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『スラムダンク』から『すずめの戸締まり』へ。新海誠監督も嬉しい「韓国での日本アニメ人気」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ソウル市内のビルに掲げられた『すずめの戸締り』ポスター(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

韓国で日本のアニメ映画の人気が止まらない。

例えば、年明け早々に公開された映画『THE FIRST SLAM DUNK』は今もロングラン・ヒットを続けて、ついには累計観客動員数400万人を突破した。

今も週末興行ランキング・トップ3の常連で、自ら塗り替えた韓国における日本アニメ長編映画の観客動員数を更新中。最近は芸能人やスポーツ選手など著名人たちが、わざわざ日本にやってきて『SLAM DUNK』ゆかりの地を訪ねる“聖地巡礼”がニュースになるほどらしい。

また、今月3月3日には公開された映画『鬼滅の刃~上弦集結、そして刀鍛冶の里へ編』が公開になり、韓国映画振興委員会の映画館入場券統合ネットワークのデイリーランキングで初登場1位に。公開から3週間が過ぎた今も、週末の興行ランキングのトップ10に入っている。

そして今、最もヒットしている映画が『すずめの戸締まり』だ。

3月8日から韓国で公開され前出のランキングでいきなり1位になると、その後もデイリーランキングで毎日1位。週間ランキングでも3週連続1位となり、昨日3月27日には累計観客動員数300万人を突破したのだ。

公開20日目での300万人突破は、前出の『THE FIRST SLAM DUNK』をはかるに凌ぐスピード。そして、この300万人突破によってとある“公約”が実現することになった。

新海誠監督の来韓が決まったのだ。

実は新海監督、今月3月8日にも『すずめの戸締まり』のPRのために来韓。その際に「観客300万人を突破したら、また韓国に来たい」と語っていた。

それからわずか20日で公約を実現することになり、韓国の日本アニメ・ファンたちも大いに歓喜しているわけだが、改めて感じ感じるの韓国における“新海監督人気”だ。

2017年2月に公開された『君の名は。』や、2019年10月に公開された『天気の子』も韓国で高く評価されたが、『すずめの戸締まり』の評はさらに良い。

韓国の最大手ポータル『NAVER』の映画記者・評論家による『すずめの戸締まり』の採点は、10点満点中7.79点。同じく『NAVER』評価で6.57点だった『天気の子』だけではなく、7.55点だった『君の名は』よりも高く評価されている。

映画雑誌『シネ21』の評論家採点も7.56。『すずめの戸締まり』は2011年東日本大震災をモチーフに作られた作品だが、「アニメーションが、喪失の兆候をいかに癒せるかについての素晴らしい答え」「災難で傷ついた世界を希望で覆う新海流の縫合術だ」と高く評価していた。

新海誠監督といえば「光の魔術師」とも言われる画風と、その映像美と融合した音楽が有名だが、韓国では彼が作品に込めたメッセージを高く評価する声が多く、その名には「日本アニメ界の巨匠」との冠詞がつくほどになっているほどなのだ。

もっとも、そんな「日本アニメ界の巨匠」もかつてはゲーム会社に勤め、不遇時代はアダルトゲームのオープニングアニメーションを手掛けたこともあった苦労人。

ただ、初の長編作品となった『星のむこう、約束の場所』が2005年のソウル国際漫画アニメーションフ・フェスティバルの優秀賞を受賞。韓国のアニメ・ファンたちの間ではこの頃からその名が知られるようになった。つまり、15年以上前から新海監督と韓国の関係は始まっていたのだ。

「僕の作品を初めて映画だと認めてくれたのは韓国の観客たち」とは、2019年10月に『天気の子』PRのために韓国で開いた記者会見で新海監督が放った言葉だが、新海監督ほど韓国のアニメ・ファンたちに愛されている“巨匠”もいないだろう。

2007年の『秒速5センチメートル』の際には自らの名を韓国語で書いたサインをファンに渡す気配りが話題になり、『君の名は』の公開に合わせて2017年に来韓したときは、「スタッフの中には韓国人もいます。僕にとって最も身近な外国ですね」と語った韓国愛が話題になったこともある。

今年3月に『すずめの戸締まり』のPRのために来韓した際もこんな発言をして、韓国のアニメ・ファンたちから多くの共感を呼んだ。

「韓国の観客が日本のアニメを好きになってくれて嬉しく思う。人気のその理由のひとつは、韓国と日本が少し似ていることがあるからではないかと思う。韓国に来ると日本と似ていると思うし、ある時は“懐かしい”と思うこともある。そのため韓国の観客が日本のアニメを楽しんでくださり、逆に日本では韓国ドラマをたくさん見たりしているのだと思う。日本と韓国は政治的には良い時も悪い時もありますし、それが繰り返されていますが、文化的にはお互いに強く繋がることを願っています」

(参考記事:「日本と韓国は似ている」訪韓した新海誠監督、日本アニメ映画が韓国でヒットする理由を明かす)

それだけに300万人突破でふたたび韓国にやってくる新海監督が、今度はどんなメッセージを発するかに注目と期待も集まっている。

報道によると公約を守るための来韓は4月下旬を予定しているということだが、その頃には『君の名は。』が韓国で打ち立てた累計観客動員367万3876人は楽に超えていることだろう。

もしかしたら今年2月に『THE FIRST SLAM DUNK』に譲った、韓国における日本アニメ長編映画歴代1位の座を、新海誠作品がふたたび取り戻しているかもしれない。

いずれにしても韓国の日本アニメ人気はまだまだ続きそうだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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