「東京五輪で多くの選手を輩出したい」在日スポーツ界が描く夢

左から宋修日氏、高智蓮選手、宋尹学選手(在日本朝鮮人空手道協会提供)

「朝鮮は東京五輪に参加する意思があります」と語った宋修日氏。朝鮮大学校(東京都・小平)の体育学部長を本業とする傍ら、在日本朝鮮人体育連盟の副理長として年に3~4回は訪朝し、かの国の体育省およびオリンピック委員会関係者と頻繁に協議を重ねてきた。

(参考記事:北朝鮮は東京五輪に出るのか。金メダル候補はいるのか? 重要人物が激白)

それゆえ、現地の事情にも詳しいが、宋氏にはもうひとつの肩書がある。

朝鮮空手連盟の副書記長。朝鮮民主主義人民共和国(以降、北朝鮮)では2000年に空手道連盟が発足し、2017年には世界連盟(WKF)に加盟しているが、宋氏は空手北朝鮮代表のコーチとしてだけではなく、日本風で言うと事務局長に近い立場で同国の空手普及に努めているという。

宋修日氏(撮影=一原知之)
宋修日氏(撮影=一原知之)

「ご存じの通り、朝鮮はもともとテコンドーが盛んですが、日本で生まれ育った我々在日同胞社会でも空手は人気で競技者が多い。私も学生の頃から空手に青春を捧げてきましたクチなのですが、そんな在日の空手家たちの努力もあって、朝鮮でも空手道連盟が発足しました。まだ広く普及しているとは言えず歴史も浅いですが、東京五輪で空手が正式種目となると決まって以降、強化に力を入れています」

東京五輪の空手は男女合計8種目。体重別(軽量級、中量級、重量級)の組手と演武を競う形が行われるが、五輪に出られるのは選考用ランキングの上位者のみ。1種目10名まで(1か国1名)という狭き門だ。

日本は開催国枠があるが、北朝鮮は世界予選や大陸枠で出場を勝ち取らなければならない。

「現状では世界ランク上位での出場権獲得は厳しい。一発勝負の世界予選での獲得も簡単ではないでしょうが、ワイルドカード的な扱いとなる第三者委員会枠というものがあります。我々はこの第三者委員会枠でも出場を目指しています」

その有力候補として期待されているのが、ふたりの在日選手だ。

ひとりが大阪出身の宋尹学(男子67キロ級)、もうひとりが長野県出身の高智蓮(女子61キロ級)。ふたりとも日本生まれ・日本育ちの在日3世ながら、朝鮮空手連盟の特別強化指定選手になっているという。

「日本で生まれ育ったふたりが朝鮮代表として東京オリンピックの舞台に立つ。これは私にとっても、ひとつの夢なんです」

自らが携わる空手だけではない。セレッソ大阪堺レディース出身で現在は日体大女子サッカー部に所属する李誠雅(リ・ソンア)、女子バスのアイシンAWウィングス所属の白慶花(ペク・キョンファ)など、女子サッカーやバスケットボールなど、さまざまな種目で在日アスリートたちが東京五輪の舞台に立てるように後押したいと宋氏は語る。

「日本ではまだ全国区ではありませんが、朝鮮の水泳選手権で背泳ぎ100メートル、バタフライ200メートルで優勝した長野出身の中学2年生・李慧京(リ・ヘギョン)選手というスイマーも出ててきました。男子サッカーでは朝鮮大学校サッカー部や全国の朝鮮高校サッカー部の選手たちが朝鮮代表を目指して平壌でのセレクション合宿に参加しています。ひとりでも多くの在日アスリートがオリンピアンとして東京五輪の舞台に立つ――。それが私たち在日朝鮮人体育連盟の目標でもあります」

そのために、在日本朝鮮人体育連盟がこの夏に立ち上げたのが「東京オリンピック・パラリンピック応援プロジェクト」である。同プロジェクトの事務局長も兼務する宋氏は説明する。

「名付けて“RAN-HONG FLAGキャンペーン”というプロジェクトです。RAN(藍)-HONG(紅)旗とは朝鮮の国旗を表すのですが、東京オリンピック・パラリンピックに出場する朝鮮の選手たちをさまざまな形で応援していこうという取り組みです。元Jリーガーの安英学さんら在日アスリートたちも、応援アンバサダーを買って出てくれています」

同プロジェクトではアスリート応援イベントはもちろん、北朝鮮や在日アスリートたちの存在を広く知ってもらうために朝鮮語・日本語・英語の3か国語で作られたガイドブックの制作も準備中らしい。

また、アスリートたちを応援するだけではなく、ボランティアや裏方など、さまざまな方法で東京五輪を盛り上げ、小さくても大会成功の一助になりたいと考えている。

「日本語も朝鮮語も喋れて、両国のことも知っている朝鮮大学校の学生たちが、ボランティアに150名以上エントリーしました。東京五輪組織委員会の関係者もとても好意的に受け止めてくれて、私も学生たちも俄然、やる気が湧いてきました。とにかく東京五輪に関しては夢が膨らむばかりなんです。やることが多くて大変ですが、1年後のことを思うと今から楽しみですね」