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カーリング最終予選で藤澤五月vsメガネ先輩ふたたび。チーム・キムの「どん底と復活」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

オランダで行われているカーリング北京オリンピック最終予選。12月11日からは女子部が始まった。上位3チームに与えられる北京五輪への出場権をかけて熾烈な順位争いが予想される中、期待を集めるのはカーリング女子日本代表だろう。

2018年平昌五輪で「そだねー」旋風を巻き起こし、スキップの藤澤五月など一躍人気者になったロコ・ソラーレが9月の日本代表選考会を制して日本代表に返り咲いて今回の最終予選に挑んでいる。

現地時間で12月14日に行われたラトビア戦を終えて、ロコ・ソラーレは4勝1敗で暫定2位にある。

そのロコ・ソラーレが本日に対決するのが、韓国の“チーム・キム”だ。

チーム全員が同郷で姓も「金(キム)」ということで“チーム・キム”の愛称で親しまれ、スキップであるキム・ウンジョンなどはその風貌から“メガネ先輩”と呼ばれアイドル並みの人気を誇ったことは2018年の平昌五輪時に日本のメディアでも多くのメディアで取り上げられていたため、その名を覚えている人も少なくはないだろう。

とりわけ日本のスキップを務める藤澤五月と韓国のスキップを務めるキム・ウンジョンの人気は、両国で加熱した。

韓国では藤澤五月が人気女優パク・ボヨンに似ていることも話題になり、日本でもキム・ウンジョンが“メガネ先輩”と呼ばれる所以が漫画『スラムダンク』にあるということを知り親近感を覚えた人々も多かった。その結婚が大きなニュースになったほどだった。

(参考記事: 祝結婚…メガネを外した“メガネ先輩”のウェディングドレス姿が美しすぎる!!【PHOTO】)

メガネ先輩の結婚とパワハラ告発

ただ、メガネ先輩とチーム・キムのその後は、試練の連続だった。

というのも、平昌五輪で国民的アイドルになった彼女たちだが、大会閉幕から1年も経たない2018年10月に、所属した慶北(キョンプク)体育会理事でもあった韓国カーリング協会副会長や、その娘と娘婿でコーチでもあったふたりからパワハラがあったことを告発。賞金横領などもあったその衝撃過ぎる暴露内容は韓国社会に大きな波紋を残した。

このパワハラ告発騒動でチーム・キムはまともにトレーニングもできない喧噪の中にさらされ、キム・ウンジョンも結婚・出産のためにブランクを置いたことで、チーム・キムも失速。

2019年は国内のライバルだった春川(チュンチョン)市庁チームに代表の座を明け渡し、2020年世界選手権出場切符も長年のライバルでそのビジュアルがK-POPガールズグループ「Girl's Day」(ガールズデイ)を連想させるとして“カールズデイ”と呼ばれる京畿道(キョンギド)庁チームに譲っていた。

平昌五輪で一躍、国民的アイドルとなった“チーム・キム”だが、“過去の人”になりつつあった。この当時のことをチーム・キムのメンバーたちは「どん底だった」とも振り返っている。

ママになったメガネ先輩と復活したチーム・キム

そんなチームをふたたび生き返らせたのは、頼れるスキップでもある“メガネ先輩”キム・ウンジョンだった。

2018年7月にスケート講師をしている男性と約5年の交際を経て結婚。2019年5月に男の子を出産した“メガネ先輩”は、ママさんアスリートとなって2019年秋から現場復帰。

同じ頃、平昌五輪で彼女たちを指導していたカナダ人コーチのピーター・ギャラント氏がチーム・キムに再合流。

ふたたび本来の“チーム・キム”が復活し、翌2020年11月に行われた韓国カーリング選手権大会兼国家代表選抜では春川市庁チーム、京畿道庁チームを連破して優勝。韓国代表の座に返り咲いた。

まさに2年前のどん底からの逆転劇で取り戻した代表の座でもあったが、“チーム・キム”はその後も試練が続いた。

韓国代表に返り咲いたものの新型コロナの影響により国内外で実戦経験を積める機会は少なく、所属していた慶北体育会との再契約にも失敗。同じ頃、韓国カーリング連盟では新会長選挙の内紛騒動もあって、“チーム・キム”は所属先からも連盟からも、まともな支援も受けられなかった。

2021年になってようやく江陵(カンヌン)市庁が“チーム・キム”を受け入れ、連盟も新会長体制になって落ち着いたが、5月にカナダのカルガリーで行われたカーリング女子世界選手権では苦戦が続いた。

出場14カ国中、6位以内までに北京五輪出場が与えられる同大会で、“チーム・キム”はスイス、RCF(ロシア・カーリング連盟)、アメリカ、ドイツに敗れる4連敗という最悪のスタート。

以降はスコットランド、イタリア、エストニア、日本、中国、スウェーデン、チェコに勝利して7勝6敗と勝ち越したが、直接対決で敗れたカナダ(6位)に押されて7位となり、北京行きまであと一歩届かなかった。

カナダで積んだ経験と“崖っぷち日韓戦”

ただ、それだけに今回の最終予選にかける意気込みは強く、5月の女子世界選手権以降、入念な準備も積んできた。

まず、8月に韓国カーリング連盟が外国人指導者を補強。ピーター・ギャラント氏だけではなく、元スイス代表監督でワールドカーリングツアー(カーリングの国際大会シリーズ)の会長であるアーミン・ハーダー氏を、男女を含めたカーリング韓国代表の総監督に迎えた。

9月にはコロナによって積めなかった国際経験と試合勘を取り戻すために、カナダへ。9月にはシャーウッドパーク・カーリング・クラシック、10月にはグランドスラム・カーリングマスターズに出場し、実戦感覚を磨きに磨いた。

そして11月にはスイスに飛んで現地で合宿をし、12月になって決戦の地オランダに入っている。まさに準備万端だ。

韓国ではそんなチーム・キムが最終予選で警戒すべき相手として、スコットランド、ドイツ、イタリア、トルコなどが挙げられていたが、その中でも多くの文量を割いて紹介されていたのが日本だ。

『OhmyNews』も次のように展望している。

「伝統のライバルである日本は注意しなければならない相手だ。男女はもちろん、ミックスダブルスでも最終予選という崖っぷちで韓日戦がある。女子は平昌五輪でチーム・キムと名勝負を演じたロコ・ソラーレ(スキップ藤澤五月)が出場し、韓国と崖っぷちの対決を展開する」

そしてついに対決することになったロコ・ソラーレとチーム・キム。両チームが対決するのは平昌五輪以来、実に3年10か月ぶり。

平昌五輪では予選でロコ・ソラーレが7-5で勝つも、準決勝では延長戦の末にチーム・キムが勝利した。その後、日本は銅メダル、韓国は銀メダルを獲得している。

チーム・キムは現在、ラトビア(〇10-4)、トルコ(●7-12)、ドイツ(○10-8)、スコットランド(〇8-4)、イタリア(〇7-1)、エストニア(〇10-5)の5勝1敗で暫定1位にあり、ロコ・ソラーレとの試合結果次第では北京行き直行となる1次リーグ首位の座がグッと近づくことになる。

それだけに多くの韓国メディアも「チーム・キム、運命の韓日戦へ」(『MBCニュース』)、「チーム・キム、藤澤率いる日本と再対決」(『朝鮮日報』)と報じて関心が高いが、はたして。

いずれにしても女子カーリング日韓戦が盛り上がることは間違いなさそうだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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