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NO JAPAN運動も吹き飛ばす『SLAM DUNK』、韓国での人気をリードしているのは誰か

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
『SLAM DUNK チャンプ』の表紙(写真=オンライン書店『YES21』より)

昨日発表になった週末の最新の全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)で、アニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』が6週連続の1位になったことが発表されたが、韓国でも『THE FIRST SLAM DUNK』は強かった。

韓国でも1位、記念コミックも1位!!

韓国で1月4日に封切られた同作は、公開から5日で累計観客数42万人を突破。映画振興委員会の統合システムによると、新年に公開された『スイッチ』(原題)と『長靴をはいたネコと9つの命』などを抜いてボックスオフィス1位になった。

韓国で『SLAM DUNK』が30年近く愛された作品であることは以前も本欄で紹介した。主人公の桜木花道は「カン・ベクホ」、湘北高校は「サンブク高校」と韓国風の名前で今も記憶されているが、特筆すべきは映画の枠組みだけに収まらないその熱狂ぶりだろう。

(参考記事: 韓国でも伝説『スラムダンク』の映画が来年1月に公開決定!実は日韓で違いがある?)

例えば出版界だ。映画の公開に合わせて1月に発売された『SLAM DUNK チャンプ』は発売と同時にバカ売れ。“韓国のアマゾン”とも言うべきオンライン書店『YES 21』の新年第一週ベストセラー1位を記録した。

『SLAM DUNK チャンプ』の表紙(写真=オンライン書店『YES21』より)
『SLAM DUNK チャンプ』の表紙(写真=オンライン書店『YES21』より)

また、“韓国の紀伊國屋書店”とも言える『教保(キョボ)文庫』によると、イラスト集や2018年に出版されたオリジナル完全翻訳版もふたたび売れ始めているという。

韓国『スラダン』人気は30~40代、キダルト族も

まさに韓国でも『SLAM DUNK』ブーム再燃といったところだが、このブームを支えているのは韓国の30代~40代の男性たちだと言われている。

大型シネマ・マンブレックスチェーンのCGVと“韓国のヤフー”ことNAVERの映画コーナーの集計によると、『THE FIRST SLAM DUNK』の観客の60%が30~40代の男性だという。教保文庫によると、単行本や関連書籍の購買層の比率に至っては30~40代が80%にもなるらしい。

30~40代と言えば、ちょうど彼らが中学・高校時代に『SLAM DUNK』が大人気。韓国ではコミック版が1992年~1996年に発売され、テレビアニメは1998年6月から1999年3月まで放映されたが、その頃に『SLAM DUNK』に夢中なった中高生たちが、『THE FIRST SLAM DUNK』に熱狂しているのだ。

しかも、単純な『SLAM DUNK』マニアだけではない。

韓国で『THE FIRST SLAM DUNK』は韓国語字幕によるオリジナル版と韓国人声優たちによる吹き替え版の2種類が公開されているのだが、その2作品を何度も見比べている鑑賞リピーターは多く、3セット(全24巻)合計35万ウォン(約3万5000円)はする「完全版プレミアムセット」を大人買いする“キダルト族”も多いという。

“キダルト族”とは、“kid(子供)”と“adaut(大人)”を組み合わせた造語で、「子供の頃の趣味や好きなものを大人になっても続けており、その趣味に大金を投資・消費することをなんとも思わない大人」を意味している。

言わば趣味のためなら“大人買い”も辞さない者たちを示すのだが、韓国では最近『SLAM DUNK』“キダルト族”たちが急増中。

芸能人にも多く、俳優のソ・ジソク(1981年生まれの41歳)、K-POP人気ボーカルグループだった2AMのチョン・ジヌン(1991年生まれの31歳)なども、SNSなどを通じて “SLAM DUNKマニア”であることを公言している。

『SLAM DUNK』に「NO JAPAN」は関係なし

「『THE FIRST SLAM DUNK』、学生時代に憧れたロマンだった…」

「『SLAM DUNK』は私の人生最高作品であり、本当に愛しています」

「僕の人生こそ『SLAM DUNK』です」。

映画を語るオンラインコミュニティには30~40代とおぼしき男性たちの賛辞であふれているのだが、『SLAM DUNK』人気が思わぬところで炎上した例もある。

「NO JAPANで見るかやめるか迷ったが、とても意味ある漫画なので見ないわけにはいかなかった。みんな、時間があるなら大きな画面と迫力あるサウンドで見るべき」

とあるオンラインコミュニティにアップされたこの一文がさまざまなSNSで共有され、『SLAM DUNK』が2019年頃に韓国で起こった日本製品不買運動「NO JAPAN」キャンペーンと関連づけて語られ、賛否両論が起きたという。

「なぜ日本のアニメを見るのか」「NO JAPANはもう終わったんじゃないのか」「日本不買運動を強要するな」「NO JAPANも重要だが、SLAM DUNKは好きなのだから仕方ない」

ネット上にはさまざまな意見が飛び交い、それを韓国の各種メディアも取り上げているが、韓国におけるNO JAPANキャンペーンはかなり前の段階で終わっており、有名無実化している。

新型コロナで両国の行き来が難しかったこの3年間、何度か韓国に足を運んだが、コンビニに行けば日本製缶ビールが売られており、日本の外食チェーンは変わらず人気だった。友人や知人から日本の即席ラーメンから薬品、健康食品を頼まれ、大量に買い込んで韓国に行ったことも一度や二度ではない。

ストア開店に関連書籍まで。人気はまだまだ続く

それだけにこの炎上騒動は『SLAM DUNK』人気に便乗した話題作りとも言えなくもないが、いずれにしても韓国での『SLAM DUMK』フィーバーはまだまだ続きそうだ。

今月1月26日には高級百貨店『THE HYUNDAI』で期間限定の『SLAM DUNK』ポップアップストアがオープン予定であるし、2月には映画のコンテや制作過程などの裏話が詰まった関連書籍も販売されるという。

それまで観客動員数を伸ばせば200万人突破も確実だろう。引き続き注目していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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