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BTS(防弾少年団)のメンバーも!! 『村上春樹のせいで』韓国でも多いハルキストたち

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

韓国文学が今、日本で人気だ。多種多様な作品の邦訳が相次ぎ、かつてないほど熱い注目が注がれている。

ブームの火付け役となった『82年生まれ、キム・ジヨン』は、出版元の筑摩書房によると発行部数が21万部を突破したという(10月1日時点)。10月9日から女優チョン・ユミ、俳優コン・ユが主演を務めた同名の実写映画が劇場で封切られたこともあり、その勢いはまだまだ続きそうだ。

フェミニズムをさまざまな角度から読み解く韓国の文学作品が、デザイン性の高い表紙に包まれて日本の読者を惹きつけている。このようなブームを見てふと思い出すのは、十数年前の韓国の出版業界だ。

実は韓国でも、日本と似たようなブームが起きている。吉本ばななや村上龍、江國香織、奥田英朗、東野圭吾、宮部みゆきなど、数多くの日本人作家の作品がベストセラーの常連になり、愛されていた。ドラマや映画など映像化された作品も多い。

(関連:日本作品が原作の韓国映画、その“本当の評判”と成績表を一挙紹介)

中でも圧倒的な人気を誇るのが村上春樹だ。韓国には『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』をはじめとする村上春樹の全作品が翻訳されており、特に『ノルウェイの森』は韓国人が最も愛する外国文学作品と言われるほど。日本同様マニア層が厚く、ヒットが保証される作家のひとりだ。

日本で村上春樹の新作が発表されれば、韓国の出版業界も沸く。

例えば、『騎士団長殺し』が発売された2017年には、韓国内で版権確保をめぐる各出版社の心理戦が繰り広げられた。そうした末にリリースされた翻訳版は先行予約販売だけで3刷り30万部を突破し、発売から3週間で50万部を突破。日本と同じく村上春樹フィーバーで業界が賑わった。

2018年にも短編小説『納屋を焼く』(1983年)を原作とした実写映画『バーニング 劇場版』が公開されたり、エッセイ集『ランゲルハンス島の午後』(1986年)の中で用いられた造語「小確幸」が流行語1位に選ばれたりと、韓国人の日常に少なからず影響を与えている。

韓国には村上春樹のファンを公言する有名人も多い。

K-POPボーイズグループBTS(防弾少年団)のRMが代表的だ。彼は5thミニアルバム『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』が発売された時、発売記者会見に登壇する直前まで『騎士団長殺し』を読んでいたと明かした。

また、収録曲の『Sea』が「希望のあるところには必ず試練があるものだから」という『1Q84』の文章からインスピレーションを受けたと説明し、村上春樹から相当な影響を受けていることを如実に示したことがある。

韓国の人気作家の中にも“ハルキスト”は多い。韓国の20代〜30代の女性たちの「ロールモデル」とされる人気作家イム・キョンソンは15歳の頃から村上春樹の著書の愛読者で、以前は自分のことを「村上春樹のストーカー」と紹介していたほどである。

専門家の評伝を待ちきれずに数々のエッセイまで発表しており、10月22日にはそれらが『村上春樹のせいで:どこまでも自分のスタイルで生きていくこと』(季節社)というタイトルで日本で翻訳出版されるという。

今では日本文学が一つのジャンルとしてすっかり定着した韓国と、韓国文学が盛り上がっている日本。今後、文学作品を通じて新たな日韓交流が広がってほしいと願う。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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