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元KARAのク・ハラを苦しめ追い詰めた「悪プル」とは。再燃する実名制問題

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
故ク・ハラ(写真=SPORTS KOREA)

韓国はもちろん、日本でも絶大な人気を誇ったガールズグループKARAの元メンバーで歌手のク・ハラが11月24日に自ら命を絶った。

続報や関連報道が日本でも連日のように報じられているのでここでは言及を避けるが、今、韓国で議論されているのがインターネット上に氾濫する「悪プル」の規制だ。

悪プルとは「悪性Repl(リプライ)」の略語。日本で言うところの悪質コメントや中傷リプのことで(以降は「悪質コメ」とする)、ク・ハラは自身のSNSや執拗に寄せられる悪質コメに苦しんでいた。

ク・ハラだけではない。先月10月14日に自ら命を絶ってしまったガールズグループf(X)の元メンバーだったソルリも悪質コメに悩まされていた。仲の良かった友人同士で知られていたク・ハラとソルリは、くしくも同じ悩みを抱えていた。

(参考記事:元KARAク・ハラが残した“メッセージ”…なぜ韓国アイドルの死が相次いでしまうのか)

こうしたことから韓国では今、悪質コメの規制強化が提起されており、「インターネット実名制」の必要性が叫ばれている。

「インターネット実名制」とは、インターネット利用者の実名と住民登録番号(日本のマイナンバーのようなもの)が確認できてこそ、ニュースのコメント欄や掲示板に文を残せるという制度だ。

10月に韓国の世論調査機関リアルメーターが実施した『オンライン書き込み実名制の導入に対する国民世論調査』では賛成が過半数を大幅に超えた。韓国の19歳以上の成人502人を調査した結果、「非常に賛成(33.1%)」「賛成するほうだ (36.4%)」の合計が69.5%だった。

逆に「非常に反対(8.9%)」と「反対するほうだ(15.15%)」は合計24.0%。「無回答」は6.5%だった。

もっとも、韓国でインターネット実名制の導入については2008年にも議論された。そのキッカケとなったのも有名芸能人の自殺だった。

1990年代を代表するトップ女優のチェ・ジンシルが40歳の若さで自ら命を絶ってしまったのだ。その理由のひとつが、彼女がネット上に流布されたデマや悪質コメントだったことから、国会でサイバー侮辱罪やインターネット実名制に対する立法が推進された。

ところが2012年に憲法裁判所が違憲という判決を下した。憲法裁は当時、「表現の自由は民主主義の根幹となる重要な憲法的価値だが、実名制はインターネット利用者の匿名表現の自由を過度に制限する」として、「実名制施行以後、名誉毀損などの不法情報が効果的に減少したという証拠もない」ことなども理由に挙げこの制度を廃止した。

だが、もはや事態は深刻だ。実名制のような何か強い規制がなければならないことは、今や明らかなのだ。

ある芸能界関係者は『スポーツソウル』の取材に「実名制は現実的に効果がなくとも、議論されること自体がメッセージになりうるし、悪質コメントで他人を弄ぶ輩たちに警戒心を与えることもできる。一日も早く現実的で実効性のある制度作りを行われなければならない」と語っている。

実際に動き出しているところもある。

例えば韓国のポータルサイト2位のDaum(ダウム)はソルリが亡くなったあとの10月25日、「ニュースと検索サービス改編計画」を発表し、芸能ニュースのコメント欄廃止を決定。年内中に人物検索の関連ワードサービスも廃止すると発表した。

タレントやアーティストなど芸能人たちも悪質コメに対して直接警告している。所属事務所もデマや悪質コメを流した張本人たちを法的に訴えるなど、強硬な態度を示している。

ちなみに韓国ではデマの流布行為が情報通信網法違反(名誉毀損)と認められれば、たとえそのデマの内容に事実があったとしても3年以下の懲役または3000万ウォン(約300万円)以下の罰金に処される。まったくのデマやウソ、フェイクであるなら、7年以下の懲役または5000万ウォン(約500万円)以下の罰金に該当する刑事処罰を受けることになる。

今年7月から強化施行されている「インターネットなどの情報通信網を利用した名誉毀損」は、一般的な名誉毀損よりも加重に処罰される量刑基準も設けられた。

今月11月初めに5人組ガールズグループBabyVOXの元メンバーだったシム・ウンジンに悪質コメを送り付けた者が懲役5ヵ月刑を言い渡され法廷拘束されている。

ただ、それでも処罰がまだ甘いという意見が多い。

とあるK-POP関係者は『スポーツソウル』の取材に対し、「悪質な書き込みは精神的なショックを与え、うつ病に近い症状にまで芸能人を追い込む。単なるいたずらと片付けられないほど度を越しており、それによる被害と波紋が大きいだけに、これからは明確な犯罪行為として責任を追及しなければならない。最近は善処なく告訴するケースが増え量刑基準も強化されたが、処罰はさらにもっと厳しく強化されなければならない」と主張している。

ただ、実名制のような法規制を強化したり、処罰のレベルを高めるだけでは解決しない。今求められているのは、書き込みや悪質なデマを作成する一部のネットユーザーの意識改善だろう。

これについては後日もう少し詳しく現状を紹介したいと思うが、いずれにしても制度的な法規制が持続的に行われ、ネットユーザー自らも悪質な書き込みを控え自己検閲できる環境作りが今、韓国社会に求められているのは間違いない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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