう。

ツタヤに送られた文書は「告 ジャンプショップ アニメグッズ店 書店及び業界団体 CD店及び業界団体 ゲーム店」と書かれたものだ。署名は「黒子屠殺委員会別動 黒報隊一同」。つまり赤報隊をもじった脅迫状だ。「黒子のバスケは反日的である」という書き出しからして「え?」という感じの文書なので、ここで全文公開する必要はないだろう。

大事なポイントのみ指摘しておきたい。

今回、ツタヤがなぜ「3日までに撤去」としたかというと、実は犯人が送っている脅迫状にはある種のメッセージが幾つかあり、そのひとつが11月4日という日付だった。ツタヤ宛の文書では「期限は今年度の明治節の翌日だ」。それまでに黒子のバスケ関連商品の取り扱いを中止しないと「貴様らを火もしくは銃弾で処罰する」というわけだ。あるいは客を巻き込む形で危害を加えるという内容だ。ツタヤ側は「明治節」を調べて、それが11月3日であることを確認したのだろう。私も脅迫状で初めて見てネットで調べた。

赤報隊をもじった脅迫状なのでわざわざ明治節なるものを持ち出したのだろうが、実はややこしいことに同じ15日に送付された文書の中で、「怪人801面相」の署名のものにも同様の日付が出て来る。「X-DAYは藤巻の母校の上智の学園祭の最終日や」という表現だ。マスコミ各社に送られた犯行声明にはこちらが使われているため、マスコミはその話と混同しているのだが、実はこの上智大の学園祭の最終日も4日。要するに犯人は、脅迫をするにあたって期限を11月4日と設定しているのだ。

犯人の脅迫状全体を分析してみると、「怪人801面相」と「黒報隊」とは脅迫相手によって使い分けられているようだ。ツタヤなどへ送った上記文書のほかに、同じ趣旨の「黒報隊」の脅迫状は「各商業施設の運営者」「出版取次会社及び業界団体 大手通販会社及び物流拠点」「各展示場施設の運営者」に送られている。私は最初、ツタヤ宛の脅迫状は、文書の冒頭に「TSUTAYA」と固有名詞が書かれているのかと思ったがそうではなく、上記「告 ジャンプショップ~」のまま。どうやら犯人は、『創』に送って来た14パターンほどの脅迫状を大量にコピーし、封筒の宛先はそれぞれツタヤなどとしながらも、中に入れている文書は同じ文面のまま送っているようだ。

私も15日以降、この脅迫事件に関わるようになり、犯人の手口などがかなりわかってきたので、この間の脅迫状や犯行声明については、近々改めて全体構造を分析したものをアップしたいと思っている。昨日来、ツタヤの件を受けて、いろいろなマスコミから取材を受けた。きょうは「ミヤネ屋」とTBS「Nスた」で私の発言が紹介されていると思うが、ここで言いたいのは、この脅迫事件についてはきちんと社会の側が対応しないと、自粛の連鎖がとめどなく拡大する恐れがあることだ。

最初に商品撤去を決めたセブンイレブンの場合は、食品に毒物を混入されたという脅迫だから、やや過剰気味に対応して商品撤去を行うのも理解できないではないが、昨日来の動きで気になるのは、出版物とDVD、CDなどの撤去へと自粛が拡大していることだ。映画「靖国」の上映中止騒動などとよく似た構図になりつつあるのだ。出版表現の自由は、出版物がきちんと書店で流通することによって確保される。幸い、書店や取次は今のところ、店頭撤去には応じないという対応をとっているが、このまま自粛の連鎖が拡大すると、これはかなり深刻な問題に発展していく可能性がある。

映画「靖国」の時はマスコミが率先して表現の自由を守れというキャンペーンを張って、一時は上映全面中止にまで至った自粛の連鎖を押し戻した。今回は11月4日の期限へ向けて、脅迫状を受け取っている書店やコンビニ、さまざまな展示施設や商業施設などがどう対応するかがひとつの鍵になるだろう。脅迫状はもちろん「黒子のバスケ」のアニメ製作会社やそれを放送している局などにも送られている。

このブログは、この間、「黒子のバスケ」事件になんらかの形で関わっている人たちが熱心に見てくれている。ツタヤの担当者も既にこれを見てくれていた。新聞・テレビ関係者もこの事件を追っている人たちはよく見てくれている。もちろん警察も犯人も見ているはずだ。だから今後も、可能な限りここから情報を発信していこうと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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