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イ・ビョンホンが語る映画『非常宣言』「ラスト解釈は人それぞれ。韓国でも議論」【独占インタビュー】

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
映画『非常宣言』

1月6日から全国ロードショウとなる映画『非常宣言』。同作は2019年の制作発表時から韓国で話題だった。

何しろ出演陣が豪華絢爛。主要キャストにはイ・ビョンホン(映画『KCIA 南山の部長たち』など)、ソン・ガンホ(映画『パラサイト 半地下の家族』など)、チョン・ドヨン(映画『ハウスメイド』でカンヌ国際映画祭女優賞受賞)、キム・ナムギル(映画『クローゼット』など)、イム・シワン(ドラマ『ミセン -未生-』など)、キム・ソジン(映画『モガディシュ 脱出までの14日間』など)、パク・ヘジュン(ドラマ『夫婦の世界』など)と、人気と実力を兼ね備えた主演級俳優たちをずらりと揃えたのだ。

(参考記事:「これぞワールドスター」イ・ビョンホン、ソン・ガンホやキム・ナムギルらと“豪華な集合SHOT”【PHOTO】

さらに、脚本と演出は『観相師 -かんそうし-』や『ザ・キング』などを手掛けたハン・ジェリム監督。“韓国映画界屈指のストーリーテーラー”が豪華な俳優陣とどんな作品を作るか、期待と関心が高まった。

実際、映画は2021年7月に行われた第74回カンヌ国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門にも公式招待されている。

そんな映画『非常宣言』の見どころを、主演俳優のひとりであるイ・ビョンホンに聞いた。独占インタビューの内容をここに紹介する。

無差別バイオ・テロに立ち向かう“空の人々”と“地上の人々”の物語

「映画『非常宣言』をジャンル分けするのは難しいですね。ただ、強いて言うならば災害映画、つまりパニック映画のひとつに分類できるかもしれませんね」

イ・ビョンホンに最初に聞いたのは映画のジャンルのことだ。映画のタイトルとなっている「非常宣言」とは、航空機が何らかのトラブルによって正常な飛行が不可能だと判断した場合に、機長が軟着陸などを決断する緊急事態宣言(日本では「エマージェンシー宣言」とも言う)のこと。

すなわち『非常宣言』は航空パニック・ムービーとジャンル分けでき、映画は無差別バイオ・テロに襲われ一大パニックに襲われた航空機機内が舞台になるが、イ・ビョンホンが演じるのは機長でもなければ管制塔の司令官でもない。

「乗客のひとりという役回りです。それも飛行機が苦手な中年男性で、娘のために仕方なく搭乗するが、その飛行機の中で事件が起きて物語が動き出します」

劇中でイ・ビョンホンが演じるジェヒョクは、アトピーを患う娘の治療のために仁川(インチョン)発ハワイ行きの航空機KI501便に乗る。搭乗前に彼の姿を見たKI501便の副機長チェ・ヒョンス(キム・ナムギル)が何やら意味深な表情を浮かべるが、ふたりの関係は物語が進むことによって明かされていく。

「ヒョンスだけじゃない。ジェヒョクは空港で怪しい若者(イム・シワン扮)にも出くわします。それを客室のチーフパーサーであるキム・ヒジン(キム・ソジン扮)に警戒するよう進言するのだけど、やがて機内で謎の死者が出て、それが無差別バイオ・テロだとわかって機内は絶望的なパニックに陥っていきます」

その頃、地上では第一報を受けた韓国の国土交通省キム・スッキ長官(チョン・ドヨン扮)や大統領府のパク・テス国家危機管理センター室長(パク・ヘジュン扮)などが事態の収拾に動く。

特に必死なのは事前に航空機テロの通報を受けていたベテラン刑事ク・イノ(ソン・ガンホ扮)だ。彼にはこの事件を解決しなければならない理由があった。

無差別バイオ・テロに襲われ一大パニックに陥った航空機で災難に立ち向かう“空の人々”と、その事態収拾に奔走する“地上の人々”。まさにパニックに次ぐパニックが連続する中、地上と空の両方でさまざまなドラマが起きるのだ。イ・ビョンホンも語る。

「ジェヒョクが機内で抱く戸惑いや恐怖は、機内にいたほかの乗客たちの気持ちと共通します。つまり、ジェヒョクは機内の乗客たちの心理を代弁する立場にあった。演技するに当たってはその心理をリアルに代弁することを、とにかく意識しました」

映画『非常宣言』より(2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.)
映画『非常宣言』より(2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.)

恐怖に怯える大衆心理を演技するイ・ビョンホン。これまで彼が演じてきたキャラクターにはなかった一面だ。

イ・ビョンホンと言えば、『美しき日々』『オールイン 運命の愛』といったドラマで第一次韓流ブームを牽引し、『G.I.ジョー』シリーズや『REDリターンズ』『マグニフィセント・セブン』といったハリウッド映画でも活躍し、韓国人俳優ハリウッド進出の先陣を切った人物。

映画の魅力は「余白」にある

最近は世界的にヒットを呼んだNetflixオリジナルシリーズ『イカゲーム』にナゾのフロントマンとして特別出演したり、ヒューマンドラマ『私たちのブルース』で荒っぽいけど情に熱いなんでも屋を演じたりと、ジャンルを問わずさまざまな作品に挑戦し、毎回新たな一面を見せてることで有名だが、『非常宣言』でも多くの共演者たちとともに、これまでにない役柄を見事に演じた。

特にイ・ビョンホンにとって、ソン・ガンホとチョン・ドヨンは戦友のような存在。ソン・ガンホとは『JSA』『グッド・バッド・ウィアード』『密偵』で、チョン・ドヨンとは『我が心のオルガン』『メモリーズ 追憶の剣』『白頭山大噴火』で共演し、いずれの作品でも名シーンを演じてきた。イ・ビョンホンは語る。

「ソン・ガンホさん演じるク刑事やチョン・ドヨンさん扮するキム長官と僕が演じるジェヒョクがどう絡むかについてはネタバレになってしまうので詳しくは話せませんが、これだけは言っておきたい(笑)。

3人それぞれのラストカットをどう受け止め解釈するか、ハッピーエンドなのかサッドエンドなのかなど、観客によって見方や感じ方は異なると思います。韓国でも映画を観終わったあと、観客たちの間でいろんな議論が起きました。ただ、僕はそこに映画の魅力というか、“余白”があると思ってます」

―余白、ですか?

「ええ。映画の上映時間が長くても2時間強。その時間内で登場人物のすべてを見せることは不可能だし、あえてそうしようともしない。登場人物の人生の一部だけを切り取って物語が展開されますよね?でも、だからこそ映画って見終わったあとも余韻が残るし、僕はそれは“余白”だと思っています。見る側にいろいろと想像もさせるから、人によって解釈もそれぞれ。つまり、余白を埋めるのは観客たちだと思うんですよ。『非常宣言』についてもぜひご覧いただき、その結末について想像力を働かせ、“余白”を埋めてくれればと思います」

(写真提供=BHエンターテインメント)
(写真提供=BHエンターテインメント)

■イ・ビョンホン プロフィール

1970年7月12日生まれ。1990年にKBS公開採用14期生に合格し、ドラマ『アスファルト、我が故郷』でデビューした。2000年に公開された主演映画『JSA』は韓国でメガヒットし、社会現象に。2004年にドラマ『美しき日々』が日本で放送され“韓流四天王”のひとりとして第一次韓流ブームの牽引役に。紅白歌合戦・特別ゲスト(2004年)、韓国人俳優初の東京ドーム単独公演(2005年)など快挙も多く、2009年には『G.I.ジョー』でハリウッド進出。『REDリターンズ』『ターミネーター:新起動/ジェニシス』『マグニフィセント・セブン』などにも出演し、第88回アカデミー賞(2016年)では韓国人俳優初のプレゼンターも務めた。映画では『王になった男』『インサイダース』、ドラマでは『IRIS-アイリス-』『ミスター・サンシャイン』など代表作多数。最近は『KCIA 南山の部長たち』『イカゲーム』『私たちのブルース』など、幅広いジャンルの作品で存在感を放っている。

映画『非常宣言』2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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